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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

1000字提言

私のこだわり食

ニキリンコ

私事で恐縮ですが、このたび、夫の仕事の都合で関西から北海道へ引っ越しました。なにしろ関西圏の外で生活するのは初めてだけに、「冬はどうするの?」とか「車に乗れなくてだいじょうぶ?」とか、まわりはいろいろ心配してくれました。

でも私は木を見て森を見ない、その木さえヨシの髄からのぞく自閉くん。気にする点も人とはちがいます。

スーパーやコンビニ、ホームセンターなどは全国チェーンの企業が多いですが、地方によって勢力地図がちがいます。関西に多かったスーパーやコンビニが、かならずしも札幌にあるとは限りません。おかげでさっそく、「前の家の最寄りのスーパーにあった蕎麦茶・すり胡麻・オリジナルブランドの野菜ジュース」「その向かいの薬屋にあった果糖」「最寄りのコンビニにあったアイスキャンデー」に不自由することになってしまいました。

一方、どこへ行っても困らないものもあります。「キューピーのマヨネーズ」「じゃがりこのチーズ味」「ダイエットコーク」「サッポロ黒ラベル」「キリンの生茶」あたりは、どこへ行っても売ってます。こういうのばっかりがこだわり食品になってくれればいいのにと自分でも思いますが、この種のことって恋愛と同じくいきなり襲ってくるので、自分の意志ではどうにもならんのですわ。

私はケチャップやソースはどこのだろうと気にしないどころか、区別さえつきません。でも、マヨネーズが味の素だったら、自分がだれだか、ここが本当に自宅かどうか、わからなくなりそうで怖いのです。これは好き嫌いの問題じゃなさそうです。確かにキューピーのほうが好きだけど、外食やよそのお宅でなら、味の素のマヨネーズが出ても、がっかりするだけで怖くはありませんから。

服は同じのを制服みたいに着る、ゲームは一本を「やりこむ」、本は限られた数冊を再読する自閉族ですが、同様に、ハマった食べ物を「ばっかり食い」することがあります。今日の自分も昨日の自分の続き、今日のわが家も昨日のわが家と同じ場所という気がして安心だし、予測したとおりの味がすると、誤差を手動で補整しなくていいから、情報処理の負担が減るのです。

私は味覚の異常がなく、感覚過敏からくる偏食もありません。それどころか食に貪欲で好奇心も旺盛です。そんな私でさえこのとおりですから、感覚異常のために食べられる物が限られている自閉仲間はどんなに大変かと思います。

(翻訳家)