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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

学校現場から

小・中学校と特別支援教育の未来

山形紘

1 通常学級と特殊学級の仕切りが見直される小・中学校

従来から、わが国の公立小・中学校は、99%の子どもたちの教育である「通常の学級の教育」と1%の子どもたちの教育である「特殊学級の教育」とを併せ持つ学校として歩んできた。

自治体によって、特殊学級の設置率や形態など異なっている場合もあるが、全国3万5千の小・中学校のうち1万8千校(全体の55%)は特殊学級を設置している学校であり、設置校と呼んでいる。東京都のように設置率20%から奈良県のように100%を超える自治体まで、さまざまな実態で、自治体の公立学校教育は進められてきている。

ところが、平成13年1月に示された「21世紀の特殊教育の在り方について~一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について~」、さらには平成15年3月の「今後の特別支援教育の在り方について」等々の報告により、従来からの小・中学校にあった両者の仕切りが見直されることになった。具体的には「特殊学級」の在り方を見直し「特別支援教室」へ転換し、全校に設置する構想となっている。

特にノーマライゼーションを前面にした「特殊学級の見直しと特別支援教室の設置」という考え方は、特殊学級を預かる者にとっても、通常の教育しか携わらなかった者にとっても、時代の大きな転換を迎えることになった。

つまり、今回の一連の報告書によって、「通常の教育」と「特殊教育」との仕切りが見直され、小・中学校には時代に対応した新たな分担が求められている(=教育活動の再編成)と考えるのが、自然であろう。

ことに近年、学級の荒れ・不登校などの課題や、子どもをめぐる事件・事故の発生とともに、通常の学級に在籍しているLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症などのいわゆる「軽度発達障害」児童生徒の支援教育が、義務教育段階の大きな課題となったことを一つの要因としている。

2 場の保障から「一人一人のニーズ」への深化

報告書からは、これからの義務教育のキーワードは「一人一人のニーズに応じた特別な支援」や「一人一人の教育的ニーズに応じた適切な教育的支援」ということが伺える。

「特別支援教育」とは、従来からの特殊教育の対象者(視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱虚弱・言語障害・情緒障害)に、学習障害、注意欠陥/多動性障害や高機能自閉症を含めた「軽度発達障害」と呼ばれる障害群の子どもの「自立」と「社会参加」に向けて、これら十あまりの障害幼児児童生徒「一人一人の教育的ニーズ」を把握したうえでの教育的支援を行うものと定義されている。

そのうえ、現在の危機的な国家財政の中、人的財政的拡充を前提としない今回の特別支援教育の構想は、「特殊学級教育の充実発展」を図るものと言われ提案されている。

しかし、政府の地方財源確保=三位一体の手法による義務教育国庫負担の一般財源化に見られるように、これらの報告に述べられている「従来からの特殊学級の見直し」は、現在の特殊学級制度の廃止を伴うという見方が自然で、今回の改革の方向は、教育のレベルダウンにつながるものと捉える向きが多いのも事実である。

一方、通常の学級に在籍している学習障害児や注意欠陥/多動性障害児や高機能自閉症児など6.3%の子どもたちにとっては、「一人一人のニーズに応じた特別支援の場」として通常の学級とは別に「特別支援教室」を全校で設置するという構想には大歓迎との声も多い。

いずれにせよ、これからの小・中学校は、1%の特殊学級在籍児と6.3%の「軽度発達障害」児を含めた約1割の特別なニーズを持つ子どもたちに対して、「特殊学級という教育の場の保障」からトータルに教育していく機関(特別支援教室を持つ学校)として質的な転換を求められていることは確かである。

3 始まったモデル事業の展開

昨年3月に「今後の特別支援教育の在り方について」最終報告が示されてから、文部科学省は間髪を入れずに全国的に特別支援教育推進モデル事業を展開している。取り組みは県独自に進めているものを含めてなど、力の入れ具合も異なりさまざまである。

また、本年1月には「小・中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」が作成され、全国の小・中学校に配布され、総合的な支援体制づくりが強化されている。

この1年共通しているのは、モデル事業として1.校内委員会を設置すること、2.特別支援教育コーディネーターを養成・指名すること、3.関係諸機関の連携を図ることであり、地域による独自の工夫が伺える。

しかし、小・中学校にとっては、従来の盲・ろう・養護学校が特別支援学校として名実共に地域のセンター校=推進校として外部に向かってサービス事業を展開することが、小・中学校の「特別支援教育」を支える必要条件である。

小・中学校では、校内委員会を準備し、コーディネーターに至らないまでも担当者を置き、特別支援教育を模索し始めている。さらに特殊学級を持つ設置校では、「特殊学級から特別支援教室への転換」を模索し、いくつかの障害に対応できる「特殊学級」を試みている。一方、特殊学級のない学校では、「特別支援教育」以前に「障害児」への理解推進も立ち後れている現状がある。

4 障害の有無を越えた小・中学校をめざして

1994年の「サラマンカ宣言」に端を発するインクルージョン教育の世界的潮流は、わが国では「一人一人の教育的ニーズを支援する特別支援教育」として結実した。これに対して各界各様の認識はあるが、私は、通常の教育の外側に置かれていた特殊教育の時代は制度的に終わりを告げたという点を評価できる。

特に、特殊学級・特殊教育に熱心な者への評価が、これを機会に正当になることを期待している。通常の教育に必要となった特殊教育の考え方や指導法を全校が学ぶことや、とりわけ校長が必須の内容として「一人一人のニーズに基づく教育」観として、全国津々浦々の学校に確立させることが、これからの教育を左右することになろう。

障害者基本法の一部改正により「国及び地方公共団体は、障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない」と唱ったことは、21世紀のわが国の義務教育の方向が人権の時代を一歩高めたものと理解している。

一方、全特協は、4月の中教審のヒアリングで「特殊学級の存続を含めた特別支援教育」が今後とも小・中学校において必要と訴えたのは、現場を預かる校長会として障害種別のニーズと特殊教育の各県の現状からトータルに示したものである。

障害のある児童生徒にとって、地域にある小・中学校での教育が「共育・協育」に向かって、国民の意識変革を伴い、ノーマライゼーション社会の実現に進むことを期待してやまない。

(やまがたひろし 全国特殊学級設置学校長協会会長)