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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

予算概要を見ての評価

障害者の雇用促進施策にかかる平成16年度予算概要から

関宏之

障害者の雇用促進施策は、職業安定局が所管する職業安定所や職業センターにおけるいわゆる〈職業リハビリテーション領域〉と職業能力開発局が所管する「職業訓練校」などにおける〈職業能力の開発領域〉とがある。

平成16年度予算概要では、職業リハビリテーション関連で33か所分の「障害者就業・生活支援センター」の設置が計上されている。生活支援ワーカーの配置は見送られたが、これでいよいよ地域福祉としての「就業・生活支援センター」80か所が全国で稼働することになり、関係者は溜飲を下げたところである。

このたびの〈予算概要〉で特筆すべきは、障害者のキャリア形成・キャリアアップに重要な役割を担う〈職業能力の開発領域〉において歴史的な転換を図られ、就職・転職を希望する障害者に対し、それに必要な技能や知識の習得を促し、企業の雇用ニーズに応える〈職業訓練内容や機会の拡充〉を具体化したことである。そのきっかけは、職業能力開発局が招集した「障害者職業能力開発研究会」にあり、現行の職業訓練が抱える問題点を指摘するとともにその改善策を示したが、その概要「研究会報告書」は関係者に大きなインパクトを与えた。

全国には都道府県立の「障害者職業訓練校」が19校、高齢・障害者雇用支援機構の助成金を受けて職業訓練を実施する特別委託訓練機関が18か所設置されている。しかしその実態は、地域偏在があって職業能力を開発する機会が全くないという県が30県もあるという事実、「職業能力開発」が指導内容や定員枠において硬直化しているという事実、があり、〈予算概要〉はその解消を図ることに重点が置かれている。

1.職業能力の開発機会を増やすとともに地域偏在を解消する

受講機会のない障害者や離職障害者へのキャリアアップの機会がないという事実に対して、公共職業訓練校(一般校)のバリアフリー化を図るなどして職業訓練の受講機会を拡大するためのモデル事業が発足する。アドバイザーを設置するなどして障害者の職業能力を開発する体制を整備するとともに訓練科目を整備して障害者の入校を促進し、また、訓練のノウハウを地域の事業主や社会福祉施設などに提供することとしている。

2.企業ニーズに対応した職業能力開発として〈委託訓練〉の実施

障害者雇用に実績のある企業(特例子会社、重度障害者多数雇用事業所、障害者雇用企業)、障害者の職業指導に実績のある社会福祉法人(授産施設など)、あるいは、障害者の就業支援を行っている特定非営利活動法人(NPO)、民間のビジネス関連の教育訓練機関などに職業訓練を委託する制度が全国で5,000人、11億円の予算をもって本格的に稼働する。障害者個々人に対応したさまざまな委託先を開発して能力開発が実施できるようコーディネーターも配置される。ちなみに、知的障害者の「ホームヘルパー養成事業」など格好のテーマになる。工夫次第で就業機会を加速させることができる。

障害者の就業に関して次のような現状がある。

公共職業安定所に新規に求職を申し込む障害者数は年々増加し続け、現在では15万人にもなっている。反面、企業に雇用された障害者の実雇用率(平成14年6月)は1.47%と15年ぶりに低下し、雇用者数も前年を下回った。しかし、障害者雇用率の適用除外率は、廃止をめざして平成16年4月から10ポイントずつ下げられることになっており、企業の一層の取り組みが求められている。一方、平成15年9月には、「情報公開法」に基づいて、東京と大阪で障害者雇用率未達成企業名が公表された。コーポレートガバナンス(corporate governance)あるいは企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を標榜した順法(compliance)に関する論議も盛んになり、障害者雇用を企業の経営理念とリンクさせた積極的な発言が多くなった。〈委託訓練〉の本格実施は、このような状況に対応できる新たな制度設計だと評価したい。

〈就業〉を無視した生活支援計画などあってはならないが、このたびの予算で「職業能力開発」が身近な存在になった。事業の実施主体は都道府県の労働部局であり、国が示した予算概要を地方自治体レベルで「障害者基本計画」や「重点施策5か年計画」と連動させながら、住民に近い社会資源としてどのように再構築できるのか、担当部局の意識や現状認識やそれぞれの地域の就業支援関係者の姿勢や力量が問われている。

図 障害者委託訓練スキーム(その1)(案)(能力開発局:2003.1.)

(せきひろゆき 大阪市職業リハビリテーションセンター・大阪市職業指導センター所長、特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワーク代表理事)