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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

実践報告

地域でしあわせに暮らすことを願って
―子どもから高齢者までをサポート―

西田良枝

パーソナル・アシスタンス ともの設立

私たちは、1992年に障害をもつ子どもの親たちを中心とした「浦安共に歩む会」をつくりました。私たちのメンバーの多くは浦安で“子どもたちが地域の中でしあわせに過ごせるように”をテーマに、8年間福祉と教育について行政への提案や要望、療育活動、勉強会・講演会などの啓発活動、親のサポートなどを行ってきました。そしてそれらの活動と子育てをする中でたくさんの人と出会い、多くのことを学び、困っていたり、支援を必要としているのは、障害者やその家族だけではない…ことなど、さまざまな気付きがありました。

地域の子どもたちの中で障害をもつ子どもを育ててきた私たちは実感しています。共に育つこと、共に生きること、いつも身近にいろいろな個性の人がいることが大切であり、それが私たちの心から望む“障害をもつ人ももたない人も共にあたりまえに生きられる社会”につながることだと。そして、それはだれにとっても安心で豊かなことだと思っています。

活動の柱である行政への提案や要望は、障害のある子どもたちが、地元の学校へ就学できるようになったことなど、たくさんの実りがありましたが、地域生活支援事業については、まだまだ障害児・者の生活を十分に支えるものではありませんでした。そこで行政に要望・提案するばかりでなく、当事者だからこそわかるニーズ、望みを実現するために、私たちも担い手として事業を行っていくことにしました。

めざすことを実現するために…

“障害があっても高齢になっても、みんな人としての価値は同じ”、でも“みんな一人ひとりが違う存在”であることを認め合い、だれもが自ら人生を選択し、尊厳を持ち、その人らしく生きられるためにはどうしたらいいのだろう? 何より必要なのは、みんなで支えあうことに共感を得ること。自分のこととして捉えてもらうことのように感じました。

限られた人だけしか受けることができない現状の福祉制度によるサービスは、今それを必要としない人にとっては、いつか自分も福祉制度の対象としてサービスが必要となり、受ける側に立つまでは、「他人事」と思われても仕方がないのかもしれない。それならば、限られた福祉制度の対象者だけでなく、必要になったら「だれもが使える」支援があればいいのではと考えました。

「とも」の取り組み

“だれもが共通のものとしてつかえるサポートの仕組みをつくりたい”との願いから、障害の種別も有無も年齢も問わず、すべての市民の方に向けて、子育てや、障害、高齢、病気・ケガなどによって支援が必要な「状態」だったらだれでも使える『タイムケア』事業を制度によらない独自の事業として最初に立ち上げ運営してきました。これは、「とも」の理念であり根幹の事業でもあります。

支援費制度が始まってからは、知的、身体、児童の居宅介護、介護保険での訪問介護、精神障害者居宅介護と、制度における5つの「ホームヘルプサービス」も行っています。大切にしているのは、一人ひとりのニーズであり、本人の思いに添ったパーソナルな支援であること。さまざまな制度も大切だけど、人は制度に合わせた生活を送っているわけではありませんし、制度だけではその人らしい暮らしを支えることはできません。「タイムケア」事業のように、制度の隙間を埋める資源がどうしても必要です。

そして、同じように人の暮らしは途切れることがありません。サービスがいつでも使えなければ、暮らしを支えることはできないと考え、「とも」では24時間365日いつでも使えるサービスとして提供しています。

私たちは、地元行政とのパートナーシップを大切に考えてきましたが、これらのサービスの実績が評価されて、ホームヘルプ事業のほかにも、浦安市から2つの事業の委託を受けています。ひとつは、障害児・者と難病を含めた方をセンター内で預かる「浦安市障害者等一時ケアセンター」。もうひとつは、障害者生活支援事業による「障害児・者サポートセンターとも」の相談事業です。サポートセンターには、身体・知的・精神のみならず、高齢者や手帳を持たない方たちからの相談もあり、だれもが共通のものとして使える相談事業となっています。

その人の「日常を支援する」ことは、その人らしい生き方をサポートすることにおいて共通するものであって、障害種別や対象によって変わるものではないと強く感じます。

以上のパーソナルな支援を特徴とした事業のほかにも、「とも」の独自の事業である、障害児・者を対象とした8種類の療育事業(療育手作りパン教室・イルカスイミング・音楽療法・ムーブメント療育・ともピンポン・生活塾・造形教室・クレヨン教室)を行っています。障害のある本人は、たくさんの選択肢から自分で活動を選ぶこと、その活動の中でさまざまな体験をすることを通して、自己決定する力が育ち、自分の好きなことを発見し、生活を豊かにしていくのだと思います。

「とも」事業図
図 「とも」事業図
※ ●は「とも」の自主事業 ○は浦安市からの委託事業

さまざまな資源を組み合わせて

措置制度の時代、私たちの周りでは、ホームヘルプサービスを使っている人はほとんどいませんでした。私たちは必要としている個別支援といっても、本当に利用する人はいるのだろうか?不安がありました。けれども「タイムケア」事業を始めると、特に「とも」の事業所で過ごす「ともケア」の人気は高く、障害児の利用がたくさんありました。この利用体験と、「サポートセンターとも」の相談支援事業による支援費制度の説明や、個別のケアマネジメントが提供できたこともあり、支援費でのホームヘルプの利用は一気に膨らみました。

障害児・者だけでなく、高齢者も、子育て中の保護者も、今では、支援費や介護保険や子育ての制度で使えるサービスを利用しながら、制度上制限がある部分をタイムケアや一時ケアセンターなど、さまざまな社会資源を組み合わせてサービスを使いこなし、生活を組み立てながら「自分らしく暮らす」方が増えています。

こんな利用がありました

だれでも家族の身に何かあると、日常生活が一変し、だれかの助けが必要になります。

利用者さんは2歳になる自閉傾向の男の子です。お姉ちゃんが事故にあい入院、突然1か月の父子生活を余儀なくされました。どうしよう! 家族は困りはて、「とも」に相談されました。方法は2つです。ショートステイ施設を使うか、だれかの力(「とも」など)を借りて日常生活に近い形を続けるか…ご家族は考えました。身も知らぬ環境・人々に囲まれたときの我が子の混乱・不安な気持ちは…。やはりいつもと同じ、“普段通りの生活”が彼にとって大切、と「とも」を利用することを選びました。

朝7時半に「とも」のスタッフが車でお迎えにあがり、お父さんの帰宅する夜7時半にお宅に送るまで、「とも」は彼の第2のわが家となりました。「とも」から通園施設に通い、お昼寝をし、スタッフと部屋で遊び公園に出かけ、夕食を食べる…。パパは毎日お弁当を作り、帰宅後は子育て。離れて過ごしたママもさぞかし心配だったことと思います。初めは不安一杯だった彼に、スタッフはなんとか安心してもらおうと、めいっぱいの愛情を注いでケアにあたりました。

今後の課題

「とも」の成り立ちは、「その人らしい暮らし」を支援することでした。これからも、それは変わらず、地域で暮らし続けるために一人ひとりが今持っているニーズに目を向け、サポートしていくために、就労や住まいや医療など人が生きていくうえで必要な取り組みたい課題がたくさんあります。

千葉県では、健康福祉千葉方式による地域福祉支援計画が策定されました。そのキーワードは「対象者横断的な施策展開」です。子育てから障害、高齢、病気・ケガなど、支援が必要な人を対象者によって分けない支援の仕組みをめざすことが基本理念になっています。この考え方は、私たちがめざしてきた方向と共通するものであり、「とも」の実践がこの理念を実態のあるものにすることにつながるのではないかと考えています。

私たちの取り組みは、障害の種別や年齢によって分けられることなく、みんなの生きている地域社会の中にあり、一人ひとりの暮らしに寄り添うものでありたいと考えています。

(にしだよしえ パーソナル・アシスタンス とも代表)

◆パーソナル・アシスタンス とも
TEL 047―304―8808
FAX 047―304―8821
http://www.patomo.jp/