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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年2月号

わがまちの障害者計画 埼玉県志木市

志木市長 穂坂邦夫(ほさかくにお)氏に聞く
「市民が創る市民の志木市」をめざして

聞き手:山口和彦(やまぐちかずひこ)
(ロゴス点字図書館副館長、本誌編集委員)


埼玉県志木市 基礎データ

◆面積:9,06平方キロメートル
◆人口:67,070人(平成16年9月末現在)
◆障害者の状況(平成16年3月31日)
身体障害者手帳保有者 1,270人
(知的障害)療育手帳保有者 232人
精神障害者保健福祉手帳保有者 103人
◆志木市の概況:
志木市は埼玉県の南西部に位置する総人口67,070人の比較的小規模な自治体である。人口の約86パーセントにあたる57,645人が柳瀬川を境とした市の南側(柏町、本町、幸町、館)の東武東上線の「志木」「柳瀬川」の2駅の周辺に集中している。北東部には荒川が流れ、水田や自然も多く残る。住民活動は活発で志木市市民委員会など住民が市政へ参画する機会が他市町村に比べ比較的多く見られる。行政も市民の主体的な自治活動への参画を促す努力をしており、市民の意識も高い自治体である。平成15年8月「行政と市民との協働」がテーマの行政パートナー制度の創設は記憶に新しい。
◆問い合わせ:
志木市健康福祉部福祉課
〒352-0002 志木市中宗岡1―1―1
TEL 048-473-1111 FAX 048-471-7092

▼志木市は市民委員会の設置や行政パートナー制度の導入など、独自の施策を展開していることで有名ですが、その事業を始めた経緯と事業の内容について伺いたいのですが。

私は以前、学校の体育祭で障害をもった子どもさんが他の子どもたちと一緒に走っているのを見て本当に感動しました。これは無論、私だけでなく先生も父兄もみんな大きな拍手でその障害をもった子どもさんを応援し、みんな感動していました。私は、その時これが「共生の社会」の原点なのではないかと実感しました。

一口に言って地方自治体は、独占的サービス事業体で、それに特殊性を加味した機関であると思っています。その特殊性というのは、社会的に弱い立場にある人たちを組み入れてサービスを遂行していこうということです。地方行政はあくまでも市民が主役で、市長はマネージャーにすぎません。ですから、市民の意見を積極的に聞き、市政に反映させたいという意図で「市民委員会」を設置したわけです。よく「市民の意見を聴く」ということで、市内在住の学識経験者などで委員会を構成し、その委員会の意見を市長に具申するというようなことはほかの地方自治体でも聞いたことがありますが、志木市の場合は、こうした委員会とはまったく違います。「市民委員会」の組織は市役所と同じ行政機構になっています。ですから、それぞれの部署で行政計画はもちろん、予算案も作成しています。この意味で第2の市役所とも言われますが、現在障害のある当事者の方を含めて139人の方々が関わっています。もちろん、皆さんボランティアでやっていますので報酬はありません。勤めが終わってから夜遅くまで議論を戦わせるのも珍しくありません。予算については、市民委員会と市役所のものとを出し合って、公開討論の場でよりよいものにしていくわけです。

▼本当に市民が主体となって市政に参加しているのですね。先ほど市役所に入ったら、受付に行政パートナーの方がおられて案内していただきました。「行政パートナー」制度について説明していただけますか。

市民ができることは市民にやってもらいたいという基本的な考えで行政パートナー制度を始めました。ご存知のように国は三位一体の改革ということで、国から地方自治体へと行政を移行しつつありますが、国がやるべきもの、地方自治体がやるべきものと区分がはっきりしていないように私は感じていました。行政区分を明確にし、仕事の内容を点検したうえで、無駄があれば無駄を省く必要があると思うのです。市政の中でも、市民の皆さんでできることは積極的にやっていただき、それが結果的に市民の財政的負担を増やさずにサービスも維持していけるわけです。たとえば、いまお話があった、この市役所の受付も市の職員ではなく行政パートナーの方がやっていますし、市の広報なども依頼しています。行政パートナーとして働いてもらうために、よく行政のことを勉強してもらいますし、なかには市の職員だった方が定年退職して働いているというベテランもいます。市としては、時給700円でお願いしていますが、お蔭様で評判もよく市民の皆さんが市政に参加することで、以前と比較して市政に対してより身近に感じられるようになったのではないかと思います。そして、一番よいことに、市政は、市民の一人ひとりが協力し合って、みんなで作り上げていくという意識ができてきたことだと思います。

▼「行政パートナー」制度は市民の一体化にも役に立ち、効率的な税金の使い方だと思いますね。穂坂市長は教育施策の面でも中学校「25人学級」をすすめたり、不登校の児童に対しても在宅学習を考え、全障害児に普通学級にも籍を置く「二重学籍」の導入を検討するなど独自の発想で市政を進めておられます。

生徒の中には、普段の生活では何でもなくても、病気の発作などで学校へ通えなくなる場合もありますね。さまざまな事情で学校へ通えない生徒に対しては、在宅での指導も必要なのです。そこで、ホームスタディー制度ということを考え、家で勉強した時間も出席時間数に数えようというわけです。出席時間数などについては、担当教員や校長が認めればよいと思うのですが、実際は「二重学籍」にしても、まだまだやらなければならないことがたくさんあります。でも、基本はだれのために教育をしているのか、何のために二重学籍を考えなければならないのかを市民の皆さんがしっかりと認識しておかなければいけませんね。

特に教育委員会に言っているのは、障害があろうとなかろうと一緒に勉強していくことが大切なんだと話しています。これまでの特殊教育に見られるように、盲・聾・養護学校へと、社会から隔離された形で教育を進めてきました。健常児と障害児、あるいは障害種別に分けて教育してきました。私は思うのですが、分離することによって、お互いに偏見や差別が生じてくるのではないでしょうか。学ぶ場が一緒であれば自然とお互いの理解が深まると思うのです。といっても障害をもった子どもさんですから、専門的な知識や経験を持った先生からの指導もやはり必要になるでしょう。ですから必要な時に盲学校なり、聾学校なりに行って必要なことを勉強し、終わったらまた元の学校へ戻ればいいんです。

ただ現状では障害をもった子どもさんがボランティアなどをつけてずっと普通学級に入って勉強するというのはなかなか難しいことも事実です。ですからとりあえず入学式や体育祭、文化祭といった行事などに参加していって、できるところからやってみようという考えです。できるだけ障害をもった子どもさんと触れあう場を作ることが大切だと思います。これが「二重学籍制度」の基本的な考えです。

▼志木市版ADA法の作成にも取り組んでおられるとか。

はい。3年前くらいから取り組んでいます。米国に見られるように差別撤廃や、落ちこぼれ防止などの法的な環境づくりをしておかなければなりません。現状は教育や就労、その他社会一般にまだまだバリアがたくさんあります。そのバリアを取り除くためには、財政的な援助が必要になってきますね。そこで、たとえば、税収の1パーセントは社会のノーマライゼーションに使うと明言すれば、具体的に地域福祉施策がいろいろな形で前進していくと思うのです。

といっても、どんな事業でも最初から100パーセントの成功が見込めるものではありません。できるところから手をつけていくことが肝心だと思います。私たちは、とかくなんでも100パーセントの成功を見込めないと着手しないようなところがありますが、私はできるところからまずやってみるという姿勢が大切だと思います。

▼志木市では経済的にも自立した自治体をめざしていると聞いていますが、福祉の面ではどうでしょうか。

平成11年12月に市内の障害者団体8団体が自主的に福祉団体連絡会「おおぞら」を組織しました。その後、それぞれの障害者団体がお互いに協力し合って、埼玉コープとの協力を得て自主製品の販売をしていますし、福祉団体の店「わいわいサロン」、軽食喫茶「おおぞら」、喫茶「おおぞら」の3つの福祉の店の運営をしています。市内の障害者の社会参加の場として「働く場」を提供するとともに、障害者が直接市民と接することで地域での交流や、それぞれの障害についての理解に大きな役割を果たしていると信じています。

▼最後に、今後の障害者施策についてお聞かせください。

今年3月に、「志木市地域福祉計画」が策定されます。この計画づくりにも、障害のある方々をはじめ、市民の方々の意見が反映される体制で取り組んでいます。

障害者福祉施策や福祉法などは、ある意味でハード面での改善と言えます。こうしたハード面を充実させるとともに、大切なのは心のバリアフリーを広めていくことです。先にも述べましたが、子どものときから障害があってもなくても一緒に教育を受ける、行事に参加する、共に生活するという中で自然とお互いを理解するものだと思います。元来、地方自治は、民主主義と人権に根ざしています。ですから、あくまでも市民が主役で、子どもでも障害者でもお年寄りでも、一人ひとりを大切にして生活していくことが肝心なのです。特に志木市は総人口6万7070人という比較的小規模な自治体ですから今後、地方自治体が自立し、よりよいまちづくりをしていくためには、市民の協力が不可欠です。そして、お互いに「思いやり」の心を持ち、育てていくことが健全な市政を支えていく根本だと言えます。そのためにも小さいときからの教育が大切で、共に学び、触れ合う中から自然と「思いやり」の心が育っていきます。どんなに優秀な子どもでも、「思いやり」の心がなければだめだと思います。ですから私は教育行政に力を入れているのです。社会の中で、ある程度の競争は必要でしょうが、市政を進めるうえでは、この「競争原理」はそぐいませんね。キーワードで言えば、「共生」ということです。一人ひとりの持てる力を市政に反映させて協力しながら市政を進めていけば、きっとよいまちづくりができると信じています。

▼市民の皆さんが「志木市で生まれ、育ち、働き、生活してよかった」と日々の幸せを実感できる「共生のまちづくり」の実践ですね。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。