音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

列島縦断ネットワーキング

静岡 脳外傷友の会総会、脳外傷シンポジウム in しずおか

片桐伯真

「日本脳外傷友の会第4回総会」ならびに「脳外傷友の会シンポジウムinしずおか」が、平成16年5月30日に静岡コンベンションアーツセンターグランシップで開催されました。各地区の脳外傷友の会の開設順に主催する慣例から、今まで開催された横浜(神奈川県)、名古屋、札幌(北海道)の友の会に比べて会員数が少ない静岡が開催地として選ばれました。前日の交流会からはじまり、家族会総会や丸山浩路氏による「出会い、ふれ愛、感動!」と題された講演、お茶や書籍の販売などの企画は、会員の努力により立派な、そしてアットホームなものとなり、全国から迎えた参加者には大盛況でした。ここではシンポジウムを中心に紹介させていただきます。

今回のシンポジウムのテーマは、「高次脳機能障害支援モデル事業は何をどう変えたか? 又、今後は?」でした。平成13年度より展開している厚生労働省による高次脳機能障害の支援モデル事業は、当初予定していた3年の経過による最終報告が今年出されました。その中には診断基準や訓練効果などの情報が含まれており、今後さらに2年の延長の後、全国展開に向けての対応が検討されます。今回のシンポジウムはこのモデル事業を家族会という利用者側の立場から検証するものとなりました。会場には高次脳機能障害を抱える当事者と家族、関係医療スタッフや行政関係者ならびにマスコミ関係者など、総勢400名を超える方々が全国から集まり、熱気にあふれたものとなりました。

シンポジウムは、慶応大学月ヶ瀬リハビリテーションセンター長の木村彰男先生司会のもとで、各シンポジストの支援モデル事業に向けた熱意が直に参加者に伝わるものとなり、その反響は質疑応答のみならず、講演中の声援の拍手でもキャッチボールされました。

最初の演者は、支援モデル事業の総本山とも言える国立身体障害者リハビリテーションセンターで、この事業の核となられた中島八十一先生でした。「高次脳機能障害支援モデル事業―連続したケアを目指して」と題されたモデル事業の3年の成果報告と今後の対応について、具体的なデータをもとにしたお話でした。用語の説明からはじまり、障害尺度を基準としたデータから、発症1年以内のリハの重要性を紹介されました。また今まで制度など狭間に置かれた障害とされてきた点からも、医療・福祉・社会の一連の流れが分断されることなく、連続したケアが必要であり、そのための支援センターやコーディネーターの役割を強く訴えられていた点が印象的でした。

次の演者は、支援モデル事業の主催である厚生労働省の山崎晋一朗先生でした。「高次脳機能障害支援モデル事業について」と題された、行政としての成果や今後の課題にまつわる講演でした。今回の成果として、診断基準の作成、医学的リハ、生活訓練、職能訓練などの標準的訓練プログラムの作成、社会復帰・生活・介護支援の標準的プログラムの作成という3つの成果を紹介されました。またさらに2年の支援モデル事業の後、平成18年度より全国に普及可能な支援体制の提示をめざしている点が示されました。家族会で支援モデル事業の恩恵を受けていない地域の方から、これ以上の地域差の拡大が進まぬよう早急な全国への展開を求める声など、切実な訴えがあり、本事業の成果に対する期待度の高さが伺えました。

3人目の演者は、支援モデル事業の恩恵を受けている地域とさらには家族会の代表として岡山の「モモ」の代表清水正紀さんでした。「モデル事業と歩んだ会活動~その成果と今後~」と題された、岡山県での具体的な取り組みと、運営上の問題点にまつわる講演でした。一定の成果に感謝しながらも、人的及び制度上の問題など山積されている点や、モデル事業実施地域での情報公開が進んでいない点を指摘し、今後の展開としての普及啓発などの訴えは、参加者の多くの賛同を得るものでした。

最後に筆者が「静岡県の現状と課題」と題した、支援モデル事業の恩恵を受けていない県の代表として、これまでの活動を紹介しました。障害者の多くがモデル事業の恩恵を受けることなく3年が経過しましたが、全国展開するまでのさらに2年間の静観は、苦悩されている当事者・家族には待つことができない時間となります。神奈川県と愛知県という先進地域の狭間に埋もれた静岡県に何ができるかを、家族会や行政が中心に検討し、平成14年度より実施してきた高次脳機能障害相談窓口業務や啓発活動など、今後他地域の支援事業の一案として紹介しました。また啓発を含めた努力が、平成16年度に県独自の予算獲得という「裏モデル事業」としての成果を紹介することもできました。

その後の討論では、主として今後の計画や介護保険との絡みなど、具体的な議論がなされました。介護保険はあくまで身体ニーズとしての「介護」が前提ですが、友の会が求めるニーズは日常生活の自立のための「生活・健康管理」や自立した人への社会参加への「支援」という点での違いから、実際に介護保険の恩恵を受けない人も多い点などが紹介されました。そのため、単純に若年者まで対象を広げるだけでなく、利用可能な各種制度が、障害の本質を理解し、福祉領域のみならず、社会生活場面まで加味した対応が求められます。手帳制度や雇用の問題などさまざまな課題の中で、さらに2年間のモデル事業の成果が平成18年度以降、全国で高いレベルで確実に展開されることを願ってやみません。

最後に今回の総会を通して、当事者・家族が訴えていくアピール文が採択され、無事終了しました。右にアピール文の要約をご紹介させていただきます。「目に見えない障害」とも言われている高次脳機能障害が、広く社会的に認知され、他の障害者同様に適切な社会生活での支援が得られることを切望します。

(かたぎりのりまさ 聖隷浜松病院リハビリテーション科主任医長)

日本脳外傷友の会第4回総会アピール

支援費制度を介護保険制度に統合する厚生労働省案の骨格が明らかになりました。現在、私たち日本脳外傷友の会の当事者は、障害種別に基づいた縦割りの障害者福祉施策において適切なサービスを受けられずにおります。介護保険制度との統合に際しては、適切な要介護認定基準の導入や、家族の介護が困難となった時に安心できる住宅・施設サービスの整備を求めます。また、高次脳機能障害支援モデル事業の結果を反映させた障害者福祉施策の実現を要望します。

  1. 高次脳機能障害者の生活障害が新しい介護保険制度の要介護認定に反映されること
  2. 障害者福祉施策として高次脳機能障害支援センターを開設し、支援コーディネーター等の専門家を配置するとともに、必要な障害者福祉サービスが利用できるようになること
  3. モデル事業3ヵ年の成果を全国に普及させること