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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

障害者権利条約への道

第3回障害者の権利条約特別委員会報告
私たち抜きで私たちのことを決めないで

長瀬修

●NGOコーカス

第3回特別委員会に障害者NGO(非政府組織)は引き続き積極的に参画した。振り返れば、昨年6月の第2回特別委員会は、条約草案のたたき台を準備する作業部会の構成に時間を多く費やした。そして最終的には、全40名の作業部会構成員のうち、3割に当たる12名を障害者NGOが占めるという画期的な決定となった。

その障害者NGOが情報交換、意見交換を行い、連帯して活動する枠組みがNGOコーカスである。NGOコーカスは第1回特別委員会以来、機能している、緩やかな協力の仕組みであり、国際障害同盟(IDA)に加盟している7組織(国際育成会連盟、国際リハビリテーション協会、障害者インターナショナル、世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク、世界盲人連合、世界盲ろう者連盟、世界ろう連盟)に加えて、障害に関心があり、条約策定過程に参画しているNGOが加わって構成されている。そのメンバーは限定されていない。コーカスは可能な範囲で障害者NGOとしての意思統一を図るほか、情報交換の場として活用されている。また、当日、発言する障害者NGOのリストを議長に届ける役割も果たしている。

作業部会や特別委員会などの期間中は、会合前の朝の時間や、昼休み等の時間を利用してコーカスの会合を開いている。第3回特別委員会の際は、委員会開催の前日の23日(日)に国連の近くのホテルにて事前会合を開催し、1.作業部会以来の動き、2.第3回特別委員会での主な論点、3.加盟国へのロビー活動などを議題とした。この会合の結果として、各条文ごとにコーカスとしての検討を行うこととなり、私は日本障害フォーラム(JDF)準備会という立場で、教育(17条)の検討に加わった。教育に関するチームは特別委員会期間中にコーカス案の作成に成功し、加盟国に同案の採用を働きかけた。JDF準備会としての条約全般に関する立場は、インターネットで日本語(注1)、英語(注2)それぞれで公開されている。

●条約策定のスピード

コフィ・アナン事務総長は第3回特別委員会に「勢いを保つべきだ」というメッセージを寄せた。また、ルイス・ガレゴス特別委員会議長は、記者会見で、来年9月のミレニアムサミットのフォローアップの会議では署名できるようにすべきだと述べている。どの程度のスピードで条約策定過程を進めるかに関しては、NGO間の意見も分かれている。6月3日(木)朝のNGOコーカス会合に出席したメキシコのルイス・アルフォンソ・デ・アルバ大使は、国連の場で「時は質の敵である」と語り、来年中の採択をめざす姿勢を鮮明にしている。ちなみに、条約提案をしたメキシコのビセンテ・フォックス大統領の任期は再来年2006年末までである。確かに時間をかければかけるほど質が向上する保証はない。そして、勢いを失って、議論が停滞状態に陥ることは最も避けなければならない。個人的には、来年9月というスケジュールの設定は、一つの目標として設定する価値はあると思う。

●NGO参加の問題

非常に危機感を覚えたのは、第2週後半の3日(木)に噴出したNGOの参画の問題だった。第1週の後半から、議論の収束、促進を図るために非公式会合の検討が議長団や一部加盟国でなされていたが、その過程で、NGOの参加が問題となった。作業部会草案(注3)の第1読が終わり、第2読に移った段階で、NGOを交えて議論を進めるのか、それとも「非公開」の協議に移るのかという点で、一部アジア、アフリカ諸国から異論が出たのである。日本を含むアジアグループは内部で多少の異論があったものの、NGOの参加に異論を唱えないという結論となった。しかし、アフリカグループでは、NGOの参加への異論の声が強く、NGOの参加は認められないという結論に達してしまった。アフリカを代表して副議長国を務めている南アフリカ自身はNGOの参加に反対していないが、アフリカグループの代表として反対の立場を3日午後に会議場で出さざるを得ない状況となった。本稿執筆時点の7月下旬でも、国連の第4回特別委員会ウェブサイトには、〈第4回特別委員会でのNGO参加は、加盟国により見直しが行われている〉と記されている。議長団とアフリカグループの協議は継続中である。

こうした状況に対しては、コーカスが中心となり、特別委員会への参加認定を得たNGOから、第4回特別委員会への障害者NGOの参画を訴える書面がニューヨークの各国代表部に7月1日に出されている。また、JDF準備会をはじめ参加認定のないNGOからの書面も検討されている。

障害者を代表するNGOの条約策定過程への参加は、障害者の権利条約が確立をめざす理念にもかかわる問題である。この条約の策定過程から障害者が排除される事態になれば、まさに、この条約がめざしている理念を踏みにじるものとなり、この条約の正当性に強い疑念を投げかけるものとなる。障害者の十分な参画を抜きにして作られた障害者の権利条約はありえない。

注1  http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/adhoc3/jdf.html

注2  http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc3documents.htm

注3 長瀬修・川島聡編著『障害者の権利条約―国連作業部会草案』明石書店、2004年4月を参照。

(ながせおさむ 東京大学先端科学技術研究センターバリアフリープロジェクト特任助教授)