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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

学校現場から

盲・聾・養護学校は、高い専門性を持つ
地域の支援センターとしての特別支援学校をめざします

神尾裕治

これまでの特殊教育を継承・発展させる特別支援学校

国公私立合わせて全国約1000校の盲・聾・養護学校は、障害種別の違いや都市部や山間部といった環境の違い、地域や保護者等のさまざまなニーズの違い、設置者の違いなどからくる多くの困難な課題に取り組み、障害のある子どもたちの成長・自立への努力を重ねてきました。これまで、全国各地のいくつもの学校で、個別の指導計画の作成や指導方法、教材・教具の開発、乳幼児への早期教育相談、重度・重複障害児への医療と連携した指導、職業教育の充実や就労に向けた移行支援計画の試行など、先進的な取り組みを行ってきています。

平成14年12月の障害者プラン(5カ年計画)と、平成15年3月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」に基づき進められてきた特別支援教育推進事業は、盲・聾・養護学校のこのような取り組みを加速させております。私ども全国特殊学校長会は、特別支援教育の構想を、これまでの盲・聾・養護学校の教育を継承・発展させ、対象を1%から6%へと拡大するとともに通常の学級との柔軟な接続を可能とする弾力的なシステムを全国的に作り上げようとする果敢なチャレンジであると受け止めております。

専門的で質の高い教育を行う特別支援学校

「楽しそうだけれどもっと専門的な指導をしてほしい」とか「担任が替わったらこれまでの学習と違う内容になって、せっかく積み重ねてきたものが崩れ心配だ」といった保護者の話を聞くことがあります。平成11年からの現行学習指導要領で、自立活動と重複障害児童生徒について作成することとされた「個別の指導計画」は、現在はほとんどの盲・聾・養護学校で全員に作成されつつあります。これを充実させることが地道ではあるが保護者の不安をなくし信頼を得ることになります。保護者と意見を交換しながら「個別の指導計画」を作成することが大切です。そして、各学部や学校全体で子どもたちの教育や成長について共通理解すること、また、学校評議委員会や学校運営協議委員会等の第三者の評価委員による評価を受けて、教育内容の充実を図りたいと考えています。

盲・聾・養護学校が、これまで蓄積した専門性を継続・発展させるためには、学校全体として専門的な力量を付けることです。学校組織を開いて、各学校のサポーターとして、それぞれの障害教育の研究者や専門家、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、視能訓練士等のさまざまな専門家が学校と連携して日々の授業をレベルアップする仕組みを作り上げることが大事です。

盲・聾・養護学校には実に多様な障害の子どもたちが、さまざまな経緯をたどり転・入学してきています。特別支援学校になればさらに多様な子どもたちを引き受けることになります。そこで、一人ひとりの教員の資質を向上させるために、多様な障害について幅広い知識技能を持つ特別支援教育の免許状取得の義務づけと、それぞれの障害種別についての専門的知識技能を持ったレベルの高い教員の養成が必要です。それだけではなく、学校現場で子どもたちとの日々の格闘を通した質の高い専門性が、特別支援学校でも最も力を発揮することは間違いありません。子どもたちとの実践の中でキャリアを積んだ、それぞれの障害種別の授業のスペシャリストが認定され、スーパーバイザーとして特別支援コーディネーターとともに子どもたちの支援に当たれば、質の高い専門的な特別支援教育を推進することができるでしょう。

地域の障害支援センターとしての特別支援学校

特別支援学校の目的の一つに、「地域の小・中学校等への支援を行う」ことが明記されることにより、LD・ADHD・高機能自閉症等を含む、地域の障害のある子どもたちや、保護者、担当する指導者等へのさまざまな支援を行う、センターとしての役割をこれまで以上に果たすことができます。

盲・聾学校を中心に行われている0歳からの最早期教育相談や育児教室等の保護者支援は、ここ2~3年で倍増しています。学校に来てもらうだけでなく、療育施設や保育所等への巡回訪問相談も年々増加しています。また、幼稚園や小・中学校へ出向いての相談支援も、通級相談支援を上回るほどのニーズがあります。養護学校でも、地域の福祉機関や教育委員会とタイアップした、療育センター・保育所・幼稚園・小学校・中学校への支援を組織化する試みが各地で行われています。さらに、行動が気になったり障害のあったりする子どもを実際に担当している指導者向けの講習会では、分かりやすいシュミレーション体験や教材・教具の紹介、模擬授業が好評です。そのような子どもを担当していない通常の学級の先生方対象の集中講座等の研修会を開催すると、教員や福祉の担当者や保護者等の大勢の方々の参加があり、関心が年々高まってくる手応えを感じます。

これらの地域支援センターとしての活動が、特別支援学校の大きな役割として規定され、在籍の子どもたちへの指導の充実と両輪となって拡大充実することによって、特別支援学校が地域に開かれ、必要な方々に身近に感じていただき、自由に活用してもらえる支援機関となることができると考えます。今回の特別支援教育の推進をチャンスとして全国的な取り組みが一斉に進んでいくことが期待できます。

生涯にわたる支援の核となる特別支援学校

保護者は、わが子の言葉や身体の働きや行動の遅れが気になったり、障害があると分かったりすると一人で思い悩み、あちらこちらと相談に歩き、その結果に一喜一憂しながら子どもに一番合ったところを求め続けたと話されます。残念なことに、このような取り組みは、保護者の努力にかかっているのが現状です。

子どもが誕生したら医療・福祉・教育が一体となってその健やかな成長を支援し、保護者は最も重要な支援者の一人として、余裕を持ってわが子の状態を受け入れ、成長を喜ぶようなシステムが一番必要とされていると考えます。

今回作成することとされた「個別の支援計画」は、そのようなシステムづくりのための大事な道具です。盲・聾・養護学校は個別の教育支援計画を平成17年度に作成することになっており、私ども全国特殊学校長会は、今年5月に、個別の教育支援計画の考え方や作成の仕方、活用の仕方を『個別の教育支援計画(中間まとめ)』として公表しました。

17年度は在籍している子どもたちの教育支援計画を作り、子どもたちを取り巻く支援者が集まって支援会議を開くことにより、教育・医療・福祉・労働等の連携が図られます。高等部から就労に向けての「移行支援計画」は、各地の盲・聾・養護学校で取り組みが始まっています。さらに、乳幼児期から就学に向けての支援計画の作成を基に、支援会議を開くことにより、子どもたちの発達の状態に合った適切な援助をどこで、どのくらい、どのように行うかについて共通理解を深めることができます。そのことにより、子どもたち一人ひとりのニーズにあった教育を柔軟に行うことができます。

私ども、盲・聾・養護学校は、各地の置かれた環境の中で、専門性とセンター機能の両輪を充実するよう努力しています。盲・聾・養護学校が、生涯にわたる支援の核となる特別支援学校へと進化する姿を保護者の方々に見せることができるよう努力を続けていきます。

(かみおゆうじ 全国特殊学校長会法制度検討部会長・東京都立久我山盲学校校長)