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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

統合論をどう考えるか

現行の障害者福祉施策の改革を優先に
―求められる慎重な統合論議―

日本経済団体連合会

厚生労働省は社会保障審議会に介護保険部会を設置して、介護保険制度の全般的な見直し作業を昨年5月より進めてきており、去る7月30日、「報告書」を取りまとめた。制度創設時からの検討課題である、「被保険者・受給者の範囲拡大」については、積極的な考え方と慎重な考え方の両論併記となり、本部会によって引き続き議論を積み重ねていくことになった。

日本経団連では、介護だけではなく、年金、医療、福祉など社会保障制度全体として、税制、財政もパッケージにした改革の姿を示し、経済社会の活力を維持するために現在及び将来の現役世代に過重な負担を強いることのないようにすべきであると主張している。今回の審議会での検討に対応するため、去る4月20日、介護保険制度改革に臨む考え方を取りまとめて、意見書を公表した。

日本経団連意見書の考え方

介護保険制度の改革は、加齢に伴う要介護状態の改善という制度創設の趣旨を堅持しつつ、1.真に必要な人へ適切な給付の重点化、2.負担の公平・公正及び納得性の確保、3.保険者・被保険者双方への効率化促進、この3つの基本的な考え方に基づき進める必要があると提言している。

2.の「負担の公平・公正及び納得性の確保」を図る具体的施策の一つは、自己負担を見直すことである。施設入所者の食費及び居住費は原則、在宅サービス受給者との均衡などを考慮し、低所得者への一定配慮をしたうえで、相当分を全額、自己負担にすべきである。

もう一つは、納得感のある負担方式にすることである。その点で、被保険者の年齢基準を引き下げることについては、次の理由から懸念がある。

A.介護費用の増加に伴い制度の持続可能性が懸念されており、法施行後約4年が経過した段階で、加齢に伴う要介護状態の改善という制度の趣旨を変える状況にはないといえる。B.要支援者・要介護者(65歳以上)及び介護者(40~64歳)の世代に負担を求めることで、受益と負担の関係が明確化する。C.20歳代や30歳代の世代は、高齢者介護の問題に直面する状況が少ないなど、保険料負担を求めることについて理解が得られるとは考えにくい。場合によっては、保険料の未納・滞納問題が生ずるおそれがある。

障害者福祉施策との統合の問題点

仮に、第2号被保険者に対する保険給付について、15の特定疾病に限定して年齢基準を引き下げるとすれば、40歳未満の者は、保険給付を受ける可能性はほとんどないにもかかわらず、新たな保険料負担を求められることになり、到底納得が得られるはずはない。したがって、被保険者の範囲拡大には障害の原因を問わない、つまり、介護保険制度と若年障害者福祉施策とを統合することが視野に入ってこざるを得ないのではないか。

介護保険制度は、他の社会保険制度に比べて先導的な仕組みを幾つも取り入れている。1.保険料及び、応益負担として1割の自己負担分を支払うなど介護サービスの受給者である高齢者自身が制度の支え手側に立つこと、2.在宅サービスにおける要介護度別の支給限度額や、施設サービスにおける要介護度別の定額給付といった給付費の上限が設定されていること、3.要介護認定やケアマネジメントなどの導入により、介護サービスの公平・適正化が図れるような設計にしたことなどである。公助を基本とした障害者福祉施策が、社会保険方式を前提とした、これら先導的な仕組みに馴染むのだろうか。

就労支援や社会参加支援、ガイドヘルプサービス、手話通訳など障害者福祉施策の固有メニューについては、併給が想定される。障害者向けのケアマネジメント機能がないことから、障害者福祉施策が、現行の介護保険制度の枠組みの中で一体的・効果的に機能するかどうか疑しい。さらには、同一の介護サービスであっても、高齢障害者と若年障害者にはニーズの差異があることなど、検討課題は多く、拙速に結論を得ることは慎まなければならない。

障害者福祉施策に必要な財源は、まず、徹底した行財政改革による歳出削減や障害者福祉施策の適正化・効率化・公平化などの方法により捻出することが必要であり、安易な財源対策としての介護保険制度との統合は到底認められるものではない。また、支援費制度などの障害者福祉施策については、運用実態に地域差が存在しており、現行施策の改革を優先すべきであると考える。

障害者団体の中には、障害者福祉施策は公費で実施すべきであるとの考え方が依然として根強いこと、そして、それは多くの国民感情とも一致している面もあることから、慎重な対応が求められる。

(松井博志(まついひろゆき) 日本経済団体連合会国民生活本部長)