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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

わがまちの障害者計画

世田谷区長 熊本哲之(くまもとてつゆき)氏に聞く
住み慣れた区でいきいき生活の実現

聞き手:茨木尚子(いばらぎなおこ)(明治学院大学社会学部助教授、本誌編集委員)

▼世田谷区は、障害者の家族や当事者による活動が昔から活発な地域です。そのような活動から生まれた当事者のニーズに応える形で、他の地域に先駆けて、区がこれまで取り組んでこられた障害者施策の特徴についてお話いただけますか。

昭和58年に「世田谷区障害者施策行動10ケ年計画」、平成7年には「せたがやノーマライゼーションプラン」を策定し、今年度が最終年です。障害者が社会の一員として社会活動に参加し、平等で人間らしい生活がすごせるようにという理念のもとに、区民、この中には当然障害のある当事者も含まれるわけですが、事業者、行政の協働によって、障害者施策に取り組んできています。

具体的には、学校卒業後の日中活動の場の確保として、23か所の障害者通所施設を整備・開設しており、現在も整備をすすめています。また施設運営の担い手として区民活動団体の社会福祉法人化を支援しました。支援費制度の施行に向けては、区内ホームヘルプ事業者の参入を促すとともに、区が居宅介護事業者の指定を受けて、ホームヘルプサービスを提供しています。また昨年度は、住まいの場の確保として、知的障害者グループホーム、重度身体障害者グループホームの整備を社会福祉法人、NPO法人と連携して取り組みました。区の取り組みの特徴としては、なによりも、障害のある方々に、社会の一員として参加していただけるようにすることを大きな柱としていることです。


地図

東京都世田谷区基礎データ

◆面積:58.08平方キロメートル
◆人口:799,758人(平成16年4月1日現在)
◆障害者の状況(平成15年度末)
身体障害者手帳所持者:16,534人
(知的障害)療育手帳所持者:2,672人
精神障害者保健福祉手帳所持者:803人
(平成15年度精神障害者保健福祉手帳発行数)
◆世田谷区の概況:
東京23区の南西部の端に位置する。近郊農村だったが、関東大震災以降急速に宅地化が進み、人口が急増。人口は23区で最大。「新しい公共」の考えのもと、区民・事業者・NPOなど民間団体と行政の協働により、福祉のまちづくりに積極的に取り組んでいる。
◆問い合わせ:
世田谷区役所在宅サービス部計画・整備担当課
 〒154-8504 世田谷区世田谷4-21-27
 TEL 03-5432-1111(代表)FAX 03-5432-3020

▼世田谷区は、古くから区内に障害のある人たちの拠点施設や学校があり、地域の中で障害の重い人も含めて障害者の支援をしていくという発想があったと聞いています。

世田谷区には、日本で一番古い肢体不自由児の学校である光明養護学校があります。この学校を求めてこの地域に来られた当事者の方々の卒業後をどうするかということから始まり、福祉施策を超えて、これまで、住まいや就労についても行政として力を入れて取り組んできました。

▼これまで当事者の強い主張や運動の歴史があったと思うのですが、その中で自立生活センター「HANDS世田谷」という組織が生まれ、今日では、区と連携して地域の障害者にサービスを提供していますね。こういう当事者組織の活動についてはどうお考えですか。

HANDS世田谷は、平成2年に日本で3番目に設立された自立生活センターで、区が障害者自立生活支援事業を委託する以前から、ずっと障害者支援に取り組んでこられたということで、最初は大変ご苦労をされたと聞いています。私自身も、先日、事務所に伺って、直接代表の方にお話を聞いたのですが、とても感動しました。事務所内で車いすを利用されている当事者の方々がきびきびと仲間の支援にあたっておられ、「地域で生きる」ことの大事さを感じました。事務所内の電話がかかり、当事者の人からの相談に、当事者自身が答えている。当事者ならではの支援の大事さを感じることができましたね。私が伺ったときは事務所に10人ほどのスタッフがいましたが、それぞれがテキパキとアドバイスしていました。すばらしい組織ができていると思いました。

▼障害者団体が取り組んできたことに対して、区が(ときにはぶつかり合いながら)サポートしてきたと思うのですが、今後はどのようにお考えですか。

できるだけ区として支援していきたいと思いますが、一方で全面的に支援をしてなかったから、あれだけの強いものになったんじゃないですか?(笑)

支援できるところは支援して、けれども独立した組織として存在していただくべきところは自立していただき、共同していける関係を作っていきたいですね。

▼障害者政策は、雇用や教育施策を含めた総合施策として展開していくことが求められています。とくにこれからは雇用の問題がとても重要になってきます。就労支援の場としての「すきっぷ」も他の市町村にはないユニークな内容です。訓練や実習をご覧になってどう感じられましたか。

区として障害者の就労支援にはとても力を入れています。特に「すきっぷ」は平成10年度に開設した区独自の考えに基づいた知的障害者の就労支援の施設です。開設以来、ジョブコーチという職場定着支援を行う専門員を独自に配置して、100人を超える知的障害者が一般企業などに就職することができました。先日伺ったときも、利用している知的障害の人たちがとても明るい感じがしました。就職するんだという目的があるから、仲間と一緒にがんばれるのだと思いますね。授産施設から実際の就労につなげていくのは簡単ではないですが、できないということでよしとしてはいけないですね。

障害があることで社会的な不利が増幅されることがあってはならないし、できるかぎり一般の社会生活の場での暮らしができるような支援でないといけないと私は考えています。最近では、区民のみなさんも、地域の企業も、こうした考えをよく理解していだけるようになり、先月も商工団体のみなさんの協力を得て、世田谷区の障害者雇用促進協議会を開くことができました。

名刺レイアウトの作業中。かなり細かい微調整が求められる(すきっぷ)
写真

二人一組になり、タイミングを合わせながら、シーツローラーにシーツを入れる(すきっぷ)
写真

▼障害者の就労支援の方針として、みえる場面で就職(フロントヤードでの就労)をしていこうという目標があると伺いました。

そうですね。お店の裏方で働くだけでなく、今はレジや販売などで働く人たちも増えてきました。これからは、お年よりや子どもの施設などで、介護や保育補助の分野への就労も考えています。これからも障害者の就労支援は区として力を入れていきたいですね。

▼現在「ノーマライゼーションプラン」を策定予定ということですが、これからの課題をプランの中にどう反映させようと考えておられますか。

支援費制度が始まり、障害者の地域での自立した生活を支える仕組みがスタートしています。今後もサービス充実のための基盤整備が必要と考えています。とくに障害のある方が、住み慣れた区でいきいきした生活を送るためには、住宅や交通の問題、就労の課題など福祉を超えた施策を含んだあらゆる分野で取り組むことが必要になっています。新しいプランでは、多様な領域にまたがる課題を障害当事者も含めた市民とともに考えて議論していきたいと思っています。

図 せたがや/ノーマライゼーションプラン

▼これまで取り組んでこられた地域の多様な分野にまたがる総合施策としての障害者施策を、今後もより一層すすめていかれるということで、とても心強い計画になりそうですね。ありがとうございました。