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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

予算の概要を見て

就労支援の充実

斎藤なを子

1 障害者就労支援施策の検討

2003年度から2004年度にかけて、障害のある人たちの「就労」をテーマとした政策や実践に関わる議論や今後のあり方の検討等が集中的に、きわめて早いテンポでなされてきた感がある(※別記)。筆者が身をおく現場の立場からは、現に18万人が利用している小規模作業所や授産施設における障害のある人たちの働くことへの支援と地域生活支援の実質的な進展が何よりも大きな関心事である。

これに関わる主要な論点としては、1.福祉施策と雇用施策の双方にまたがる就労支援施策をどう再編していくのか、2.いわゆる福祉的就労の場から一般雇用への移行の促進をどう図っていくのか、3.現行の授産施設や小規模作業所の機能のあり方をどのようにしていくのか(工賃の水準や労働法規の適用など)、4.日中の施設制度とその体系をどう再編していくのか(重度障害者への施策も含めて)、5.小規模作業所問題への国としての対応をどのように図っていくのか、ということ等があげられる。

現時点で一連の検討の流れは、昨年10月12日発表の「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」に収れんされた形となっており、予算案自体がこれを前提としていることを踏まえ、予算概要について若干の感想と意見を述べたい。

2 予算概要への「評価」

予算概要のうち「就労支援の充実」の括りには6項目があげられている。すなわち(1)小規模作業所への支援の充実強化事業、(2)重度障害者在宅就労促進特別事業(バーチャル工房支援事業)、(3)障害者就業・生活支援センター事業、(4)小規模通所授産施設、(5)小規模作業所、(6)福祉工場、であり総額108億円となっている。新規施策は(1)及び(2)の2事業である。

全体をとおしては、施策メニュー及び財政裏付けの両面において、いわば鳴り物入りで進められてきた就労支援施策の検討の勢いが削がれてしまう、といった感が率直なところ否めない。

小規模作業所への連続補助金カットが避けられたこと、前年度予算措置がとられなかった就業・生活支援センター事業の生活支援ワーカー分やバーチャル工房が復活したことは、厳しい財政事情の中での前進と言えるものの、概算要求に比して小規模作業所支援充実強化事業が約11.5憶円減の3.5憶円にしぼんでしまったり、前年比で小規模通所授産施設が全国でわずか60か所増(身体7か所、知的23か所、精神30か所)、障害者就業・生活支援センター事業も10か所増のみという、基盤整備に関わる施策がことごとく大幅な縮減傾向にあり、施策の根幹に関わる重大な問題を抱えていると言える。

また「就労支援の充実」を謳うからには、もっと大胆に雇用施策との連携に踏み込むなど多様なメニューが必要である。旧来その典型的な施策とされてきた福祉工場の内実が拡充されていく方向性もそのひとつである。安定した仕事を供給できる体制の確保や技術支援などにより、より障害の重い人たちの働く機会をひろげ、給料(工賃)水準をひきあげ、市民としての暮らしを自ら築いていくことに結びつけていくことが可能となる。

この17年度予算概要の実効度は、すべて今般上程された障害者自立支援法(グランドデザイン)案のゆくえに委ねられていると言える。その点での最大の注文を述べるとすれば、今度こそ、小規模作業所問題解決の本格的な道筋をつけていくべき、ということである。

これから必要としている人たちも含めて、どんなに障害が重くても、一人ひとりにとって適合感のある就労・日中活動のステージを得られるようにしていくこと、そしてどこに住んでいても国民としての権利は同じであり、安心と安定が担保される仕組みが不可欠であることを求めているからである。

(※就労支援施策に関する主な検討経過~雇用関係のぞく)

  • 平成16年2月18日 厚生労働省内に「障害者の就労支援に関する省内検討会議」設置
  • 平成16年4月20日「小規模通所授産施設及び小規模作業所のあり方に関する懇談会報告」
  • 平成16年6月4日 障害者基本法改正『国及び地方公共団体は、障害者の地域における作業活動の場及び障害者の職業訓練のための施設の拡充を図るため、これに必要な費用の助成その他必要な施策を講じなければならない』
  • 平成16年6月4日 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004『障害者の雇用・就業、自立を支援するため、在宅就労や地域における就労の支援、精神障害者の雇用促進、地域生活支援のためのハード・ソフトを含めた基盤整備等の施策について法的整備を含め充実強化を図る』
  • 平成16年7月9日 省内検討会議「障害者の就労支援に関する今後の施策の方向性」
  • 平成16年7月13日 社会保障審議会障害者部会「今後の障害保健福祉施策について(中間的な取りまとめ)」『就労支援は、障害者施策の中心課題の一つであり、どう実行し実現するかという段階に入っている』
  • 平成16年9月29日 障害者の就労支援に関する有識者懇話会「障害のある人の「働きたい」を応援する共働宣言~共に働き・共に生きる社会づくりを目指して~」
  • 平成16年10月12日 厚生労働省障害保健福祉部「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」

(さいとうなをこ 社会福祉法人鴻沼福祉会常務理事)