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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

実践報告

利用者ニーズを受けとめ広がる支援事業

村上和子

平成10年6月、中核市となった大分市が初めて認可した社会福祉法人「シンフォニー」は、翌年4月に知的障害者通所授産施設とデイサービスセンターの合築施設を開所し、以来、さまざまな地域生活支援に取り組んできました。

この5年間は、かなり加速度的に事業展開していますが、実はそれ以前にも独自のサービス展開(第1期)があり、この5年間は第2期、そして新たな展開(第3期)が始まったばかりです。こうした取り組みは、事業の拡大が目的ではなく、新たな「利用者のニーズ」に気づくたびに「使えるサービス」がなかったことに端を発しています。気の短さ(?)もあってか、目の前のニーズに対して必要なサービスが無いことを看過できず、「無いなら創ろう!」の連続で今日に至りました。

今日では多様なサービスを提供できるようになりましたが、その背景には「利用者ニーズ」を正面から受けとめ、事業化することでサービスの安定供給を図ってきた障害福祉行政の理解と協力があればこそでした。さて、話は13年前に遡ります。入学したばかりの長男が通う養護学校の研修で施設見学に参加しました。しかし、その施設はもう定員一杯。今後の空きもなく、他の施設も一杯と聞き、大きなショックを受けました。

「人が創らないのなら自分たちで創ろう」と、それからは家族で試行的に授産作業(箱折)に取り組み、行政に相談に通う日々が始まりました。ところが、各地の授産施設を訪れ、そこで働く障害のある人々の様子を見学するうちに、二つの疑問が湧いてきました。それは、「施設には障害のある人が大勢いるのに、どうして地域では障害のある人をあまり見かけないのだろう?」「地域の理解がないので住民の目が気になると家族は言うけれど、施設を創れば地域の理解が進み、地域の目を気にしなくなるのだろうか?」

いえ、確かに施設の中では安心できるかもしれませんが、一歩外へ出たら、これまでと何にも変わらない地域がそこには残っているはずです。そこで私は、安心して過ごせる建物(施設)づくりよりも、安心して暮らせる地域づくりのほうが先だと考えました。

そのためには地域の中に働く場を設け、障害のある人とない人の自然な出会いができる「店」をオープンし、「地域」で働くことのできる作業所を市内各地に展開していきました。しかし、財政基盤の脆弱な小規模作業所では、今は順調に見えても後に閉鎖に追い込まれたら、利用者や家族を不安にさせるのでは…、こうした取り組みを支えて行かねば…、という思いが駆けめぐっていました。当時の障害福祉担当者の熱意で市独自の補助金要綱ができあがり、卒業後の進路の不安解消に向けて、親や団体による作業所が各地に誕生し始めました。やがて、私は、働くことへの理解や達成感を得られにくい方・情緒が不安定で仕事に集中できない方との出会いが急激に増えてきたことから、新たな環境を用意しなければならないと考えるようになりました。

そこで、デイサービスと通所授産施設の合築計画を考えつき、毎日のように障害福祉課に通い、建設や運営に向けての考え方の共通理解を図りました。ともに昼食を食べ、更衣室、トイレ等を共用することで、障害の重い人と軽い人が同じ場所に通いながらも、中心となる活動はニーズに合わせて選択できるように考えました。また、授産施設利用者の方には、これまでどおり地域の中で働いていただこうと、街の中の喫茶店での勤務やビルメンテナンスなども授産メニューに位置づけました。

働く力をめざす方には話し合いのうえで、路線バスや電車による自力単独通所の力を獲得できるよう全職員による通所・帰宅支援を開始し、デイサービス利用者へは送迎車を用意しました。最長3年間、支援を継続した重度の方も、今では単独でバス通所できるようになりました。このバス通所の力は休日に1人で市内中心部に出かけることが可能になるなど、余暇利用の際の基本的な力となり、明らかに生活の広がりが見えてきました。

こうした移動の支援は、ガイドヘルパーの領域のようですが、このように施設支援でも十分可能なことから、施設内活動の支援のみならず、施設として地域生活をどのような形で支援できるのか、今後の課題でもあり、新たな取り組みが期待されるところです。

さて、3か月ほど経ち運営も軌道に乗り始めた頃、新たなニーズに出会いました。家族が介護疲れで体調を崩したり、介護者が不在だったりした場合、多くの人が遠方の入所施設のショートステイを利用していました。障害のあるご本人が不慣れな環境に移動することで、情緒が不安定になるなど心理的負担が大きいことから、ご本人ではなく「サービス」自体をご本人の元へ届けられる方法がないものかと無茶なことを考えていました。

そんな折「ホームヘルプサービス」を障害者の方も利用できると知り、すぐに障害福祉課へ電話を入れました。話の中で、1.高齢者関係事業所によるサービス提供のため、障害関係者にはサービスの存在自体が周知されてない、2.年間1~2件の利用のため、障害特性の理解や技術向上には至らず、利用しにくい状況が双方にあることが分かりました。

「ニーズは絶対にあるはずです。出来高払いなので利用がない時は市が払わなくてよいのでご迷惑はかけません(笑)」と決意を示したら、「じゃあ来月から」と言われ、「え~っ! 準備があるので待ってください」と、うれしい悲鳴を上げてしまいました。結局11年12月から事業を開始しましたが、不思議なものでサービスのないときには出なかったニーズが次々現れ、支援費移行後は約50事業者によるサービス提供がなされるまでになりました。

重度障害のため1日中ほ乳が必要な乳児(3か月)の介護負担の軽減や、知的障害のある夫婦の子育てに関する援助なども特例として利用可能とするなど、地域での暮らしから生じるさまざまなニーズを丁寧に協議し、真に必要なサービスを理解し、安心して暮らしやすいサービスを認めようとする行政を誇りに思ってきました。これまでも判断に迷うようなサービス内容については、決して事業者が勝手な判断をすることなく、電話等で行政と協議をしてきました。サービスが使いにくいと嘆くのではなく、どうして使いにくいのか、何をどのように困っているのかを必ず伝えてきました。このことは、利用者・事業者・行政が常に共通の問題意識を持ち、ともに解決していく基本的スタンスを創り上げることであり、三者の信頼関係の構築にも大きく影響するものでした。

また、財源不足が大議論となったホームヘルプサービスですが、実は大分市は補正予算を組まずに支援費初年度を乗り切りました。それは、移行に向けて前年の1.7倍の予算編成をしていたからです。これまでのニーズを基に増加分をきちんと見越していた洞察力には正直驚きました。

シンフォニーでは、知的はもとより、身体・児童のお宅へ訪問していますが、知的や児童居宅介護の利用に関しては、市内でも有数の事業所となっています。児童の場合は、ご本人はもとより介護者(主に母親)との信頼関係が重要で、大事なわが子を数時間託せるヘルパーの派遣を強く望んでいることや、「相性」が重視されるため、ヘルパー職員全員の顔写真とプロフィールを記載したものを提示し、希望のヘルパーを派遣(変更可)するなど、利用者が複数のヘルパーを「選択」できるシステムを採用しています。

また、全身性障害の方のお宅への訪問など、利用者の幅も広がりつつありますが、利用の伸びに対して職員の採用・育成が追いつかないのが現状です。確かに募集をすれば有資格者は大勢応募してきますが、障害に対する理解や障害特性に応じた支援技術を備えた者はほぼ皆無で、施設内実習や同行研修など採用後研修を相当期間要するため常に人材不足に陥っています。たとえ時間や費用は要しても倫理研修などに力を入れることで、利用者と二人きりの「密室サービス」のリスクを回避し、質の高いサービスをめざしています。

ところで、大分市で実施されている単独補助事業を二つご紹介しましょう。一つは「知的障害者自立促進事業」です。当初は補助なしで平成7年から実施してきたもので、イメージとしては一泊二日のグループホームです。3~4名の利用者と職員が地域の戸建て住宅で買い物・調理・食事・入浴・就寝等々、地域での暮らしを友人とともに繰り返し体験することで自立をめざし、子離れ・親離れ経験や将来一緒に暮らしたい相性の合った友人を自分で見つけていくといった目的も含まれています。平成13年に市の単独補助事業となったことから、他の事業所にも広がってきました。将来グループホーム等での暮らしに不安なく移行できるといった効果が期待できます。

二つ目は、「長期休暇サポート事業」です。児童デイサービスを利用できない養護学校に通う中高生の夏休み休暇中の支援を目的としたもので、5日間を1単位として、支援スタッフ2名、ボランティア8名で10名の生徒を公民館等(どこでも可)で支援するもので、活動内容は水泳など自由です。障害のある子どもの夏休み支援についてのニーズを行政が受けとめ、市内の施設やNPO、母親サークルなどにより今夏実施されます。

ところで、「生活支援」といえば、「地域療育等支援事業」による知的障害児・者への支援がありますが、シンフォニーではコーディネーターによる支援のみならず、地域を専門職員チームが巡回する事業をいくつも展開しています。たとえば、歯科医師や歯科衛生士による巡回検診やブラッシング指導にも力を入れています。身近な地域で気軽に相談・治療を頼める歯科医師(ホームデンティスト)がいればどんなに心強いか…こうしたことから、歯科医師会に協力を仰ぎ、歯科衛生士会との連携のもと、定期的に巡回するほか、特に予算規模の小さい小規模作業所へ歯科医師を派遣するなどは喜ばれています。このほかにも重症心身障害児の家庭に音楽療法士等を派遣するなど、地域で暮らしているとはいえ、外出の機会の少ない人々に対してのサービス提供にも取り組んできました。

また、毎月定期的に音楽・運動・絵画などの療法を取り入れた成人(日曜)・児童生徒(土曜)向けの3コース2種類の参加型プログラムと歯科検診を用意し、ご本人が活動に参加している間、介護者が相談できる時間を設けることで、日常生活上の悩みや困難をいち早くキャッチし支援につなげていく事業も実施してきました。

さらに、本年度より2名のコーディネーターが市の相談員と一緒に在宅の障害児・知的障害者のお宅を一軒一軒訪問し、地域に暮らす障害のある人とそのご家族がどのようなニーズを持っていらっしゃるのか、じかにお会いしてお聞きすることを目的としています。もちろん訪問を敬遠なさる方もいらっしゃいますが、後日電話をくださる方もいて、サービス利用や各種申請手続きに関する相談・支援も増えはじめてきたところです。

多種多彩な人の暮らし。地域に暮らす人それぞれのニーズに応えられるサービスの提供をめざすからこそ、これからも行政との連携・協働は欠かせないと考えているのです。

(むらかみかずこ 社会福祉法人シンフォニー理事長)

◆社会福祉法人シンフォニー
TEL 097―586―5577
FAX 097―586―5578

シンフォニー事業概要 H16.6.1現在

名称 事業名・内容 利用数 職員数 事業開始
コンチェルト 授産施設(通所) 30 13 H11.4
コンチェルト はさま 授産施設(分場) 15 H15.3
コンチェルト もりまち 授産施設(分場) 15 H16.4
ファンタジア デイサービスセンター 32 H11.4
ヘルパーステーション
シンフォニー
知的/身体/児童
居宅介護事業
100 32 H11.12
こどもデイサービス
まーち♪
児童通園デイサービス 16 H12.10
短期宿泊 五番館 自立生活促進事業 1泊
1~3名
兼務 H13.4
(H7.1)
ショートステイ 知的・児童
短期入所事業
1日
1~3名
兼務 H13.7
生活支援センター
コーラス
障害児(者)地域
療育等支援事業
大分市
居住者
H13.10
喫茶ネバーランド
コンパル店
授産施設直営店
(50席)
H11.4
(H8.4)
喫茶ネバーランド
大津町店
授産施設直営店
(40席)
H14.5
ネバーランド
ショップ森町
小規模作業所 H3.11

*今秋ファンタジア2(デイ)、次年度福祉ホーム・グループホームを開所予定