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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年9月号

すべての方に快適な移動を提供
―神奈川トヨタウェルキャブショップの取り組み―

福長昭憲

成熟段階に入ってきた自動車市場のなかで、福祉車両に関しては、高齢化社会の到来を背景に、まだまだ大きな成長余地が見込まれています。高齢者入口の推移は、総人口比で平成32年に約4人に1人が65歳以上を占める割合となります(表1)。

表1 高齢者人口の推移 (単位:千人、%)

年次 人口 総人口比
総数 65歳以上 75歳以上 65歳以上 75歳以上
1990(平成 2) 123,611 14,895 5,973 12.0 4.8
1995(平成 7) 125,570 18,277 7,175 14.6 5.7
2000(平成12) 126,892 21,870 8,885 17.2 7.0
2010(平成22) 127,623 28,126 13,349 22.0 10.5
2020(平成32) 124,133 33,335 16,645 26.9 13.4
2025(平成37) 120,913 33,116 18,887 27.4 15.6
2050(平成62) 100,496 32,454 18,865 32.3 18.8

平成7年までは総務庁(現在 総務省)統計局「国勢調査」、平成12年度以降は厚生省(現在 厚生労働省)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成9年1月推計)の中位推計値

高齢者の介護者状況は、年齢構成では50代が29.4%、性別では女性が76.4%となっています。介護者の約8割が女性であり、かつ高齢化していることがわかります(表2)。このままでいくと、少子化の影響もあり、21世紀半ばには、総人口が現在より約2割減少する反面、65歳以上の高齢者が国民の3人に1人を占める「超高齢社会」になることが予想されています。

表2 寝たきり高齢者の介護者状況〈平成13年度〉
表2 グラフ

身体の不自由な方で、自分で運転をして、もっと積極的に社会参加をしたい人たちはどうでしょうか。身体の不自由な方の自動車免許取得者は年々増加しています。平成8年身体障害者用車両に限定した運転免許証の条件付き付与件数は17万9183件、平成14年は20万1339件と2万件以上増加しています(表3 警視庁資料)。

表3 運転免許証の条件付付与数の推移
表3 グラフ

では、福祉車両市場はどうでしょうか。日本自動車工業会のまとめによると、平成15年度の販売台数は、前年度比116%(4万4023台)で、トヨタ車に限れば販売台数推移は表4のとおりです。また仕様別では、ここ数年主流となっているのが、シートが回転したり、昇降することで乗り降りしやすい機能が付いたタイプの車両です。トヨタでは、こうした昇降シート車・回転シート車が昨年度販売台数のうちの半数近くを占めています(表5)。

表4 福祉車両市場とトヨタウェルキャブ販売台数の推移(’96~04年 1-3月)
表4 グラフ

表5 仕様別 福祉車両販売台数(’04 1-3月)
表5 グラフ

トヨタ自動車は今年8月現在、43車種に13仕様715タイプの福祉車両を設定し、別名「ウェルキャブ」と名前が付けられています。その語原は、welfare(福祉)、well(健康)、welcome(温かく迎える)プラスcabin(客室)でwellcab(ウェルキャブ)、すべての方に快適な移動の自由を実現するため、さまざまな配慮をした車両のことです。トヨタでは一般家庭における介護などでの使用を想定し、メーカー生産(標準車)で普及を図ってきました。しかし現状では、まだ福祉施設向けが多いのが実情です。お客様の状況やニーズなど、一人ひとりの個性によって求められるウェルキャブも大きく変わってきましたが、標準車では、個々の対応ができない難しさにぶつかりました。そこで、お客様に喜ばれる車作りをめざし、トヨタ自動車支援によるトヨタハートフルプラザを開設しています。

ハートフルプラザは、あらゆるウェルキャブ車を取り揃え、系列横断的な、高齢者、身体の不自由な方のために開かれたショップ形態をとり、全国に8か所あります。規模も大きく、お客様一人ひとりの要望に応える車作りをめざし、ご好評をいただいています。しかし、お客様個々の状況を的確に把握し、車選び(作り)をアドバイスするには、身近なお店としては距離があり、店舗数が少なすぎます。

ウェルキャブ車に対する認知が高まり、本格的な普及期を迎えた現在、トヨタハートフルプラザのような派手さこそありませんが、お客様により近い販売店の強みを活かし、「お客様とともに歩む店」として神奈川トヨタ自動車ウェルキャブショップが平成14年8月、横浜市神奈川区にある本社ビル2階にオープンしました。標準車でのウェルキャブ車は、完成度も高く信頼性があるのは当たり前ですが、先に述べたように一人ひとりのご要望にお応えできないのがメーカーです。その中で販売店には、地域に定着するお店作りが求められています。標準車は既製品ですが、メーカーを問わずお客様によりマッチした使い勝手のよい車にすることは、カスタマイズサービスの領域です。それが私たちウェルキャブショップの大きな使命であり、ビジネスだと考えています。

現在、神奈川トヨタ自動車ウェルキャブショップでは、ホームヘルパー2級、福祉用具専門相談員、サービス介助士2級、福祉住環境コーディネーター3級、整備士2級等有資格者をもった専任スタッフ6人で活動しています。オープン前から、障害のあるお客様のご相談にもっと具体的、親身に対応できるアドバイザーとして、伊佐幸弘さんが専任スタッフの一員として、活動しています。

伊佐さんご自身、20数年前に事故に遭われ車いす生活を余儀なくされました。その後、神奈川県総合リハビリテーションセンターに20数年勤務され、障害者医療の最前線で大勢の障害者の方々と接して来られました。また、日本車椅子バスケットボール連盟会長や日本チェアスキー協会の初代会長を務められ、障害者スポーツ界のパイオニア的存在一人でもあります。長年、障害者医療の現場で培った障害者への深い洞察に基づいて、障害者のお客様に接し、車選びでの最高の相談相手となり大きな信頼を集めています。

お客様と接する時、私たちはいつも車が売れる売れないということではなくて、そのお客様の障害にとってどうすればよいかという観点から考えています。そういう観点からのほうが、よいアドバイスができ、結果的に販売につながっていくという感じをもっています。私たちスタッフの場合、伊佐さんがお客様側の立場になり、企業とお客様の架け橋となり、公平かつ共通認識の土台が生まれると思うのです。伊佐さんは、お客様が来店されると、その動作から、「あなた(の損傷箇所)は第6頚椎ですね」とじかにお聞きしてしまいます。お客様もびっくりされるようですが、こうしたやりとりを通じ「自分のことをわかってもらえる」と思っていただけると、お客様との間にある壁が取り払われ、「全面的に任せよう」ということになってきます。私たちスタッフは、伊佐さんのアドバイスをもとに、お客様の障害の状態を一つひとつ確認しながら、どういう機能を持ったものが必要か見極めアドバイスしていきます。

また、ウェルキャブ販売は、本人だけの問題ではありません。たまたま先日も奥さんが片マヒの障害をおもちのご夫婦が来店されました。今までは普通車をお使いだったため、ご主人は奥さんを半分持ち上げるようなやり方で乗り降りの介助をされていました。私は展示車のリフトアップシート車を試してもらい、ちょっと手を添えるだけで自分自身の力で移乗できることをご説明しました。ご主人にお話を伺うと、すでに腰をかなり痛めていて悩んでおられました。ウェルキャブ車を使用することで、本人の自立支援だけでなく介護する家族側の重労働も軽減し、両者に大きなメリットをもたらすという結果が重要であり、アドバイスだと思っています。

もうひとつ重要なことは、障害者ご本人による実地検証の必要性です。リフトアップシートは足の位置が地面まで下がり楽ですが、回転スライドシート車は足をステップへ上げなければならず、障害によってはその動作も困難な場合があります。このように本当に乗れるか乗れないか、乗った時に痛みはないかどうかまで、きちんと検証することが大切です。このプロセスを踏まないと、後々トラブルになることがあります。実際に、障害者ご本人の確認なしに介護者の判断だけで契約したが、ご本人の膝や股関節に負担がかかり実際には使えなかった、というのはよく聞く話です。

地域に定着した販売店として、お客様の要望に一つずつお応えしていくことが重要と考えています。ウェルキャブがここまで進んでいる車両であることをご存じない障害者、介護者の方がまだまだ多いのではないかと思われます。シルバー世代がこれから増加し、ウェルキャブ車を必要とする方々は確実に増えていきます。コミュニケーションを活性化していけば、当社得意分野でもある既製品から、さらにもう一工夫を加え、お客様により使い勝手のよい車が提供できると考えます。

毎回ウェルキャブイベント開催時は、必ず各種相談に加え、車いす無料点検会も実施しています。不定期ですが、大人も子どもも障害のある人もない人も「みんなでキャンプを楽しもう」や「車いすで船釣にチャレンジ」などの催しも実施しています。店内には、スキー、車いすマラソンや車いすバスケット等のスポーツ用品、アウトドア用品などを幅広く展示、身体の不自由な方のための便利な情報発信基地としてもめざしています。一度遊びに来てください。スタッフ一同心よりお待ちしております。

●ホームページ
http://www.kanagawatoyota.com

(ふくながあきのり 神奈川トヨタ自動車株式会社営業企画部ウェルキャブ室室長)