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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

列島縦断ネットワーキング

東京 障害者の介護保障のあり方を考える!『支援費・介護保険セミナー』開催

白沢仁

日本障害者センターは、2月1日(日)、東京・新宿区の戸山サンライズにおいて「障害者の介護保障のあり方を考える」をテーマに、『支援費・介護保険セミナー』を開催しました。当日は、北海道、鹿児島など全国各地から、障害当事者や家族をはじめ国会議員秘書・地方議員、自治体関係者、施設経営者、福祉労働者など、支援費・介護保険制度にかかわる関係者250人が参加し、同テーマに基づく学習・交流を深めあいました。

「介護」制度をめぐっては、2000年4月にスタートした介護保険制度と2003年4月からの支援費制度が実施されています。いずれの制度も、「措置」から「契約」など、従来の制度のあり方を大きく変更し、「介護の社会化」「自己決定の尊重」などの実現が強調されています。

障害者にとって、この二つの制度は別々のものでありながら、実態的には併用されているケースも多く、とくに65歳以上の障害者は「介護保険優先」ということから、被保険者として保険料を支払い、要介護認定に基づいて介護サービスを利用する、そのうえで必要に応じて支援費を含む障害者施策を活用できる仕組みになっています。

しかし、それぞれの制度実施の状況をみると、選択・契約できるだけのサービス基盤の未整備問題や要介護認定・障害程度区分が実態にあわない問題、保険料・利用料の負担増によるサービス利用を断念する問題など、「介護の社会化」「自己決定の尊重」などを実現するには程遠い状況にあり、多くの関係者から制度改善の必要性が指摘されてきています。

日本障害者センターでは、利用者・福祉労働者・経営者・自治体担当者・研究者のそれぞれの立場から介護保険制度と支援費制度の現状を検証し、制度改善に向けた課題を明らかにし、障害者の真の介護保障のあり方を考え合うことを目的にセミナー企画を昨夏より準備してきました。もちろん、二つの制度の「統合」問題も念頭に置き、どう受けとめ、対応すべきかの問題提起も準備をすすめてきました。

利用者の立場から報告した東京肢体障害者団体連絡協議会の羽賀典子さんは、自らの障害歴とヘルパー利用等の生活支援歴を踏まえ、障害状況に合ったサービス提供の大切さを強調しました。そのうえで、支援費の機械的で実態を無視した支給量決定基準の問題と介護保険との「統合」による負担増問題、障害者と高齢者のニーズの違いを無視したサービス提供等の問題を指摘しました。

福祉労働者の立場から報告した福祉保育労働組合神奈川県本部の荒井忠さんは、従来の措置制度から支援費制度への移行に伴い、自治体単独補助としての職員配置加算や経験年数加算等が廃止されるなど、労働条件・賃金保障に大きな後退がうまれており、生きがいや専門性をもって働くことの困難さを報告しました。また介護保険との「統合」は、こうした労働者としての問題をさらに悪化させる危険があると強調しました。

経営者の立場からは、埼玉県のみぬま福祉会・身体障害者療護施設「大地」施設長の高橋孝雄さんが報告し、不安定な支援費額によって経営の将来的な見通しが立たない問題とそのことによって、能力給・職務給の導入などの給与体系の見直しや利用者の整理(逆選択)などの経営リスクの軽減をすすめざるをえない問題などが指摘されました。またこのことは、すでに介護保険で実施され、さまざまな問題をつくり出してきているだけに、「統合」への懸念を強調しました。

前厚生労働省社会・援護局社会福祉専門官で、埼玉県障害者福祉課支援費担当の平野方紹氏は、「自治体における支援費制度の実施状況と課題―施行状況と自治体財政」をテーマとした講演の中で、昨年大きな問題になった支援費制度の財源不足問題について、「厚生労働省は利用者の急増に伴う支給量の増加を見誤った」と指摘しました。また、介護保険との「統合」では、同省の老人保健局・障害保健福祉部・自治体・事業団体等の推進論者それぞれの思惑が一致しておらず、全体像がみえにくい状況にあることを指摘し、「統合した場合でも、保険給付では対応できない部分への上乗せ、社会参加対策分、介護を要しない障害児者へのサービスは税方式での対応にならざるをえないのではないか」との見通しを示しました。

鹿児島大学教授の伊藤周平氏は、「徹底検証!介護保険制度と支援費制度―統合問題と真に利用者本位の介護保障の確立をめざして」をテーマに講演し、現行の介護保険・支援費制度の現状と問題点、統合によってもたらされる問題を指摘し、それぞれの制度の改革案を明らかにしながら利用者本位の制度確立への具体案を示しました。とりわけ「統合」問題では、保険方式の限界を指摘し、「第1号被保険者の保険料は逆進性が強い。保険料は所得に応じた負担制度にあらため、1割の利用料負担も廃止すべきであり、将来的には税方式への転換を図るべき」ことを強調しました。

「統合」については、今年1月早々からの介護制度改革本部の設置と具体的な見直し作業の中で急浮上してきており、支援費の制度実施から1年も満たない、しかも改善すべき課題が山積みになっている介護保険への「統合」に対し、多くの関係者から不安や疑問の声があがっています。

今回のセミナーは、まさにタイムリーな企画となり、それぞれの立場からの実態報告、現状分析と問題提起は、参加者の期待と関心に応えたものとなり、今後の介護保障のあり方に関する論議と実践にとって意味ある内容となりました。なお、セミナーの内容は、3月下旬に「本の泉社」からブックレットとして発行されます。問い合わせは日本障害者センター(TEL03―3207―5621、E-mail:center@shogaisha.jp)まで。

(しらさわひとし 日本障害者センター事務局長)