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ほんの森

もう施設には帰らない 2
―知的障害のある15人、家族・コーディネーターの声―

「10万人のためのグループホームを!」実行委員会編

評者 佐藤彰一

 本書の前作『もう施設には帰らない』は、21人の障害者本人の語りを支援者が聞き取り、活字にしたものであった。どの語りもそれぞれの人生が刻まれており、多くの人々の感動と共感を呼んだ。本書は、その続編である。前書では、脇役であった親と支援者が今回は主役である。15人の家族の声とそれぞれにかかわりを持っているコーディネーターからの手紙がセットになって読者を待っている。登場する人々は、北は北海道から南は沖縄まで。離島に住んでいる方もいる。知的障害の種類も一様ではない。しかし、すべての方が世間一般の方からみれば「重度」の障害者の家族であって、その人々が、力強く地域の中で生きる姿は、読者に勇気と元気を与えてくれる。地域支援療育事業(いわゆるコーディネーター)と連携すれば、障害者に対してすばらしい支援活動が行えることを描ききることに成功しているといえよう。
 加えて、巻頭と巻末には用意周到な「まえがき」と「あとがき」があり、家族とコーディネーターの声の響きあいの合間に、レスパイトやデイサービス、ホームヘルプなど地域生活を送るうえで欠かせない支援についてのこぎみよい解説があって、本書全体にリズムを与えている。評判の良かった前作を超えて、さらに評判を呼んでいるのもうなずける内容である。
 脱施設は簡単なことではない。が、不可能なことではない。本書を読めばそれを実感する。それは魔術でも奇跡でもない。既存の社会的資源の組み合わせと工夫である。しかし現状では、その工夫はいささか「しんどさ」が伴う。加えて、地域で暮らすことは「施設の外で暮らす」ことで足りるわけではない。人里はなれた山奥にぽつんと一軒家を借りこんで、4人程度のグループホームを作っても、それは地域生活にはならない。人々と関わりあいをもつこと、社会生活を何らかの形で行っていけること、これが重要であろう。コーディネーターは、家族や本人を孤立させない。孤立しないから、既存の社会的資源の組み合わせが、単なる寄せ集め以上の意味をもち、「しんどさ」が「チャレンジ精神」に取って代わられる。
 本書の次の企画はなんだろうか。そんなことを考えてしまう。脱施設パート3である。親につづいて兄弟姉妹の声であろうか。地域生活の中での親離れ・子離れ(いわゆる脱家族)であろうか。いずれも本書の中で少し登場しているが、続編があるべきだ。この本は、そんな余韻を残す良書である。

(さとうしょういち 法政大学法学部教授)