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自閉脳の働きグセ

ニキリンコ

 「1000字提言」というタイトルで連載を頼まれたとき、最初は「そんなの無理だわ」と思いました。「提言」なんていうと、なんだか難しそうなことを書かなきゃいけないみたいに見えたからというのもあるんですが、もうひとつ、大きな理由があります。その理由こそ、まさに、自閉の本質にかかわってくるものなんです。
 何かを提言しようと思ったら、まず、問題に気づかなくてはなりません。ここまではいいんです。気づくとこまではできそうです。さて次に、改善策を思いつかなきゃなりません。これも、思いつくだけならなんとかなるかもしれません。けど、これが本当に改善策になってるのか、これで本当に「くらしやすさ」に近づくのかを確かめようと思ったら、「使用前」と「使用後」を見くらべなくちゃいけません。美容器具の通販広告なんかに写真が2枚並んでる、アレです。ところが、この「見くらべる」ってのが、私にとっては大変なのです。そしてそれは、私の頭部に搭載されてる脳が自閉仕様に設計されてるせいなのです。
 機械にも機種によっていろいろクセがあるように、脳にもクセがあります。「ヨシの髄から天井のぞく」という表現がありますが、私に言わせたら、これこそ自閉脳の〈働きグセ〉をぴったり言い表したフレーズだと思います。まあ、ヨシじゃあ細すぎて極端なので、トイレットペーパーの芯くらいにしておきましょうか。自閉脳搭載型の人々は、目の視野は平均的な広さでも、注意の視野がトイレットペーパーの芯なのです。ということは、「使用前」「使用後」の写真を見くらべるには、いちいち芯を動かさなくてはなりません。これじゃ、自分の思いつきが本当にちゃんと「提言」になってるのか、逆効果にならないか、検証するのが一苦労なのももっともでしょう?
 自閉脳搭載者は、やたらと細部をよく見ています。それも、すべての細部を見てるわけじゃなく、たまたま注意の視野に入った細部だけを、強烈に吸収し、心にとどめています。「木を見て森を見ず」ということばがありますが、木どころか葉脈を見ていたり、木の皮の模様を見ていたりします。
 援助する立場の方々としては、実際に表れるトラブルのパターンのほうが目につくでしょうが、たまにはこうして脳の働きグセから順に考えていくと、パズルのピースがつながることが多いんじゃないかしら、というのが私の提言です。これから、そのお手伝いをしていく予定です。

(翻訳家)