「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年12月号
諸外国における障害認定の状況
―身体障害の認定を中心に―
植村英晴
現在社会は、障害のない人を念頭に制度が作られ、環境が整備されて来ているために、障害者はさまざまな不利益を被り、社会活動や社会参加が制限されている。このために多くの国では、障害者の社会参加を促進し、障害のある人とない人との機会の均等化を図るためにさまざまな施策を実施している。この施策は、医療、年金、介護、各種手当、教育訓練、雇用など広範囲に及び、多様な目的で実施されている。
建築物や駅舎のバリアフリー化、テレビ番組に字幕を挿入する情報のバリアフリー化など必ずしも対象者を特定しなくても実施できる施策もあるが、多くの場合、サービスを受ける対象者を特定して、障害のために不利益を被っていることを理由にサービスが提供されている。このサービス提供の対象者を特定するために、障害の程度や範囲を認定することが必要になる。障害者施策のサービスの対象者であることを認定する過程が一般的に障害認定と呼ばれている。ここでは、欧米先進諸国の身体障害の障害認定を中心に日本の障害認定と比較しながら述べる。
1 障害認定制度の分類
欧米先進諸国の障害認定制度は、大きく二つに分類することができる。第一の制度は、ドイツ、フランス、日本などのように障害の程度や範囲を一般的に認定し、障害があることを証明する証書(障害者手帳など)を発行し、この証書を所持することで福祉、雇用、教育など広範囲な分野でサービスが受けられるものである。したがって、障害の程度は数値で示され、同じ数値は同程度の障害と見なされ、ほぼ同じ程度のサービスが受けられる。
第二の制度は、障害を一般的に認定するのではなく施策の目的に従って個別に認定するものである。たとえば、イギリスやスウェーデンなどで車いす使用者が住宅改造を希望する場合、ソーシャルワーカー、理学療法士、作業療法士、建築士などが、その人の障害の程度や状況、住宅の状態、経済状況などを総合的に評価し、どのような改造をどの程度行うかを本人と相談しながら決定する。この場合、障害の認定は、住宅改造を行う必要がある程度と種別の障害であるかどうか、また、ホームヘルプサービスや配食サービスなどとの関連を含めて本人の生活や自立の支援につながるかどうかが総合的に判断される。したがって、ここで認定された障害の程度と範囲が年金を給付するための基準などに適用されることはない。
ここでは第一の障害認定の例としてフランス、第二の例としてイギリスを取り上げ、日本の障害認定と比較しながら述べる。
2 フランスの障害認定
フランスの障害認定基準は、障害者基本法(1975)の実施規則として出された政府通達『「障害者の機能障害及び能力低下の評価のための指針に関する1993年11月4日の政令第93―1216号」の実施に関する通達』で示されている。
この通達で、障害は次のように分類されている。
(1)知的障害及び行動の制限
- 小児、青年の知的障害及び行動の制限
- 成人の知的障害及び行動の制限
- てんかん(てんかんに関連する障害)
(2)精神障害
- 小児、青年の精神障害
- 成人の精神障害
(3)聴覚の機能障害
(4)言語及び発声発語の障害
(5)視覚の機能障害
(6)内部障害及び全身機能の障害
- 心血管系の機能障害
- 呼吸器系の機能障害
- 消化機能の障害
- 腎泌尿器系の機能障害
- 内分泌、代謝及び酵素由来の機能障害
- 造血系及び免疫系の機能障害
(7)運動機能障害
(8)審美障害
この分類は、世界保健機関(WHO)の旧国際障害分類(ICIDH)が採用され、次の三つの基準が用いられている。しかし、基本的には、能力障害に基づいて分類され、精神障害や知的障害には一部社会的不利の基準が用いられている。また、視覚障害や聴覚障害は、機能障害に基づいて分類されている。
- 機能障害(deficiency):精神的、身体的、解剖学的構造の喪失または変化
- 能力障害(incapacity):通常の活動を行う能力の部分的または全面的な減退
- 社会的不利(disadvantage):(その人の年齢、性別、及び社会的諸要素に比べ)通常の役割及び機能の制限
障害の程度は、能力低下率としてパーセントで示されている。能力低下率100パーセントは、植物状態や昏睡状態のように完全な能力低下の状態にある人に適用される。また、能力低下率0パーセントは、全く障害がないことを意味するのではなく、前記の基準を適用した場合に障害が認められないことを意味しているに過ぎない。さらに、この能力低下率は、次の三段階に区分されている。
- 軽度の能力低下:0~50%
- 重度の能力低下:50~80%
- 重篤な能力障害:80%以上
重篤な能力障害(80%以上)がある場合は、障害者手帳、成人障害者給付金、特殊教育手当、補償手当、介護給付を受けることができる。また、重度の能力低下(50~80%)がある場合には、一定の条件を満たした場合には特殊教育手当が受けられる。
障害が重複している場合は、それぞれの能力低下率の和として算定される。たとえば、ある人が複数の障害をもっていた場合、この人の能力低下率は次のように算定される。この人の障害Aの能力低下率が40パーセントであった場合、残存能力は60パーセントである。別の障害Bの能力低下率が30パーセントである場合、Aの残存能力60パーセントに対する30パーセントなので18パーセントになる。したがって、この人の能力低下率は、58パーセント(40%+18%=58%)となる。さらに、第三の障害Cがある場合には同様に算定することができる。
障害の認定は、基本的には医師が行うが能力低下率の算定に当たっては、他の専門職の意見を聞いたり、関係する資料を参照する必要がある。特に、子どもの障害を認定する場合は、教師、心理専門職による報告が能力低下率の算定には不可欠であるとしている。さらに、多発性硬化症、多発性関節炎、一部の精神疾患のように急に進行する場合には、発作の頻度や重篤度、社会生活や仕事への影響を考慮して能力低下率を算定する必要があるとしている。また、能力低下を判定する場合、能力低下が少なくとも1年以上継続することが条件になっている。しかし、これは、その能力低下がそれ以上変化しない状態に至っていなければならないということではない。
3 イギリスの障害認定
イギリスは、国民扶助法(National Assistance Act)、障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act 1995)などで障害及び障害者について定義している。しかし、これらの定義は、公的な扶助の対象となる障害者、差別禁止施策の対象となる障害者をそれぞれ規定したもので、他の施策や法律で同じ定義が用いられることはない。また、フランスや日本のように障害の認定基準を設けて、障害及び障害者を一般的に定義することもしていない。そして、障害者施策ごとにサービスの対象となる障害の認定基準を設け、この基準を満たした人にのみサービスを提供している。
イギリスは、国民保健サービス及びコミュニティ・ケア法(National Health Service and Community Care Act)やケア基準法(Care Standards Act)などに基づいて障害者が可能な限り住み慣れた地域で生活するコミュニティ・ケアを推進している。ここではコミュニティ・ケアの対象となる障害者がどのように障害を認定され、サービスが提供されているかについて述べる。
(1)地域で生活する障害者がさまざまなサービスを必要とする場合、本人または家族が自治体の社会サービス部(Social Service Department)に連絡をする。
(2)社会サービス部の担当者は、要望を聞きながらニーズの大まかな内容を把握し、評価のレベルや方法を検討する。また、問題が複雑な場合には、責任者と協議して、方針を決める。
(3)数人のチームで総合的なニーズ評価が行われ、本人及び家族と合意する。このチームは、ソーシャルワーカー、理学療法士、作業療法士、看護師などから構成され、障害の程度や種類によって構成メンバーは異なる。また、必要がある場合には、家庭医(GP)から報告を求める。このアセスメントの結果は、ケアサービスに対する公平なアクセス(Fair Access to Care Services)に従って1.緊急、2.重度、3.中度、4.軽度に分類され、一般的に、緊急と重度は自治体が直接対応し、中度と軽度についてはボランティア団体等を紹介することで対応している。
(4)1.緊急、2.重度の場合には、ケアマネジャーが中心になってケアプランが作成され、ケアプランの実施、モニタリングが行われる。
アセスメントは、家族構成、個々人の経済状況、住環境、家族のニーズ、ADLの状況など総合的に実施される。
4 社会参加と生活支援のための障害認定
わが国とフランスの障害認定を比較すると、フランスの障害認定は審美障害を障害の範囲に含めるなどより総合的に広範囲な評価が行われている。また、障害の程度もパーセント表示されるなどより細かく評価されるとともに、障害が重複する場合もより総合的に評価されるシステムとなっている。さらに、障害種別ごとの手帳でなく統一した手帳となっているために、知的障害や精神障害者が手帳を所持することの抵抗が少なくなっていると思われる。
障害者手帳を発行してサービスを提供するシステムは、サービスごとに障害認定を要しないのでさまざまな施策に適用できるなどのメリットはある。しかし、1.障害の認定が機能障害や能力障害が中心となり障害者にとって最も重要である社会的側面の評価が困難であること、2.多様に変化する障害者のニーズに十分対応できないこと、3.施策の目的に必ずしも該当しない障害者の利用料金の割引を行うことなどで、施策の抜本的な改善を先送りするなどのデメリットもある。
次に、イギリスのコミュニティ・ケア・サービスにおける障害認定とわが国を比較する。施策の目的が異なるので直接的な比較は困難であるが、イギリスの障害認定(アセスメント)は、1.多くの場合、本人が居住する住環境で行われること、2.医学的な側面については、障害者を日常的継続的に診てきた家庭医や看護師が評価すること、さらに、3.本人が希望すれば家族や友人知人の立会いのもとにアセスメントが実施され、説明が行われること、4.医学的な側面だけでなく住環境や経済状況、心理精神的な状態などが総合的に評価されること、5.アセスメントは本人に対する説明と同意の下に行われるなどの特徴がある。
イギリスのアセスメントは、多くの人員と時間を要すること、サービスごとに認定が必要などさまざまなデメリットを持っている。しかし、障害者の社会参加を促進し、機会均等化を促進し、生活を支援する障害認定としては有効なように思われる。
5 まとめ
わが国の障害者認定は、第2次世界大戦後基本的な枠組みが作られ、社会の変化に対応して障害範囲の拡大や認定方法の改革が実施された。そして、身体障害者手帳を発行して障害者福祉サービスの拡大に貢献をしてきた。しかし、欧米諸国の障害認定制度と比較すると障害の範囲が限定的である、機能障害を中心に障害認定が行われているなど、障害者の生活を支援するための障害認定とするためには多くの課題が残されている。
(うえむらひではる 日本社会事業大学)