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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

1000字提言

「働くことを当たり前とする社会の構築」に向けて

関宏之

1948年(昭和23年)9月に、かのヘレン・ケラー女史が「障害のある人を社会から排除してはならない」と訴えて全国を講演行脚し、「身体障害者福祉法」の制定とともに、「就労促進」に関しても政府機関や関係者に働きかけた。それを記念して毎年9月には、全国各地で障害のある人の企業就職を促進させるための運動が展開されてきた。

しかし、いまのわが国では、福祉施設から一般就労に移行した人は1%程度、授産施設等での工賃は利用者一人当たり平均月額2万円弱、法定雇用率を1.8%とする雇用率制度(身体・知的障害)があるものの実雇用率は1.48%、6割近い企業で雇用率が守られていない。養護学校卒業生の56%が施設などを利用し、就職者は19%である。

就労実態は慢性的に低迷状態にあり、厚生労働省は、「障害者の就労支援に解する省内検討会議」の〈とりまとめ〉を公表し、地域生活の重要な柱として「就労支援」を位置づけ、多様な施設形態や基盤整備を図るべく福祉施設体系の見直しや就労支援施策の充実強化を提唱した。

福祉施策と労働施策の実質的な融合を図るためには、1.就労を組み込んだ地域生活を指向したケアマネジメント機能の確立と個別的でインフォーマルな社会資源の利用機会の拡充、2.企業就労に固執しない多様な雇用環境(体制)の整備、3.支援側(者)の就労支援にかかるインセンティブを重視した費用体系、4.「地域を耕すこと」を基調としたコミュニティ・ワークを展開すること、があげられる。

また、雇用就労の隘路(あいろ)は、就業できる人とできない人を区別する〈効率主義〉にある。就労を望むすべての人の就業を保障するために現行の能力主義一辺倒の雇用率制度を改め、一部の国で実施されている支援雇用制度(supported placement scheme)に倣(なら)った所得保障制度を創設する必要もある。

「働くこと」によって豊かな人生への確信が持てる社会であることが皆の願いである。心身機能の変調を理由に〈労働機会〉が剥奪されれば、大多数の市民が受納している諸々の権利や社会参加の機会を喪失し、さらには耐えがたいスティグマ(stigma)を負う。障害のある人を「職業生活」から締め出すというハンディキャップ状況は、わが国の社会メカニズムが産みだしている負の所産であり、その改革を怠っていいはずはない。

(せきひろゆき 大阪市職業リハビリテーションセンター所長/特定非営利活動法人大阪障害者雇用支援ネットワーク代表理事)