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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年4月号

障害学生と高等教育

鶴岡大輔

1 はじめに

1993年に第1回「障害学生と高等教育国際会議」が早稲田大学国際会議場において開催された。欧米諸国をはじめ国内外の関係者が一同に集い盛会となった。その前年1992年には、1990年のADA法の成立を受けて、米国で第1回のAHEAD(Association on Higher Education And Disability)会議が開催されている。さかのぼって1977年には、米国でその前身のAHSSPPE(Association on Handicapped Student Service Programs in Postsecondary Education)が設立され、高等教育における障害学生支援は米国で既成のものとなっていた。

一方、第1回国際会議が開催された当時の日本では、先駆的な取り組みを始めた一部の大学や教員が独自の努力や支援の取り組みにより、障害学生支援を模索している状況であった。シンポジウムや分科会においてもそうした緒についたばかりの報告に基づいて討論がなされていた。

その後筆者らは、早稲田大学鈴木陽子教授を中心に、日本特殊教育学会において「障害学生と高等教育」をテーマにシンポジウムを継続開催し、この分野の課題や支援方策を共有できるよう取り組みを続けていた。その流れを受けて2001年には、各分野の関係者の支援により「日本障害者高等教育支援センター(JAHED―Japanese Association on Higher Education and Disability)―以下支援センターと略記」を立ち上げるに至った。

本稿では、私たち支援センターの取り組みと、文部科学省科学研究費による調査研究「障害者の高等教育推進のための学術調査/2001~2002年」及び現在進行中の「障害者の高等教育支援のための学内体制の整備と連携に関する調査・研究/2003~2005年」の成果から、国内外の大学を中心とした高等教育機関での障害学生受け入れの現状と課題について概要を記すことにする。

2 支援センターの取り組みと課題

支援センターでは以下に述べる事業を行い、障害者が高等教育機関に入学を志してから卒業するまでの一貫した支援方策の模索と、取り組みの全国レベルでの共有に務めている。

【研究集会等の開催】

「障害者高等教育支援〈交流・研究・研修〉会」を毎年開催し、大学等高等教育機関で支援にあたるスタッフに対する研修を行っている。また、「障害者と高等教育を考える交流懇談会」を毎年開催し、支援にあたっているスタッフの実践交流ができる場を提供している。

【情報発信・情報提供】

国内外の障害者と高等教育に関する資料やデータの収集を行い、関係者からの問い合わせに応じている。各大学等で必要とされる人材の提供について、派遣団体に関する情報提供を行い、将来的には、人材の育成を視野に入れて取り組む予定である。会報(JAHEDニュース)を発行し、最新のトピックや支援センターの活動状況を紹介している。研究集会での話題提供・討論内容を報告書として刊行している。

【調査・研究活動】

科学研究費による調査・研究に協力し、海外先進諸国での実情の把握・国内外の大学等高等教育機関での取り組みについて調査を実施している。障害学生受け入れの状況や支援スタッフの配置、支援の提供形態、経費の使途などについて調査を行っている。

3 国内各大学での取り組みの具体例

以上述べてきた支援センターの活動や調査により把握できた、先駆的な取り組みの実例を国内から紹介する。

広島大学ではバリアフリーの就学環境という理念のもとで、2002年1月に国立大学では初めて「障害学生の就学等の支援に関する規定」が明文化された。部局長会議の1部会として「障害学生就学問題検討部会」が組織化され、「障害学生就学支援の手引き」が教職員向けに発行されている。

http://home.hiroshima-u.ac.jp/friends/

東京大学では「バリアフリーの東京大学を実現するためのワーキンググループ」が組織化され、2002年10月「バリアフリー支援準備室」が設置された。また、2003年8月には「障害をもった学生の修学の支援実施要項」が制定されている。

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/spds/index.htm

筑波大学では2001年度より学長直下の組織として障害学生支援委員会が設置された。また、障害学生支援専門委員会が心身障害学系の教員により組織化され、各学部での受け入れに助言を行っている。

http://www.tsukuba.ac.jp/reiki_int/honbun/au01104061.html

筑波技術短期大学には、聴覚・視覚障害学生支援のための「教育方法開発センター」や「障害学生相談・支援室」(http://www.tsukuba-tech.ac.jp/docs/shien/shien.htm)が、日本福祉大学では「障害学生支援センター」(http://www.n-fukushi.ac.jp/shiencenter/index.htm)が設置されている。四国学院大学、大阪府立大学、福岡教育大学などでも独自の取り組みがなされている。

京都市内の50余りの国公私立大学で組織する大学コンソーシアム京都では、各大学での障害学生の受け入れと支援の情報を共有できるシステム作りが模索されている(http://www.consortium.or.jp/)。

メディア教育開発センター(NIME)では、SCS(Space Collaboration System)テレビ会議システムを活用し、複数の大学を繋ぎ障害学生支援の解決策を共有する双方向性の授業の取り組みが進められている。(http://www.nime.ac.jp/

4 諸外国の取り組みから

次に、海外の実情について米欧豪の3国を取り上げ紹介する。

アメリカでは、多くの大学に障害学生支援センターやリソースセンター、チューターのいる学習センター等が設置され、障害学生を含む修学上何らかの課題や困難を抱えている学生の支援にあたっている。対象となる学生は、視覚・聴覚・身体障害等の学生に加え、精神疾患をもつ学生、心理的サポートを必要とする学生、学習障害等の学生も多く含まれている。

ドイツでは、DSW(Deutsches Studenten Werk)という組織が国内各地の国立大学に付設され、障害学生を含む学生の居住や学費補助を含む修学支援を行っている。高校で修めた成績や付随する社会的活動の実績により入学でき、障害をもつことを理由とした入学や修学の拒否はない。一方で、大学の多くの建造物が文化財的な価値を有しているために、バリアフリー化が進みにくいという課題がある。

オーストラリアでは、1992年に成立した障害差別法に基づいて、各大学に障害学生を支援するための地方障害連絡官が配置されている。Bridging Programというシステムが用意され、入学に際して不利とならないように配慮されている。各大学には、支援マニュアルや相談窓口が整い、個別のニーズに応じたサポートが行われている。

5 今後の課題と展望

翻って日本では、国公私立を合わせると、毎年500人以上の障害学生が大学等高等教育機関に進学している。なお、障害の定義を広く捉えると潜在的な障害学生数はさらに多くなることが予測できる。

調査データとして、国立大学(2004年4月より独立大学法人)協会が、2001年にまとめた「国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書」がある。入学した障害学生数は、1999年が81名、2000年が77名、2001年が83名とほぼ横ばいに推移している。また、調査対象の99国立大学のうち46大学で過去3年間障害学生が卒業もしくは修了していないと回答している。障害学生1~5名が47大学、6~10名が4大学、11名以上は2大学となっている。

(http://www.kokudaikyo.gr.jp/chosa/txt/h13_6.html)

私立大学においては、私学振興・共催事業団を通して支給される障害学生受け入れに伴う経常費補助金の大学別支給状況がある。2002年度は、およそ16億円が各私立大学・短期大学等に支出されている。1999年度はおよそ13億円で、年度ごとにおよそ1億円の増額が認められる。しかしながら、これらの経費については、障害学生のために支出しなければならないという規程がないために、使途については各大学の裁量によっているという現実がある。そこで各大学に対してその使途を問う調査を実施したが、バリアフリーに向けた設備改善に使用している大学は見受けられるものの、要約筆記者や手話通訳者など情報保障や講義保障に欠かせない人材活用に支出している大学は、体制整備もできていないためごく少数といった状況であった。

点字ブロックやスロープ・補聴設備の設置は障害学生受け入れの第一歩だとしても、その後の学業や研究・キャンパスライフを謳歌するためには、窓口となるコーディネーターや実際に支援を担うスタッフが必要である。学内の人材でまかなえない場合であっても、たとえば、パソコン通訳者の派遣団体である全国要約筆記問題研究会や、各自治体等の手話通訳者派遣団体などとの協働も視野に入れておく必要がある。学内外のボランティアサークルの育成と活用も重要である。

一方、特別支援教育という名称が指し示すように、従来の特殊教育の対象者から、高機能自閉症やアスペルガー障害、学習障害等その支援の対象の拡大が見られている。独立行政法人国立特殊教育総合研究所などの調査によれば、各大学においてもそうした学生への支援方法の模索が行われている。また、大学の新たな役割を模索する知的障害者等を対象としたコミュニティーカレッジの試みが各地でなされている。

今後は従来の支援対象であった、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害の学生に加え、特別支援教育の対象となる学生や、精神疾患をもつ学生、心理的サポートを必要とする学生も含まれるようになろう。受け入れ側の大学では、さまざまな障害や個々のニーズに対応した学内体制を整備し、学内外の関係機関との連携を密にすることが必要である。私たち支援センターは、それらの架け橋として機能していくつもりである。

なお、本年11月28日(日)に、第2回「障害学生と高等教育国際会議」を早稲田大学国際会議場において開催する予定である。詳細は今後、支援センターホームページでも公開する。

(つるおかだいすけ 日本障害者高等教育支援センター事務局長・早稲田大学文学部講師)

◆NPO法人 日本障害者高等教育支援センター(JAHED)
 〒162―0051
 新宿区西早稲田2―2―6
 全国心身障害児福祉財団ビル内
 TEL/FAX
 03―5272―3480
 E-mail: center@jahed.jp
 URL: http://www.jahed.jp