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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

行政・学校・地域に要望し期待すること

どうなる、これからの難聴児教育

全国難聴児を持つ親の会

難聴特殊教育(学級)から特別支援教室へ

現在、「特殊教育」制度での難聴学級の形態は、固定制難聴学級と難聴通級指導教室の二つの方式です。特別支援教育になれば、どのように変わるかについての具体的な内容は明示されていませんが、障害のある児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じた個別の教育支援計画(プログラム)への転換の意味するところは、毎日は通常の学級の中での学校生活を想定していると思われます。

難聴児を持つ親の中には通常の学級で地域の子どもたちの中での教育を望んでいる親の存在は否定できませんが、子どもたちにとって最適な状況と言えるかについては、疑問を持つ親が増加しています。「ノーマライゼーション」の理念からすれば、地域の子どもたちと学校生活を送れる特別支援教育(教室)制度は素晴らしいことですが、共通のコミュニケーション手段が必要です。聞こえる子どもたちは音声言語でコミュニケーションをしますが、難聴の子どもにとって音声言語によるコミュニケーションは不可能です。学習時だけでなく、遊び時間を含めあらゆる場面での情報保障が確保できるかについては疑問を持たざるを得ません。

集団をどのように確保するか

子どもの成長にとって、「学習」の時も、「遊び」の時も、集団は不可欠なものです。「学習」の時には、子どもたちが教材を通して自分の感想や意見を交換してこそ、本当の学習と言えるのではないでしょうか。級友の考えをリアルタイムに理解し、自分との違いを考えることができる状況が必要です。新学習指導要領では「生きる力」を子どもたちが身につけることをめざしています。「自ら考え自ら学ぶ力」をつけるための「総合的な学習の時間」も導入されました。グループ学習のような授業形態は難聴児のもっとも苦手な方法です。「遊び」の時にも集団の必要性が忘れられつつあるように思います。テレビゲームなどの一人遊びが増え、集団での遊びのルールが理解できないことにより、いろいろな問題が生じていると言われています。聞こえる子どもと共通のコミュニケーション手段を持たない難聴の子どもにとっては、学校や地域での「学び」や「遊び」を通した育ち合いがうまく機能せず、社会人になってから難聴特有の問題行動が指摘されることがあります。

難聴児の出生率が減少傾向にあり、地域によっては集団の形成が困難な状況にありますが、少しでも集団を形成するにはどうすればよいかについて、学区制の変更も含め親が深く考える時だと思っています。

親に対する学習支援

[特別支援教育]では、障害のある子ども一人ひとりのニーズに合った「個別の教育支援計画」の策定、実施、評価(Plan―Do―See)が重要とされています。教育支援計画の策定や評価の実施については、専門家、保護者、担当の教員が当たると理解しています。計画の策定、評価に保護者が参加するということは、策定・評価がわが子にとって、本当に必要な教育上の指導や支援になっているか、いないかの判断が求められます。保護者として判断をするには、かなり深い知識が必要です。保護者の勝手な意見ではなく、理論的な裏付けを持った的確な発言でなければ、担当教員を納得させることができません。保護者の独(ひと)りよがりの意見としてではなく、説得力のある内容でなければ学期末や年度末に行われるであろう、到達度評価の判定時に正確な判定ができません。子どもの能力、担当教員の指導力、学校全体の支援体制等についての的確な判断と、次の学期や年度に向けての計画の策定が中途半端なものになり、従来のように「聞こえていないのによく頑張っていますよ」という、あいまいな表現で実施、評価が行われる危険性を感じています。

すべての親が、教科学習の内容や、子どもの成長に合わせた学年の到達目標について熟知するのは困難ですが、今まで以上に、親も学習をする必要性を痛感しています。親の会の活動も、従来の要求を中心とした活動から、親に対する生涯学習の場として存在することが求められていると思います。

さいごに

「新学習指導要領」で示された[絶対評価]が、鍵を握っていると考えます。今までの学級ごとの5段階評価でなく、子ども一人ひとりの学習到達度がはっきりわかる制度だからです。[絶対評価]による正確な判定が望まれます。週5日制による教科学習時間の減少、習熟度別授業や小学校での英語教育の導入、6・3制の見直し、学級定数の地方裁量等、教育を取り巻く環境は激変の時代に突入しました。

このような厳しい状況の中で、集団の確保をどうするか、親に対する学習をどのように支えていくか、今まで以上に一人ひとりが現実を直視し、子どもたちにとってよりよい環境の整備に心を砕く時だと考えています。

(稲田利光(いなだとしみつ) 全国難聴児を持つ親の会会長)