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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年5月号

1000字提言

「地域生活へのススメ」最前線から(2)

山田優

長野県に暮らし始めてから二度目の春も、梅・桜・コブシ・レンギョウ・菜花・ホトケノザ・芝桜・桃・杏・花桃・椿の鮮やかなカラーと、ハンノキと唐松の新芽が、アルプスに残る雪の白と青空に溶け込んで飽きさせない。野鳥の追っかけをしていたスリムな頃のあこがれの君(カラ類)に、西駒郷周辺でふんだんに出会う贅沢さよ。

西駒郷の地域生活への移行は、苦戦しながら29名が家庭2名を含めて念願の地域生活を手にした。入所施設に移った5名と亡くなった1名を含めて、35名の利用者が減り、4月1日の現員数は406名となった。宮城県の船形コロニーも400名近くとか。

西駒郷の地域生活への移行に伴う生活の場は、グループホームにほぼ依存する。

グループホーム取得・設置に係る補助制度が、新築・改築を問わず設置を促した。

今年の受け皿(利用定員)は約180名。西駒郷から移行する人は約70名。では、110名は、どこで暮らしていたのか。

前年度に開設した19か所のグループホーム入居者81名の内訳は、25名が西駒郷、56名が設置をする民間社会福祉法人と在宅の利用者だった。

この数字に関心を持ちたい。つまり、西駒郷というキーワードが、グループホームの整備を進め、長野県の知的障害者福祉を地域生活へとシフトチェンジさせるのだ。

地域福祉へ促すウエーブは、津波のように勝手にやってはこない。人工的に起こすしかない。その原動力は、利用者の意識であり、明確な言葉や感情による移行への意志であり、感度の高い支援者の存在であり、子どもの成長を受け止める家族の理解であり、地域に根ざした住民福祉を掲げる行政であり、結(ゆい)に繋がる住民意識にほかならない。

今年は、7年に一度の天下の大祭、諏訪御柱祭の年。十数トンの巨木を、千人を超える人たちが各々一本の縄で引っ張り、社に立てるだけである。しかし、道中に待つ坂は「木落し」・川は「川越し」をしてとにかく越える。死者が出ようとひたすら曳くのである。

この巨木を、高らかに響く「木やり」が勇気と力と心意気を沸き立たせて少しずつ動かす。こうした連帯意識は「諏訪人」と呼ばれる。強い自律意識と排他性を漂わせても、受け入れた後の温かい互助意識は魅力的である。長い歴史が醸し出した信州。

グループホームは「共に生きる」証だと自覚を迫る。

(やまだまさる 長野県西駒郷自律支援部長)