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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

障害保健福祉施策と介護保険との統合について

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課

1 障害保健福祉施策の現状

障害の種別を問わず、障害者の「地域生活支援」を進めていくことは大変重要であり、そのため、身体障害者、知的障害者、障害児については、平成15年4月より支援費制度が導入されました。また、精神障害者についても「入院医療中心」から「地域生活中心」へと政策を進めているところです。

支援費制度は、地域生活支援、自己決定や利用者本位という理念を掲げ、行政がサービス内容を決定する「措置制度」から、事業者との対等な関係に基づき契約によりサービスを利用する制度へと転換を図ったもので、これにより、サービスが全国に広がってきました。

一方で、その結果として、財源不足という問題も起きてきました。また、支援費支給決定者数や利用者数等に都道府県間で大きな差も生じてきています。

さらに、精神障害者福祉については、地域生活支援を進めていくという方向にはあるものの、支援費制度の対象となっておらず、他の障害に比べ、制度的に立ち遅れているというのが現状であると言わざるを得ません。

2 三位一体改革と介護保険の見直し

「国庫補助負担金の改革」「地方交付税の改革」「税源移譲を含む税源配分の見直し」の3つを一体的に行う、いわゆる「三位一体改革」については、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」において、平成18年度までに国庫補助負担金の縮減等の改革を行うことが閣議決定されています。また、同じく基本方針2004において、平成18年度までの改革の全体像については、平成16年秋に明らかにし、年末に決定することと閣議決定されています。

また、介護保険制度については、制度発足当時から、被保険者や受給者の範囲についての課題が残されており、障害者の福祉に係る施策等との整合性にも配慮しつつ、法施行5年後を目途に、その全般に関して検討することとされています。

3 障害保健福祉施策の見直しの必要性と介護保険との関係

支援費制度をはじめとする障害保健福祉施策については、こういった一連の改革の流れ、財源問題等の状況も視野に入れつつ、今後、長期に安定的に持続する制度としていくことが求められます。制度の策定に当たっては、障害者、医療保険関係者を含む多くの関係者の意見を十分聴いて進めていく必要があると考えており、だれしも年老いていくものであるとともに、だれしも障害の状態になりうるものであるとの観点に立ち、国民的議論が展開されていくことが重要ではないかと考えます。

議論を展開していく際に、最も重要なことは、制度、施策の目的をしっかりと見据えることではないかと思います。言うまでもなく、障害保健福祉施策は、すべての障害者が安心して地域で自立した生活を営めるようにするために進められるべきものです。そのために、どのように制度の体系を考えるのか、どのようなサービスメニューが必要なのか、サービスをどのように提供するのか、より良いサービスを確保するために人材などその資源をどう開拓していくのか、などを議論してくことが極めて重要になってきます。

今回は、障害保健福祉施策と介護保険制度との統合についてというテーマですが、措置制度にせよ、支援費制度にせよ、また、介護保険制度にせよ、前述の目的を達成するための手段です。もちろん、長期に安定的に運営していくために、どのような手段が適切であるのかを議論することも大変重要であり、その意味で、障害保健福祉施策の一部、介護保険制度の仕組みを活用することも現実的な選択肢の一つであると考えられますが、これに対しては、現在、各方面からさまざまなご意見をいただいています。ご意見の中には、現時点では判断がつかないといったものも多く、今後、障害者施策の一部介護保険制度の仕組みを活用するとした場合に、どのような制度になるのか、どのようなメリットやデメリットがあるのかを考えていく必要があります。しかしながら、ひとつの制度だけで、障害保健福祉サービスのすべてをまかなうことはあまり現実的ではないと考えられます。本年7月には社会保障審議会障害者部会から、中間的な取りまとめが出されています。これに沿って、介護保険の仕組みを活用することも含め、今後の取り組みの方向性をお示しし、議論を深めていかなければならないと考えています。

4 今後の取り組みの方向性

今後、地域生活支援、自己決定の尊重、利用者本位等の理念をさらに発展させるためには、自立支援・介護のための人的サービス、就労支援、住まい対策、発達支援などについて、総合的に取り組んでいく必要があります。新たにサービスを利用する障害者を含め、地域で把握されたニーズに基づき、今後のサービスの伸びに耐えうる仕組みづくりや、障害者が地域の実情に応じて身近なところで支援を受けられる体制づくり、市町村を中心として、障害種別や年齢を超えた自立支援の体制づくり、さらには、地域住民の納得の得られる公平な社会資源の配分など多くの課題があると考えています。

本年7月に出された社会保障審議会障害者部会の中間的な取りまとめを引用して、今後の方向性についてさらに詳細に述べます。

5 社会福祉審議会障害者部会の中間的な取りまとめより

まず、現行の障害保健福祉施策では障害種別や年齢により支援費制度、措置制度、精神保健福祉施策、医療保険制度などが組み合わさっていますが、今後の基本的な方向性としては、福祉サービスや就労支援等に関する制度的な枠組みについて、障害特性に配慮しつつも、基本的には三障害共通の枠組みとするべきとされています。

また、障害者の自立支援のための保健福祉施策の体系の在り方として、これまで必ずしも施策の対象となってこなかった発達障害や高次脳機能障害についても総合的な支援に取り組んでいく必要があること、福祉施設の類型について、施設の果たしている機能に着目した整理が必要であること、地域生活への移行を進めるために、居宅サービスの充実とともに、入所施設や病院が、地域生活移行への積極的な支援機能を持つことが必要であること、さらに、施設の機能をきめ細やかに整理して、各機能のサービスをどの地域でも受けられるようにすることが重要であること、などが挙げられます。

就労支援については、障害者施策の中心課題の一つであり、本人の意欲と能力に応じて就労できるよう、評価、相談、調整の支援の機能を位置づけることが重要とされています。また、一律に一般就労へ移行するのではなく、一般就労につながらないが働きたいという人たちのための働き方を検討することが必要です。さらに、就労困難な障害者についても、自己実現や社会貢献のための何らかの働く場や日中活動の場が必要であり、通所の利便を考えると、小規模なものが多く必要となってくると考えられます。

なお、障害者の就労支援に関しては、厚生労働省内でも検討会議を設け、その中で、福祉部門と雇用部門の連続性を確保して福祉部門から一般就労への移行を円滑に行えるようにするとともに、障害者が自らの職業生活を設計・選択し、キャリア形成を図ることを支援すること、また、授産施設等の福祉施設の体系をその果たしている機能に着目して見直し、1.一般就労に向けた支援を行う類型、2.就労が困難な方が日中活動を行う類型、3.企業での雇用が困難な方が一定の支援のもとで就労する類型の三類型とすることなどの方向性を打ち出しているところです。

住まいの確保も重要な課題であり、グループホームなどの充実を図ることに加え、公営住宅や一般住宅への単身入居等も念頭においた施策への取り組みが必要とされています。

障害者の生活を支え、自立と社会参加を進める観点からの総合的なケアマネジメントも、非常に重要な課題であり、その制度化を図るとともに、契約方式のもと、制度を利用するに当たっての権利擁護が、実質的に機能するよう方策を考えることなどが必要とされています。

6 終わりに

障害のある人もない人も地域の住民として支え合いながら地域で安心して暮らすことができるよう、国民一人ひとりが、「障害」の問題を他人事ではなく、自分に関係のある問題との認識に立って、今後、広く議論が行われることが極めて重要です。

障害保健福祉施策の方向性については、まだその議論が緒についたばかりであり、厚生労働省としても、そういったさまざまな議論を踏まえ、今後とも、障害保健福祉施策の充実に向け、全力投球してまいります。