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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

実践報告

ベンチレーター使用者へのサポートとは

佐藤きみよ

ネットワークの必要性

ベンチレーター使用者ネットワークは90年より会の活動がスタートしました。きっかけは、私自身が24時間ベンチレーターを使用しながら自立生活をしている中で、全身性の重度障害者が地域で暮らすには、介助制度、ベンチレーターのサポート体制などがまだまだあまりにも不十分だと感じたからです。

当時ベンチレーターを使って自立生活をするなどという前例はなく、私が自立生活をするにあたっても、周囲からは「何かあったら、だれが責任をとるのか」などと反対の声が医療、福祉関係者から上がったものです。

どんなに障害が重くても、地域の中で自分らしく生きたいという想いを実現させるため、全国の仲間と情報交換をし、通信「アナザボイス」が誕生しました。

その後、通信アナザボイスには、全国のベンチレーター使用者からさまざまな声が寄せられるようになり、そのネットワークは広がりを見せはじめました。「ベンチレーターを使用する時期はいつなの?」「ベンチレーターをつけて外出はできるのですか?」「自立がしたいけどどのような制度を使っていいかわからない」などです。

そのような質問に対して、情報提供を行い友人たちの自立生活をサポートする中で、自分たちに必要なサービスは、私たち自身の手で創っていかなければならないと実感するようになりました。それは、たとえば医療的ケアの問題などです。ベンチレーターをつけた方が地域で生活をするということは、24時間吸引の介助が必要です。気管切開をしカニューレという管がのどに入っていますが、その部分に吸引器を使いタンを取るのです。それ以外にもベンチレーターの管理などもあります。当時そのようなケアを行える事業所はどこにもなく、必要に迫られて私たちは吸引ケアができるヘルパーを育成するために派遣事業所を始めたのです。それがCILさっぽろ立ち上げのきっかけとなりました。

CILさっぽろのユニークな特色

CILさっぽろでは地域で暮らす重度障害者の自立を支援するためのサービスを提供しています。ヘルパー派遣、自立のための制度の紹介、自立生活プログラム、ピアカウンセリング、バリアフリーの建物の情報提供、そしてもっともユニークなのが、ベンチレーター使用者への自立へのサポートだと思っています。

ベンチレーターを使用している方、これから使用する必要のある方に対してベンチレーターに対する研修プログラムを行っています。研修の内容は安全に吸引ケアをヘルパーが行えるよう指導したり、障害当事者が自分でベンチレーターの管理ができるよう、ベンチレーターのしくみについて学習会を開いたり、または多くのベンチレーターが必要な障害者は障害が進行性であるため、自分の障害を受け入れていくためのカウンセリングなど精神面のサポートも大切なことの一つと考えています。

障害者支援の原点とは

全国でも、ベンチレーター使用者へのサポートを行っている団体はまだあまりなく、そのため地方から札幌へ移住し、CILさっぽろの支援を受けながら自立をする障害者が増えています。ベンチレーター使用者ネットワークとCILさっぽろが連携することで、充実したサービスの提供が行えているのです。

CILさっぽろのスタッフとして設立当初から働いている花田貴博さんという筋ジストロフィーの29歳の男性がいます。彼は自立をして8年になりますが障害の進行により、自力での呼吸が難しく2年前に気管切開をし、ベンチレーターを装着しました。

自力での呼吸が苦しくなりベンチレーターを装着するまでの約半年間は、スタッフ総出で彼と、彼の介助者のサポートを行いました。

まず呼吸が苦しくなっている花田さんには鼻マスクという気管切開をしないタイプのベンチレーターがいいのか、気管切開してのベンチレーターがいいのか情報提供を行いました。どちらを選んでも一長一短はありますが、それをドクターが決めるのではなく、あくまでも花田さん自身が自分の障害に合ったものを自己選択することを尊重しました。

次に介助体制では、CILスタッフのコーディネーターが調整に入り、花田さんの現在の介助体制のチェックを花田さんを交えて行いました。花田さんの場合、移動の時など二人体制のヘルパーが必要だという結論になり、花田さんとコーディネーターが行政へ複数派遣のヘルパーを頼むため動きました。

その結果、花田さんは事前に行政と交渉を行っていたため、ベンチレーターを付けて病院を出る頃には、もう複数のヘルパー派遣が決定していました。それ以外にも、ベンチレーターの研修プログラムを4~5回開きました。介助者への吸引ケアのプログラムは、初めはとても緊張していたのに、どんどん吸引の手つきが上手になる介助者を見て、私たちも吸引ケアは、正しい知識と安全にやることさえ守れば、だれにでも行えるケアなんだと確信を深めることができました。花田さんは気管切開を決め、ベンチレーターを装着することを選びました。

ベンチレーターを付けた瞬間だけは、何日間か声が出せないので、50音字が書かれたコミュニケーションボードで、介助者と目線を合わせ、言いたいことを伝える練習も行いました。

ベンチレーター使用者にとって最も必要な支援は、とにかく当事者の自己決定に耳を傾け本人の意思を尊重すること、あらゆる情報を提供してゆくことだと感じます。それは、ベンチレーター使用者だけでなく、多くの障害者支援の原点だと思うのです。

サービス利用の立場から

私(花田貴博)はベンチレーター使用者ネットワークで事務局次長を務めながら、一利用者の立場からどのようなサポートを受けてきたか述べたいと思います。

私は進行性筋ジストロフィーの障害をもっています。89年から国立療養所に入所していましたが、ベンチレーター使用者ネットワーク代表の佐藤と出会い、佐藤の支援で96年に国立療養所を出て、札幌で自立生活(一人暮らし)を始めました。そしてCILさっぽろを佐藤とともに立ち上げました。

私は2002年2月頃から息苦しさを感じるようになりました。以前からたまに息苦しさがあったものの、検査では特に問題なかったということがありました。当初は今回も収まるだろうと思っていました。しかし徐々に息苦しさが増してきました。佐藤にそのことを相談したところ、「呼吸機能が落ちている可能性があるから血液検査を受けてみたら」とのアドバイスを受けました。4月にかかりつけのクリニックで血液検査を受けたところ、血液中の二酸化炭素濃度が65%でした。通常値の30%台をはるかに超えており、すぐに呼吸器が必要だということがわかりました。そして検査入院をするよう言われました。

その結果を佐藤にも伝え、佐藤も利用しているベンチレーターディーラーの方に連絡してもらい、北海道大学付属病院のドクターをご紹介いただき、検査入院をしました。検査の結果、やはりベンチレーターが必要との診断でした。

そしてベンチレーターを使う方法を決める必要がありました。口や鼻にマスクを付ける方法と気管を切開する方法です。佐藤から2種類の方法のメリットとデメリットについて説明を受けました。それから実際にマスクでベンチレーターを使いました。そのためどの方法にするのか自分で考えて決めることができました。ちなみに始めにマスク式を試しましたが、自分には合わず気管切開をすることに決めました。

ベンチレーターを使うにあたっていろいろと準備が必要でした。介助者へのベンチレーターの操作や吸引に関する研修、入院中の介助体制作り、退院後の介助などです。研修は私の介助者に対して、実際にベンチレーターを使用しているスタッフを中心に3回行いました。ベンチレーターの仕組み、操作方法、吸引の意味ややり方について時間をかけて行いました。

初めての介助に戸惑っていた介助者も何度も練習をすることでみるみる上達し、自信をつけてもらうことができました。その他、入院中は数週間声がでないことが想定されたので、文字盤を使ったコミュニケーションの練習もしました。介助は1日24時間必要で、専従の介助者だけでは難しいため、スタッフにも介助に入ってもらうようにしました。それから退院後、入浴などは介助者2名で行う必要があり、行政にスタッフが掛け合い退院後からヘルパーの2人派遣が認められました。

入院前にすべての準備が整い、安心して入院することができました。十分なサポートを受けられたことで、スムーズにベンチレーターを導入することができました。もしサポートがなかったら、ベンチレーターを付けることすらできずに苦しんでいたかもしれません。

ベンチレーター使用者ネットワークのように十分なサポートを行える団体が増えれば、最重度のベンチレーター使用者の自立生活が可能になると実感しています。私の体験を多くの人に伝え、ベンチレーターが必要な人の力になれるよう日々活動しています。

間違った神話

いまだに、ベンチレーターを付けると声を失う、一生病院から出られずベッドの上でただ死を待つだけになるなど、ベンチレーターに関する間違った情報や神話が私たちの周りには溢れています。先日もベンチレーターを一度付けてしまうと、一生自宅には戻れなくなるのでベンチレーターを装着することを拒んでいる障害者の方のお話を聞きました。これはベンチレーターを付けることイコール自宅へ帰れないことではなく、ベンチレーターを付けていても、自宅へ帰り、自分らしく過ごせるような、医療、福祉のサポート体制が貧しすぎるという事実が問題であると考えます。

ベンチレーターを使用する最も重い障害をもつ人々が生き生きと社会で暮らせる環境をつくること。それこそが豊かな社会の始まりです。

(さとうきみよ ベンチレーター使用者ネットワーク代表)

◆ベンチレーター使用者ネットワーク
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