「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号
見えてきた課題
私にとってのノーマライゼーションは「自己回復」にある
橋本みさお
進行性の神経疾患のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者で人工呼吸器使用中である私が、地域社会で普通に暮らしたいと思ったとき、生活環境と心理面での双方に筆舌に尽くしがたいバリアを感じることが多くある。障害を得て初めて気づくことは多く、買い物であったり、旅行であったり、子どもの学校行事への参加であったり、普通の主婦として普通に暮らすことの何と難しいことか。
私の場合、2人以上の介助者がいて、初めて外出が可能になる。日々の介助は現在の支援費制度にあたる「重度脳性麻痺者等介護人派遣制度」にはじまる「全身性障害者介護人派遣サービス」と「障害者ホームヘルプサービス」によって、私の地域での生活が支えられてきた。それまでも、介護保険と支援費制度を利用できるようになってからも、最も困った問題はヘルパーの確保が難しいことと、痰の吸引行為(=医療行為として解釈されている)がヘルパーに認められないことであった。
ALS協会では“吸引問題解決促進委員会”を立ち上げ厚生省(現 厚生労働省)交渉を進めていたところ、平成15年度に、在宅のALS患者に限ってドクターやナースの指導を受けたヘルパーに吸引が認められることとなったが、積極的に取り組むヘルパー事業者はまだまだ不足しているのが実状であり、吸引を必要としている他の患者・障害者を対象としていないことは、協会の望んだ解決とは全く異なっていた。
この現状を踏まえてALS患者として、支援費制度の改革に向けて以下の点を特に要望したい。
- 吸引行為を含めていわゆる医療行為とされているものを、医療関係者と介護担当者とがどのように分担・連携してかかわるのか指針を示すこと
- 吸引等の医療行為をあらゆる介護現場で介護者ができるような体制を整備すること
- ヘルパー講習に、日常的に必要とされる医療行為についての講習を組み込むこと
- 障害当事者が主催するヘルパー講習を積極的に支援する体制をつくること
私は、障害者になってからの人生においても、病気以前の状況と同様の自分らしさを取り戻したいと考えて、医療・福祉・地域保健等々のあらゆる社会保障制度を、今後も積極的に利用していきたい。
(はしもとみさお 日本ALS協会会長)