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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

障害者施策の今後に思う

就労支援に向けた施策の充実を

滋賀県知事
國松善次

支援費制度の財源不足問題に端を発した介護保険制度との統合の議論が混迷を続ける中、平成16年10月12日に厚生労働省から「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が発表された。高い理念を掲げた社会福祉基礎構造改革に基づく支援費制度が、何とも中途半端な制度であったとの評価が否めないだけに、このグランドデザイン案には、真の地域福祉の実現につながるものとなるよう期待しているところであるが、ここでは、障害のある者の地域での自立生活の実現のために、充実が求められている障害者の就労支援の問題について、本県の取り組み等も紹介しながら少し触れてみたい。

滋賀県における障害者雇用・就労の現状

本県では、これまで、障害者共同作業所(小規模作業所)制度において、障害のある者の個々のニーズに対応するため、利用者の半数以上と雇用契約を締結し、最低賃金を保障することを要件とする事業所型と創作活動や軽作業を通じて生きがいの追求を図る創作・軽作業型を新たに設け、より高い収入の確保や自己実現の追求に努めてきた。現在、県内に80か所の共同作業所があり、このうち事業所型は12か所、創作・軽作業型は5か所となっているが、従来型の共同作業所からの移行は思ったほど進んでいない。

一方、県内企業における障害者雇用の状況を見ると、平成15年度における本県の障害者実雇用率は1.8%であり、平成10年度の1.98%をピークに低下傾向を続けている。法定雇用率未達成の企業の割合も上昇を続け、平成15年度で43.5%となっている。また、通所授産施設から企業就労に移行した障害者の割合は、平成15年度で0.84%にすぎず、まさに福祉的就労での「滞留」が常態化している状況にある。

滋賀県が今後取り組もうとしている就労支援策

このような状況を踏まえ、本県では、平成16年6月に「障害者の就労支援に関する検討委員会」を設置し、今後の就労支援のあり方について検討を重ね、12月に最終報告を得た。

報告書では、就労支援策として、障害者就業・生活支援センターに配置される雇用支援ワーカーと生活支援ワーカーに加え、就職先を開拓する雇用支援員と、就労後のフォローや職場実習支援などを行う就労サポーターなどを新たに加えた「(仮称)働き暮らし応援センター」を各福祉圏域に設置することや、障害のある者の新たな雇用の場として「(仮称)社会的事業所」の創設などが提言された。この(仮称)社会的事業所は、障害の有無で指導員と利用者(従業員)を区別するのではなく、共に従業員として働くという、一般企業で当然に見られるような雇用関係を基本とするとともに、従業員全員と雇用契約を締結することを前提としており、福祉的就労の枠組みを超えた就労の場として位置づけられている。

また、障害者共同作業所の体系についても、障害のある者の多様なニーズに、より一層対応するため、年金と併せることにより地域での自立生活が可能な程度の賃金確保をめざす賃金確保型、創作・軽作業型および多様な地域活動を行う日中活動型等への再編が提言されており、現在、この提案内容の具体化を検討しているところである。

グランドデザイン案の具体化に向けて

グランドデザイン案では、既存の施設は、それぞれの機能ごとに事業として再編されることとなっている。この考え方は、本県が実施している障害者共同作業所の類型化や新たな報告書の方向性と一致するものであり賛成するが、不安に思う一例を申し上げると、既存の授産施設等の行き先である。案では、就労移行支援事業か要支援障害者雇用事業に再編されることを予定しているものと考えるが、要支援障害者雇用事業は、運営主体が障害者と雇用関係を結ぶ(すなわち、原則として最低賃金を保障する必要がある)ことが前提とされている。現在の授産施設等で、それだけの収益を上げられるところがどれだけあるだろうか。

また、就労移行支援事業にしても、一定期間の中で一般企業での雇用を実現させるには、スタッフやカリキュラムの充実とともに、職場の開拓等大変な労力が必要となる。このための仕組みとして、雇用施策との連携強化が示されているものの、施設外授産や体験実習といった既存の施策を集めただけでは不十分であろう。

グランドデザイン案は、改革の方向性を明らかにしたものであり、具体化までには、なお紆余曲折が予想されている。特に、財源の面では、国も地方も大幅な財政赤字を抱えている中での改革となるだけに、また応益負担の考え方の導入により、利用者負担の増加が想定されるだけに、当事者も含めた十分な議論が尽くされることを期待したい。

(くにまつよしつぐ)