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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年10月号

列島縦断ネットワーキング

静岡 誰もが暮らしやすい社会をめざして
しずおかユニバーサルデザインシンポジウムの開催

鈴木妙子

次期行動計画の策定

静岡県では、誰もが暮らしやすい地域づくりを進めるため、ユニバーサルデザインを全国で初めて、県政の基本的な考え方として位置付けました。

ユニバーサルデザイン導入の初年度となる平成11年度、県行政の幅広い分野に導入するための方策などを検討するため、各分野の専門家からなる「しずおかユニバーサルデザイン懇話会」を設置しました。そして、その議論を参考に計画期間が平成12年度から16年度までの「しずおかユニバーサルデザイン行動計画」を策定し、さまざまな分野でその実行を図っています。

同計画の最終年度となる今年度、静岡県では、ユニバーサルデザインの一層の推進を図るため、平成17年度から22年度までを計画期間とする次期行動計画の策定を進めています。

ユニバーサルデザインとは、すべての人のためのデザインであり、まちづくりやものづくりなどを進めるに当たり、はじめからできるだけすべての人が利用しやすい環境、建物・施設、製品等をつくっていこうとする考え方です。従って、ユニバーサルデザインの推進には、行政、事業者、県民の連携、協力が必要不可欠です。このため、学識者や専門家、事業者、県民からなる「しずおかユニバーサルデザイン行動計画策定検討委員会」を設置し、議論や検討を重ねながら策定作業を進めています。さらに、ユニバーサルデザインへの関心を高めるとともに、県民がユニバーサルデザインに関して感じていることや要望などを聞くため、シンポジウムを県内2会場で開催しました。

シンポジウムの開催

しずおかユニバーサルデザインシンポジウムは、前述の行動計画策定検討委員会の委員をパネリストに、8月に浜松市、9月に沼津市で開催されました。“誰もが暮らしやすい社会をめざして”をテーマに基調講演、パネリストの討論に続き、地域活動をしている人、会社員、高齢者、障害のある人などさまざまな参加者とパネリストの間で活発な意見交換が行われました。

浜松会場(会場:静岡文化芸術大学)

浜松市で開催されたシンポジウムでは、上島清介(うえしませいすけ)委員長(ヤマハ株式会社相談役)が基調講演でユニバーサルデザインの広がりを行政や企業の取り組み事例を交えて紹介。道路や建築物などの基盤整備を進めるとともに、人々がそれぞれの違いや多様性を認め合い、思いやりの気持ちを持って行動することが暮らしやすい地域づくりに必要であると話し、ユニバーサルデザインは今や時代のキーワードであると締めくくりました。

続いて、鴨志田厚子(かもしだあつこ)副委員長(財団法人共用品推進機構理事長)がものづくりのユニバーサルデザインについて、高齢者の使いやすさを中心にさまざまなデータを使って説明。古瀬敏(こせさとし)委員(静岡文化芸術大学教授)は、ユニバーサルデザインのまちづくりを住まいから目的地までの移動を含めて、現状の課題を挙げながら説明し、ユニバーサルデザイン化をしないと、中心市街地の空洞化を招くと警鐘を鳴らしました。最後に、見野孝子(みのたかこ)委員(株式会社LCウェルネス代表取締役)が高齢社会のユニバーサルデザインを寝たきりにならずに、元気で過ごすことの重要性を毎年各地で開催している高齢者や若者などをモデルにしたユニバーサルファッションショーを事例に説明しました。

その後、意見交換に移り、会場からは、高齢者や障害のある人が生活しやすい環境は多くの人が暮らしやすいので、ユニバーサルデザインの施設整備を進めてほしい、IT(情報技術)化が進んで、駅の券売機など高齢者には、複雑で分かりにくくなっていることにも目を向けてほしいといった意見が出されました。また、東京の主要駅には、お助けボランティアがいて車いすの人、お年寄りの荷物運びなどを手伝ってくれる。誰もがまちに出られるよう、ハード、ソフト両面の充実を図ってほしいとの要望も出されました。

沼津会場(会場:沼津市立図書館)

沼津市でのシンポジウムでは、秋山哲男(あきやまてつお)委員(東京都立大学大学院教授)が交通のユニバーサルデザインについて基調講演しました。交通の需要・ニーズ、問題の把握の必要性と公共交通を運営するシステムの充実が高齢社会の移動の困難さを解消するために必要であると話し、金沢市のコミュニティバスや海外の事例などを交え、今後の交通システムのめざす方向性を紹介しました。

続いて、山内令子(やまうちれいこ)委員(静岡県社会就労センター協議会会長)が少子高齢社会に向けて、世代間交流や心のユニバーサルデザインの大切さを地域で活動している高齢者や保育園の休日保育などの子育て支援を例に説明。次に、青野全宏(あおのまさひろ)委員(NPO法人障害者サポートセンター理事)が障害のある人の立場からユニバーサルデザインの理念の誰もが社会で公平と平等であるということを決して忘れずに、まちづくりに市民・生活者の発想を取り入れ、少しでも良くなるようにチャレンジすることが大切だと訴えました。最後に、川口良子(かわぐちりょうこ)委員(株式会社川口建築都市設計事務所専務取締役)が住民参加のまちづくりを静岡市の事例を挙げて紹介。マニュアルどおりのまちづくりの課題を指摘し、より多くの人が参画できる仕組みづくりが必要だと話しました。

意見交換では、車に乗れない高齢者は移動に不便さを感じているので、公共交通手段を充実させてほしい、足を捻挫したとき駅の階段の長さと高さが身にしみ、当事者になってみないと見えてこないものがあるという意見。また、障害のある人の就業への企業側の理解を求める意見、障害のある人と一般の人々との心理的な壁を指摘する意見もありました。

次期行動計画の五本の柱

静岡県では、シンポジウムでの基調講演や討論、参加者からの意見や要望を策定中の行動計画に反映し、次の5項目を主要施策に位置付け、効果的で着実な推進を図っていくこととしています。

  1. ユニバーサルデザインの考え方の普及
  2. すべての人が暮らしやすいまちづくり
  3. すべての人が使いやすいものづくり
  4. すべての人に配慮したサービス・情報の提供
  5. 自立と共生の社会づくり

「富国有徳」の魅力ある地域づくり

本県では、総合計画で「真の豊かさと有徳の志を兼ね備えた『富国有徳』の魅力ある地域づくり」を進めることを基本理念としています。ユニバーサルデザインは身近な住宅から道路や公園など、まちの中のさまざまな施設をはじめ、そこで提供されるものやサービス、人々の意識のあり方まで、あらゆる分野に及びます。また、違いを認め合い、思いやりの気持ちを持つことは有徳の志につながります。

静岡県では、ユニバーサルデザインがもたらすさまざまな利便性によって地域の付加価値を高め、誰もが暮らしやすく魅力にあふれた地域づくりを進めていきます。

(すずきたえこ 静岡県生活・文化部ユニバーサルデザイン室主幹)

表 ユニバーサルデザイン浸透度調査(静岡県調査結果)
図 グラフ