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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

ワールドナウ

CSUNカンファレンスに参加して

飯田紀子

今年で第19回目を迎える世界最大の障害者支援技術会議「テクノロジーと障害者」(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校〈California State University, Northridge:CSUN〉障害者センター主催)がロサンゼルスで3月15日~3月20日まで開催されました。

テクノロジーの発展は支援技術機器にも影響を与え、近年、テクノロジーを利用したさまざまな支援技術が開発されています。その製品は障害者にとって有効であると言われていることから、本会議も年々、注目度が高くなっています。今年は、セッション数約250、エキジビジョン(企業)145社以上、アメリカをはじめとする35か国から4100名以上の参加がありました。私は初めての参加だったのですが、会場には盲導犬を連れた視覚障害者や、電動車いすの障害者がとても多く出席されていたこと、そしてセッションやエキジビジョンに行くと、彼らが中心になって活躍していたことが印象的でした。

学習障害のセッション

日本でも少しずつ認識され始めた学習障害ですが、本会議では多くのセッションが開かれていました。小学校の教諭でありセントラルワシントン大学の特殊教育テクノロジーセンターのLD&テクノロジープロジェクトと共同で研究を行っているSherry Keenan氏は、実際に教室で学習障害の子どもたちにテクノロジー(コンピューター)を使用してどのような効果があったかを発表しました。Keenan氏は述べています。

「すべての子どもに適した学習方法はありません。しかしそれぞれに適応した学習方法というものは存在します。ペンで字を書くのが苦手な子どもの中には、触覚を利用するタイピングならば容易に字を表すことができる子どももいます。

学習障害の子どもたちに、ペンと紙を利用した場合とコンピュータを利用した場合に関し調査を行った結果、(コンピューターを使用したほうが)書くことが楽である、書くことが楽しい、文章を組み立てることに自信がついた、自分の文章はスペル・文法・句読点が良くなった、自分の考えを明確に表せるようになったと70%以上の子どもが答えています」

しかし、学校の予算の中では子どもたちにさまざまなハードウェア・ソフトウェアを使わせることには限界があります。そのことに対しKeenan氏は、高価なソフトウェアを使用することにより効果が上がる場合もあるが、まずは自分たちがもっている(自分たちの予算の範囲で購入できる)ハードウェア・ソフトウェアを利用してどのようなことができるかを考えること、そしてそれらをどのように活用するかが大切であると述べています。

また、学習障害の支援技術は特別なものだけとは限らず、利用可能なものを適切に利用する姿勢が重要であるとKeenan氏は考えています。

DAISYのセッション

本会議のテーマの中で目立っていたのが“DAISY”(アクセシブルな情報システム)です。DAISYは、ここ数年来、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書の国際標準規格として、12か国の正規会員団体で構成するデイジーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行われています((財)日本障害者リハビリテーション協会は正規会員の日本DAISYコンソーシアムのメンバー)。視覚障害者にとって、本や紙の資料を耳で聴くことはとても大切です。しかし、カセットテープに録音したものは、テープが切れたり、古くなります。そこで録音図書としてデジタルを採用した「DAISY」規格が誕生しました。

C―SUNでは、DAISYに関する9つのセッションと多くのエキジビジョンが開かれました。

このようにDAISYが注目されている背景には、アメリカ合衆国政府が調達するWebサイトやソフトウェアはアクセシブルでなければならないというリハビリテーション法508条の存在が挙げられます。508条が規制するのは政府が助成金を出している学校や団体を含むため、アクセシブルな情報システムであるDAISYが注目され、多くの企業も積極的にDAISYを取り入れ始めています。また、政府が開始する“誰もが使えるアクセシブルな教科書”に関する調査プロジェクト(2002年に提出された〈電子教科書の標準規格〉に関する法案に基づく)で、研究のベースとして電子出版とDAISYが採用されていることも要因の一つとしてあげられるでしょう。

C―SUNのDAISYリーディングソフトウェアオリンピアというセッションでは、現在、開発中のさまざまなDAISYソフトが披露され、多くの参加者を集めていました。

エキジビジョンの様子

エキジビジョンには、学習障害、視覚障害、肢体不自由等の身体障害者のための機器が展示されていましたが、特に目立っていたのは視覚障害者用支援機器です。拡大読書器や点字プリンター、音声ガイドシステム、点字ピンディスプレイ、またユニークなものでは楽譜を点字に変換するソフト等の支援機器が数多くありました。

従来の点字ピンディスプレイ機器が持ち運びやすい小型軽量化になっていたこと、携帯電話と組み合わせて利用できるようになっていたことは特に印象的でした。障害者の世界でも、どこにいてもほしい情報を得ることはだんだんと当たり前になっていくでしょう。

C―SUN関連情報

なお、C―SUNに関しては、(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センターが運営するウェブ“障害保健福祉研究情報システム(DINF)”http://www.dinf.ne.jp/index.htmlにおいて特集を組む予定です。

C―SUNウェブサイトにも発表の要約が掲載されています(英語のみ)。http://www.dinf.ne.jp/doc/english/conf/index.html

(いいだのりこ 本協会職員)