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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号

認定する立場から

精神障害者の認定をめぐる諸問題

築島健

手帳制度における「精神障害」の捉え方

1981年の国際障害者年に先立ち1980年に発表された「国際障害分類(ICIDH)」では、「障害」を、病気や外傷等の結果生じる「機能障害」、それに基づく「能力障害」、前二者に引き続く「社会的不利」の3階層からなるものとした。これに当てはめれば、統合失調症をはじめとする精神疾患の症状は、まさしく「機能障害」であり、これらの症状に伴って生じるさまざまな「能力障害」が存在する。また、精神疾患による能力の障害ゆえにさまざまなレベルで社会的な参加が制限される「社会的不利」が存在することになる。つまり、「精神疾患をもつこと」は、まさしく「『障害』を体験すること」であるといえる。ICIDHのモデルに当てはめれば、「精神障害とは、精神疾患のある人が体験する、一連の身体・心理・社会的な、不都合な体験」ということになる。この考えは平成5年の障害者基本法、同7年の精神保健福祉法改正の基礎となり、わが国の精神障害者対策を前進させるものとなった。ICIDHは2001年に『国際生活機能分類(ICF)』に大きく改訂されたが、精神障害者保健福祉手帳の制度は、今なおこのICIDHの古い枠組みに強く依拠したもので、いくつかの点で実情にそぐわない部分も見えてきている。

手帳の等級判定の方法

手帳の交付は都道府県および政令指定都市の行政処分(自治事務)である。平成14年度からは精神保健福祉センターが障害等級の判定機関となった。

障害等級の判定は、申請時に提出された診断書の主治医判断の記載をほとんど唯一のよりどころとして行う。

障害等級の判定の基準は、国が示した「精神障害者保健福祉手帳障害等級判定基準」による。精神疾患の種類や状態によって、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害の状態の関係は必ずしも同じではないため、一律に論じることはできないが、精神疾患の存在と精神疾患(機能障害)の状態の確認、能力障害の状態の確認のうえで、精神障害の程度を総合的に判定して行うことになっている。「総合的に」とはいうものの、実務上は、精神疾患(機能障害)の状態と能力障害の状態は、医学的な常識の範囲内で一定程度の整合性がとれていることを確認したならば、あとは、能力障害の程度に従い等級を判定することになる。

問題点など

現行の障害等級の判定は、「障害等級判定基準」によりつつも、各自治体の比較的幅広い裁量に係るものであるが、このことは手帳交付の決定の曖昧さをもたらしている。その結果、自治体間において判定の差異が認められることになり、さまざまな取り扱い上の困難があるばかりでなく、行政処分としての信頼性と安定性を損なうような弊害が一部に指摘されている。

自治体によっては決定処分に対して異議申立の事例が多発していること、そして、手帳の等級とケア・アセスメントの結果が必ずしも一致しないことから障害者に対する具体的な支援に直ちに結びつくものではないなどの問題点が示唆されている。手帳制度が税控除や生活保護制度など経済的法益に係る他の行政処分と深い関連があることから、判定については行政手続的に十分に整理される必要がある。また、手帳の等級と支援の必要性が一致しないことは、自治体における障害者施策の推進に手帳が役立たないという深刻な問題につながっている。実際上は生活保護の障害加算の決定如何にしか使われていないという声すらある。

これらの問題の一因には、現行の判定において、障害者の生活機能の状態を適切に評価するための情報が十分に得られていないことが挙げられる。主治医は患者としての精神医学的状態は正しく把握しているとしても、診察室外の生活者としての状況(たとえば、食事、清潔、金銭管理、服薬、対人関係、安全保持、社会的手続、趣味娯楽など)を十分に把握しているとは言い難い。患者・家族の申立あるいは病状からの類推によって申請書類が作成されているとすれば、地域における障害者支援の必要性とかけ離れた判定結果が出るのも無理はない。

手帳の診断書を作成する医師が手帳制度をよく理解していないことが少なくないことも大きな問題である。精神保健福祉法には、身体障害者福祉法第十五条の「指定医制度」にあたるものがないため、事実上、「だれでも」診断書が書ける。理解が不十分なまま書かれた診断書は適切に判定されないことになるため、障害者の権利を強く侵害する。

また、現行の判定方法は、「『仮想的正常』にくらべて、どのくらい能力が減損した状態にあるか」を理念的に判定するものであるが、これを改め、障害者個人の生活機能の程度に則した「支援の必要性」を判定するものにしてゆく必要があること、つまり、診断書に盛り込まれるべき情報は、ICFの考え方に基づくものであるべきことが求められる。

問題改善への道筋

この10月に「改革のグランドデザイン」が発表され、「障害福祉サービス法(仮称)」が次の通常国会に提出されるという。詳細はいまだ明らかでないが、手帳制度を含む障害者施策が大きく転換することになる。なお、現在、厚生労働科学研究「精神障害者保健福祉手帳の判定のあり方に関する研究」が全国精神保健福祉センター長会を中心として進行中である。判定する立場および地域支援体制をつくる立場からの問題整理を、新制度の運用に活かすことが望まれる。

(つきしまたけし 札幌こころのセンター所長)