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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

行政・学校・地域に要望し期待すること

大切にしたい「特別支援教育の基本理念」

全国LD親の会

はじめに

特別支援教育への転換の提言には、

  1. 従来の特殊教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症等を含める。
  2. 一人一人の教育的ニーズに応じた特別の教育的支援を行う。
  3. 乳幼児期から学校卒業後まで一貫した支援を行う。

という三つの素晴らしい基本理念が示されている。

この特別支援教育がめざす基本理念については、賛同する意見が圧倒的に多い。これは現在の特殊教育が抱える問題点を認識し、変革を必要とする意見が多いことを示している。しかし、特別支援教育への転換については、総論には賛成だが各論になると反対や懸念の声が聞こえてくる。反対や懸念の声の中には正論も多いが、障害や困難をもつ子どもたちを中心とした視点が欠けているのではないかと思われるものもある。「だれのための特別支援教育なのか」、原点に立ち返り議論する必要がある。

特別支援教室の早期実現を

LD、ADHD、高機能自閉症等の子どもたちは、従来は特殊教育の対象にならず、通常の学級では勉強についていけなかったり、はみ出してしまい、適切な支援を受けることなく、放置されてきた。このLD等の子どもたちに対する特別な指導の場として提言されているのが、特別支援教室である。現在の制度では、週に3~8時間の通級指導教室か、100%固定の特殊学級という落差の大きな場しか用意されていない。

LD等も含めて障害をもつ子どもたちの支援ニーズは多様であり、週あたり1時間から28時間まで個に合わせて柔軟に「抜き出し指導」の設定が制度として可能な、特別支援教室の早期設置が望まれる。

この特別支援教室については、特殊学級と通級指導教室を統合する形での設置が提言されており、その形態が明確に示されていないことから、「特殊学級がなくなるのは困る」等反対や懸念する声も上がっている。

新たな特別支援教室に必要なこと

現在の特殊学級と通級指導教室を特別支援教室に転換させていくためには、法令の改定が必要である。この際に従来の特殊学級と通級指導教室で行ってきたサービスを低下させず、安定性を確保し、多様なニーズに対応可能な仕組みを作ることが求められる。

そのためにはまず、教室設置、教員配置の安定性を確保できる制度とすることが必要である。

特別支援教室は、「学級」ではなく「教室」として提言されているが、現行の法令では教員配置は加配処置になり、安定性に欠ける危険性がある。特別支援教室ではなく、特別支援学級とすることも一つの案である。また、「教室」の位置づけを法令で明確化し、教員を安定的に配置できるように定める等、教室の設置、教員配置について安定性を確保し、LD等の児童・生徒も含めて、特別支援教室を必要とするすべての児童・生徒が、安定的に適切な教育的支援を受けられるような制度を構築することが必要である。

もう一点は、特別支援教室について多様なニーズに対応可能な仕組みとすることが必要である。特別支援教室には、現行の特殊学級や通級指導教室に通う子どもたちに加え、LD、ADHD、高機能自閉症等が対象となることが想定されている。これらの児童・生徒の中には、昨年東京都の報告で提言されているように、1.現行の特殊学級に準じた形態、2.現行の通級に準じた形態、3.教員が学校を巡回して指導する形態など、多様なニーズに対応が可能な仕組みとなるように、柔軟な制度を構築することが必要である。

おわりに

障害があってもなくても、障害の種類が何であれ、障害が重くても軽くても、すべての子どもたちに適切な教育がほしい。保護者の願いは一つであり、単純である。特別支援教育がめざす姿も同じであるはずだ。

最近、特別支援教育への検討が各論に入るにつれて、子どもたちを中心に据えた視点や、特別支援教育の基本理念が薄れてしまっているように思える。この素晴らしい基本理念に立ち帰り、障害をもち支援を必要としている子どもたちのために、「どうしたら実現できるのか」という、前向きな議論と取り組みをぜひお願いしたい。

(山岡修(やまおかおさむ) 全国LD親の会会長)