音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

列島縦断ネットワーキング

東京 福祉と技術の融合をめざして―ロボットの先端技術を活かして、電動車いすや歩行機器の改良に取り組む

橋詰努

1 国際シンポジウム「RTは安心を創造するか」

2月7日、早稲田大学で21世紀COEプログラム主催の「RT(ロボット技術)は安心を創造するか」という第1回国際シンポジウムが開催されました。このシンポジウムは、ロボット技術を福祉や医療など日常生活の支援に向け実用化するという問題意識で企画されたものです。当日は大学関係者や研究者・大学院生のほか、多くの企業や行政機関から約180人の参加がありました。

早稲田大学の白井克彦総長が、「科学技術は社会の統合の基盤になる。今後の社会の基盤となるのは、RTとITだ」と挨拶した後、米国MITのBrooks教授や、イタリアのDario教授など国内外の著名なロボット研究者が講演し、最後に東京都の幸田昭一福祉局長が「福祉と技術の融合」と題して講演しました。

幸田局長は、「科学技術の進歩が、社会生活を営むうえでハンディをもつ、障害者や高齢者などの生活の改善のみならず、精神をも豊かにするような21世紀の科学技術革命の展開に結びついてほしい」と前置きしたうえで、福祉機器の現状について、障害者の装具や電動車いすを例にあげて説明しました(写真1)。

写真1 講演する幸田昭一東京都福祉局長
写真1

「装具は子どもの頃から着ける人も多い。単に運動を抑制したり、固定したりするだけでなく、その人の筋力を補い、協調してアシストするようなパワーアシスト装具が望ましいが、実現していない」

「電動車いすの重さは平均して90Kg近く、人が乗ると優に100Kgを超える。重さの主な要因はバッテリーであり、しかも毎日充電が必要で利用者の負担が大きい」(写真2)などの事例が紹介されました。

写真2 電動車いすを持ち上げるのは大変
写真2

この後、福祉機器開発の課題として、

  1. 利用者の視点
  2. 残存機能の維持・向上と二次障害の予防
  3. 使って楽しいデザイン

の3点を指摘しました。

障害予防のものづくりに関連して、東京都老人総合研究所が開発した「転ぶ君」という機器を紹介しました。これは歩行ベルトのスピードを変えて転倒しやすい条件を作り、この上を歩くことにより転倒予防のトレーニングができるというもので、「従来の福祉機器とはひと味ちがう、これからの高齢者用機器としての方向性を示す好例」だと説明しました(写真3)。

写真3 助ける機器から鍛える機器へ、転倒を予防する「転ぶ君」
写真3

また、福祉機器は商品化の実現がポイントであるとし、マーケティング、マーチャンダイジングの必要性とともに、「いいものを作りさえすれば売れる」のではなく、買い手の立場にたって開発することが決定的に重要であると、開発する側の意識改革の必要性を訴えました。

最後に、「東京には、大学や民間企業、NPOなど多様な資源や技術があり、ポテンシャルは高い。東京都はコーディネーターとなって、これらの主体との橋渡しをしていく。東京から福祉の新たな展開をしていく」と締めくくりました。

2 都障害者福祉センターと早稲田大学の研究協定

東京都心身障害者福祉センターと早稲田大学は、昨年12月、「福祉機器の研究開発に関する協定」を結びました。これは、早稲田大学の持つロボット技術を応用して、高齢者・障害者が使いやすい福祉機器の開発をめざすものです。

研究テーマは、

  1. 高齢者の歩行支援機器等の開発
    寝たきりの原因になりやすい高齢者の転倒を防ぐ歩行支援機器等の研究開発
  2. 電動車いすの軽量化のための燃料電池等の開発
    軽量で長時間稼動できる電動車いす用燃料電池や傾いた路面でも電動車いす利用者の姿勢を安定に保つ装置等の開発
  3. 点字、触知図の改良
    紫外線硬化樹脂による読みやすい点字や触知図の製作技術等の開発

の三つで、研究開発期間は5年間です。

都障害者センターはこれまでの障害者の判定等を通じて蓄積してきた福祉機器等のユーザー側のニーズ情報や、研究の場を提供します。また研究開発への助言、試作品を評価するモニターの紹介、リハビリテーション専門職員による開発機器の評価などを行い、早稲田大学の研究を支援します。

早稲田大学は21世紀COEプログラムの一環として、福祉機器の研究開発と研究者の人材育成を行い、第1回に引き続きシンポジウム等を企画し、研究成果の情報発信を行います。

都障害者センターの土田富穂所長はこの研究協定の意義について、「早稲田大学は当初、先端技術を福祉に応用するとは思ってもみなかったようだが、前向きに取り組んでいただくことになり感謝している。しかし、結果が出なければ意味はないので、ぜひとも具体的な成果に結び付けたい。協定では福祉機器の開発が第一の目的であるが、併せて、行政という立場からすれば、学術研究の持つ社会的意義について常に心配りできる研究者の育成も期待できる」と述べています。

3 開発・改良ニーズのとりまとめと提案

都障害者センターでは、別表のように、「福祉用具の開発・改良ニーズのとりまとめと提案」を行い、都内の民間企業等に情報を提供し、福祉機器の改良に役立てていただきたいと思っています。普段の生活の中で福祉機器について不便を感じている障害者や高齢者の皆さん、福祉機器の改良開発を検討されている企業の皆さん、当センターのホームページをご覧いただいたうえ、お気軽にご意見ご要望をお寄せください。

都障害者センターは今後とも利用者のニーズの把握に努めて、福祉機器改良のための橋渡し役を果たしてまいります。

表1 福祉用具の開発・改良ニーズのとりまとめと提案(抜粋)

1 障害者、高齢者のニーズが高く、現在の技術水準で開発・実用化の可能性が高い研究・開発テーマ

1.高齢者が操作しやすい電動車いす操作装置

標準型電動車いすもしくはハンドル型電動車いすのハードウエアを基本として、高齢者が体感的・直感的に操作しやすい操作装置。

2.公共交通機関の利用に適したハンドル型電動車いすの開発

既存のハンドル型電動車いすの寸法・重量、回転性能を改善し、介助性や安全性の高い公共交通機関の利用を前提としたコンパクトな電動車いす。

3.小児用電動車いす

障害児の発達年齢・体型等に応じた電動車いすや移動機器。

4.ティルト・リクライニング・リフトなどのシーティングシステムを搭載した電動車いす

座位保持能力や座位耐久性などの低下した障害者が使用できる、ティルト式とリクライニング式機構などのシーティングシステムを持つ電動車いす。

5.タッチパネルの改良

タッチパネルディスプレイの利点を損なわずに視覚障害者が操作しやすいディスプレイと入力機器。

6.音声・記録・表示機能付き婦人体温計

視覚障害者が使いやすい、音声ガイドや記録・表示機能がある婦人体温計。

7.公共施設・公共交通機関等における緊急通報装置

聴覚・視覚障害者の安全確保や利便性の向上を図ることのできるエレベータや、駅における緊急通報及び情報交換システム。

8.ICタグを利用した視覚障害者誘導装置

設置工事が従来の誘導用ブロックに比較して簡単かつ低コストの、ICタグを利用した視覚障害者誘導装置。

9.音センサ付携帯情報端末

音センサ付小型モニターカメラと情報交換のできる携帯情報端末。

10.微弱FM電波を使ったFM多重放送による文字情報の発信と受信用情報端末

微弱FM電波を使ったFM多重放送による文字情報の発信(放送システム)と受信用情報端末。

11.玄関用情報交換装置(来所目的発信装置および筆談装置)

聴覚障害者が来訪者の目的が何であるか知ることのできる訪問目的ボタンや、カメラ・テレビを利用して筆談により情報交換のできる装置。

12.緊急通報機能付き携帯電話

高齢者・障害者が使いやすい緊急通報機能を有する携帯電話。


2 障害者・高齢者のニーズが高く、既存製品の改良により解決可能と思われる研究テーマ

1.滑りにくく耐摩耗性の高い杖の先ゴム

障害者・高齢者が使用するさまざまな杖に使用される先ゴムについて、滑りにくく安全に歩行できる耐摩耗性が高く、低コストの先ゴム。

2.衝撃緩衝機能を有する杖

歩行時の安定した支持性能と共に、床面からの衝撃を緩和する機能を装備した、松葉杖やロフストランドクラッチ。

3.滑りにくく歩きやすい床材

歩行障害者、特に松葉杖やロフストランドクラッチを使用する人が杖に体重をかけたときに滑らないような床材や、視覚障害者誘導用ブロックの改良。

4.リモコン調節式補聴器

リモコン方式により高齢者が利用しやすい大きなスイッチで、電源のオン・オフや音量調整が可能な補聴器。

5.知的障害者の生活用品

調理器具、キャッシュレジスター、電話、券売機など知的障害者が利用しやすい機器の開発。