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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

ワールドナウ

東ティモール 初のCBRセミナーと新憲法

ジョゼフ・クォーク
長田こずえ
秋山愛子

2004年1月18日から21日の4日間にわたり、著者の3人は(写真1)、RIとESCAPを代表して東ティモール1)を訪問した。主な目的は、東ティモールの障害専門NGO、KATILOSA(カティローザ)主催のCBRセミナーと、それに合わせて予定された東ティモール政府による、第2次アジア太平洋障害者の十年(2003年~2012年)加盟調印式典に参加するためだった。

写真1
写真1

東ティモールは、16世紀から始まったポルトガル支配、1974年からのインドネシア支配等を経て、2002年に独立した新しい国だ。規模としては、人口80万人あまりの小さな国で、平均寿命は50歳以下、最貧国のひとつであり、世界で最も援助を必要とする国である。RIの支援で独立後に実施した統計によれば、人口の約1.5%、約1万1571人が障害者で、その過半数近くが身体障害者とされている。

今回のCBRセミナーは、全国規模で初めて開催された会議で、ティモール政府が後援し、RIが財政面を支援した。また、セミナーのテーマは、昨年から開始された第2次アジア太平洋障害者の十年の政策ガイドライン、びわこミレニアム・フレームワークが強調する、コミュニティ・ベースの障害予防やリハビリテーション、当事者エンパワメントという原則にも合致する。開会式では、ESCAPの祝辞に続き、RIのクォーク氏が雇用創出と起業家支援に焦点をあてたCBRの必要性を強調した。

東ティモール政府からは、連帯労働省大臣アルゼニオ・バノ氏が祝辞を述べ、その中で、政府の障害問題に関するかなり積極的な取り組みが紹介された。まず、新憲法は二つの条項で、障害者の人権伸長を明記している(これは世界でも数少ない例のひとつである)こと。次に、政府として、現在成立プロセス進行中の障害者の権利条約を支持し、その過程に参画していくという意志が明らかにされた。

さらに、障害に関する包括プランとその実施インフラ(財政確保を含む)整備を目的とした、首相直轄の省庁横断の政策委員会が1月21日に発足することも発表された。この委員には連帯労働省や教育省、国土建設省、外務省等の代表に加え、障害当事者や関係NGOが入ることになっており、内容に関しては、びわこミレニアム・フレームワークや障害者権利条約に関する、バンコク勧告などの文書が参考にされる予定である。

バノ連帯労働省大臣は引き続き、第2次アジア太平洋障害者の十年に関する東ティモール政府の決意を示す「障害者の完全参加と平等宣言」に調印(写真2)。2002年の滋賀県で開催されたESCAP政府間会合以降の、アフガニスタン、ニューカレドニア、パプアニューギニア、トルコに続いて46番目の調印国となった。

写真2
写真2

東ティモール政府内で、障害問題を担当するのは、連帯労働省であり、女性や子ども等を扱う部署と軒を並べ、2人の専門官が配置されている2)

CBRセミナーには約40人が参加。この中には4県3)からのCBRの専門家、数人の身体・視覚障害者も含まれている(写真3)。メインのファシリテーターとしては、旧宗主国インドネシアから、CBRで世界的に著名なハンドヨ博士が参加した。独立直後はインドネシア人などもってのほかという空気があったが、現在では、政府も近隣国となったインドネシアと国交を新たに結び、協力関係を重視しはじめた。また、インドネシア語のほうが公用語のポルトガル語より一般には多く使われ、親しみやすいという現実もある。セミナー当初は、インドネシア人は歓迎されないと明言するNGOの代表もいたが、博士の熱心さと、知識の高さを知るにつれ肯定的な態度に変化したようである。

写真3
写真3

このハンドヨ博士のもと、インドネシア語や東ティモールの言語(テトゥン語)などを使い、ロール・プレイを駆使したワークショップが行われ、活発に意見が交換された(写真4)。その結果、以下の項目が今後の課題として挙げられた。

写真4
写真4

*当事者リーダー、NGO・政府における障害専門人材の育成

*財政基盤確立と国際協力の必要性

*NGOと政府の日常的協調関係の構築

*障害者の雇用創出と、起業家支援、自立生活の実現

*CBRを中心とする基本的なリハビリテーションの必要性

*結核の予防など、障害の原因予防につながる早期介入の必要性

障害専門人材の不足に関しては、長年の植民地統治時代にティモール人の人材養成をしない政策がとられていたという背景がある。このため、今後は長期的な視野に立った投資が必要である。医療関係者、リハビリテーションの専門家などは慢性的に不足している。実際、著者のうちESCAPの2人は、アイレウ地区にあるメアリーノール修道女会のCBRプロジェクトを訪問したが、ここもオーストラリアの女医が帰国してしまい、現在、医者がいないという。脊髄に障害をもたらす結核も発生するこの地域では深刻な問題だ。ただ、ここの職員一人は、カンボジアにある英国系のNGO、カンボジアトラストのプロジェクトにより、プノンペンの義手・義足製造の専門学校で教育を受けており、3年の期間を終えた卒業後には戻ってきて働くこと、ティモール人の技師養成に携わることが義務づけられている。

ESCAPの2人は、首都ディリのはずれにあるアイサン基金というNGOも訪問した。ここは近隣の障害者7人に居住空間を提供、さらには全体で50人に奨学金援助や基本的なコンピュータ訓練などのサービスを提供、ここの支援を受けて大学に通う障害者もいる。他の例に漏れず、ここでも人材や機材不足、政府との有効な関係作りが課題と見受けられるが、筆者(長田)が以前に訪問したころに比べると空間も拡大され、以前はなかった車いすも保管するようになった。

今回のセミナーを主催したカティローザの事務局長弱冠25歳のロレンティーノ氏は、国際会議参加の経験も豊かであるが、すでに国内の6県からリーダーとしての可能性を秘めた当事者も独自に探し出してきて、次世代の育成をにらんでいる。

東ティモールにおいては、障害に関する活動はその端緒に着いたばかりといえよう。この意味では、国連による暫定政府停止後、多くの国際機関や国際NGOの援助がストップし、国際世論の関心がアフガニスタンやイラク復興に向いていることは、政府・NGOを問わず、圧倒的な資金不足に悩むこの国にとって大きな問題である。

今回の訪問を通じて、この認識が新たにされた。が同時に、政府・NGO両者のやる気には並々ならぬものがあり、今後の課題を踏まえたうえでのCBRや雇用創出プロジェクトの可能性もみえてきた。

(ここで述べられた意見は筆者たち個人のもので国連ESCAPまたは国連の見解ではない。筆者の個人的な観察、見解として理解していただきたい。)

(ジョゼフ・クォーク 香港大学教授、リハビリテーション・インターナショナル(RI)アジア太平洋地域委員会副議長/ながたこずえ 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)障害問題担当官/あきやまあいこ 同障害専門家)

1)2002年独立後の正式な国名はTimor Leste(ティモール・レステ)であるが、本稿では、「東ティモール」という呼称を使わせていただいた。

2)著者の一人、長田こずえは国連暫定政府時代に東ティモールで障害問題を担当していたが、当時の同僚が現在も障害問題を担当しており、今回の訪問で旧交を温めた。

3)東ティモールは全国が13県に分けられている。