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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

フォーラム2005

障害者の態様(ひとりひとり)に応じた多様な委託訓練

西村公子

障害者の態様に応じた多様な委託訓練は、障害のある人が就職に必要な知識・技能を習得するための職業訓練をさまざまな委託先を活用して行うものです。平成16年度から始まり、17年度政府予算案では、対象者数が1000人拡大し、6000人が計上されています。

◆障害者委託訓練のスキーム

委託訓練は、都道府県の職業能力開発校を委託元とする公共職業訓練です。都道府県では、委託訓練の総合窓口の役割を果たす職業能力開発校(拠点校)を定めています。

【委託先】企業、社会福祉法人、障害のある人の支援を行うNPO法人、民間教育訓練機関など地域のさまざまな委託先を活用します。

【委託訓練の内容】訓練コースは、大きく二つに分かれます。

  1. 知識・技能習得訓練コース(民間教育訓練機関、社会福祉法人、NPO法人等を委託先として、就職の促進に資する知識・技能の習得を目的として実施)
  2. 実践能力習得訓練コース(企業等を委託先として、就職に必要な実践的な職業能力の開発・向上を目的として実施)

【態様に応じた職業訓練】委託訓練は、原則3か月以内で月当たり100時間を標準として、訓練内容と訓練期間・訓練時間をニーズに応じて柔軟に設定できるのが特徴です。知識・技能習得訓練コース(月間の訓練時間の下限は80時間)では、委託先機関内での職業訓練だけでなく、知識・技能習得訓練コースを受託した機関が実習先を開拓して職場実習を組み合わせて実施することもできます。また実践能力習得訓練コース(月間の訓練時間の下限は60時間)では、1~2か月、3か月のほか、短時間の訓練から段階的に訓練時間を延ばしていくことが効果的な場合は、訓練期間を6か月まで弾力的に延長して職業訓練を行うこともできます。

【委託料】委託料は、受講生一人につき1月6万円を上限としています。ただし、実践能力習得訓練コースにおいて訓練期間を弾力化して実施する場合は、訓練期間あたり18万円が上限となります。

【障害者職業訓練コーディネーター】 対象者と委託先の状況に応じた効果的な委託訓練をコーディネイトするため、都道府県に障害者職業訓練コーディネーターを配置しています。

◆このような委託訓練が行われています

1 障害の態様に応じて

●身体障害のある人を対象として

【IT関連】OA実務科等の名称で委託訓練が実施されています。委託先は、民間教育機関のほか、障害のある人に対するIT支援を目的に設立されたNPO法人、企業などさまざまです。コースの半分程度終了した時点で就職活動を始め、雇用見込み先の業務内容に合わせたカリキュラムを取り入れて実施するなどの工夫で就職が実現しています。

【メール等の集配】メールの宅配及び家庭に出向いての中古本の集荷を内容とする集配科の職業訓練コースを開発して実施している社会福祉法人があります。開発の観点は、就労相談に訪れた一方の上肢に障害のある人のもう一方の上肢で仕事ができ、地域に根ざしたサービスで就労可能性が高い職種ということでした。現在は聴覚障害のある人にも対象を拡げ、有限会社の業務として操業し、訓練修了生の雇用が実現しています。

●知的障害のある人を対象として

【介護サービス、保育サポート科など】知的障害のある人が介護サービス関連の技能を習得するための委託訓練は、全国のあちこちで実施されています。内容はホームヘルパー3級レベル、さらには2級の取得をめざした訓練科も出てきました。

対人サービスの新しい職種の委託訓練として、保育補助の技能の習得をめざした保育サポート科を実施しているNPO法人もあります。身体測定、体育遊び、音楽遊び、各種行事、安全衛生など、保育士の補助業務ができる職業能力の習得をめざしています。

【課題発見・解決支援型の委託訓練】離転職を繰り返す原因が「困ったときに上手に助けを求められないこと」であった知的障害のある人を対象に、社会福祉法人において食品製造の委託訓練を実施するなかで、上手に助けを求められる方法を学ぶことを訓練目標に取り入れて実施し、就職が実現しています。

●精神障害のある人を対象として

【障害特性に配慮した委託訓練】精神障害のある人同士、仲間意識と一体感があり相互に安心してサポートすることができるピア・ホームヘルパーをめざした委託訓練がNPO法人で実施されています。また、精神保健福祉士が常駐している環境福祉に関する専門学校を委託先として、パソコンオペレータ技能の習得をめざした委託訓練の実施例もあります。

2 多様な委託先を活用して

●社会福祉法人などで

【障害のある人に対するきめ細かな支援】委託訓練期間中の定期的なケース会議による支援方法・内容の検討と実施、職場実習先を開拓して社会福祉法人内での委託訓練に職場実習を組み合わせ、実習先に出向いて企業、訓練受講生双方に対する支援を実施など、社会福祉法人ならではの、きめ細かな支援により就職が実現した例が多くみられます。

【社会福祉法人全体の資源を活用した委託訓練】介護サービスコースの座学部分を通所施設で実施→職場実習を同じ社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームで実施、社会福祉法人の収益事業部門で実践能力習得訓練コースとして厨房補助業務コースを実施→特別養護老人ホームへ就職など、社会福祉法人全体の資源を上手に活用した委託訓練も実施されています。

●NPO法人で

【ネットワークを活かして】同一の目的の下、多様な会員で構成されるNPO法人は、その緊密なネットワークが特徴です。NPO法人自体が委託訓練を受託するほか、このネットワークを活かして、会員企業に対する実践能力習得訓練コースを効果的にコーディネイトしているNPO法人もあります。

●民間の能力開発機関で

【蓄積されたノウハウをフル活用して】障害のある人を対象とした職業能力開発に実績のある民間の能力開発機関において、蓄積されたノウハウをもとに新たな訓練コースも開発して20の訓練コースが用意され、多様な委託訓練が年間を通じて実施されています。

●企業で

企業を委託先とする実践能力習得訓練コースは、職業に必要な実践力の習得をめざしたものですから、障害のある人の支援ノウハウがある特例子会社、重度障害者多数雇用事業所、社会適応訓練協力事業所(職親)などで実施することにより実践力を高め、就職(委託先や、委託先と別企業における就職も含めて)へと効果的につなげていくことが期待されます。また企業を委託先とした委託訓練は、委託訓練修了後の雇用を視野に入れて行われる場合も多くみられます。特例子会社立ち上げ予定企業、合同面接会参加企業、ハローワーク求人企業を委託先とした委託訓練がまさにその例です。

◆お問い合わせは

委託訓練を受けてみたい、あるいは受託機関となって委託訓練を実施したいという場合は、各都道府県の問い合わせ先一覧の連絡先もしくは最寄りのハローワークにお問い合わせください。

17年度は新しい委託訓練の2年目。多くのご意見をいただきながら、より利用しやすく、就職に結びつきやすいものとなるよう、成長し続ける制度としていきたいと考えています。

(にしむらきみこ 厚生労働省職業能力開発局能力開発課主任職業能力開発指導官)