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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年3月号

列島縦断ネットワーキング

静岡 静岡県における災害時の情報保障の取り組み

前嶋康寿

情報保障の重要性

静岡県では、「情報保障は、障害のある人の自立(自己選択・自己決定)・社会参加のうえで、当たり前のことであり、必ず行われなければならない。行政が予算等を理由に情報保障が行われなかったり、制限されたりするものではない」と考えて施策を展開しています。

災害時の情報保障の取り組み

静岡県での災害時の情報保障の取り組みとしての考え方は、「ユニバーサル情報伝達システムの構築」を目標としています。

本県では、地域住民への地震・津波等の警報等を伝達するため、全市町村に同報無線が設置されていますが、茨城県東海村で起きたJOCの臨界事故の際に、一人暮らしの聴覚障害者に情報が伝わらなかった事例を教訓にさまざまなチャンネル(同報無線、FAX、携帯電話、ポケットベル等)を用いた情報伝達システムの構築が望ましいと考えています。

携帯電話メールの活用

本県は、携帯電話のメール機能を活用して災害に関する情報を配信する民間企業と協定を締結し、情報伝達のための体制を整備しました。聴覚障害者には平成15年5月から情報を配信しています。

この情報提供のシステムの特徴として、1.情報発信する行政には、財政的・人的負担がほとんど生じない。2.障害のある方は無料で災害情報を取得できる。3.リアルタイムに一斉に災害情報が伝達することができる。

災害関係情報も県と市町村の情報がそれぞれ配信できます。県が提供する情報は東海地震に関連する情報(観測情報、注意情報、予知情報等)、警戒宣言、県民への呼びかけ、警戒本部・災害対策本部発表の報道資料、災害時の報道投げ込み資料等で、市町村が提供する情報は避難勧告・指示、避難地情報等その他災害に関し住民に関わる緊急情報です。また、音声読み上げ機能付き携帯電話を活用することにより平成16年12月からは視覚障害者も対象に情報を配信しています。現在のところ、利用者は全体で400名弱であり、多くの方が利用されるよう引き続き広報啓発が必要です。

自主防災組織、ボランティア等

さまざまなシステムによる情報伝達に加え、自主防災組織、ボランティア等による声かけを行うことは、単に情報の伝達にとどまらず、避難や安否確認のうえでも有効であることから、災害時要援護者台帳を活用して、日頃の防災訓練等で確認しておくことを進めています。

身体障害者向け防災講座・視覚障害者向け携帯電話メール講習会の開催

平成17年1月23日を皮切りに、3月まで県内20か所で身体障害者向けの防災講座と視覚障害者向け携帯電話メール講習会を開催しています。取り組みを始めた理由は、新聞の投書欄にあった「障害者が地域の防災訓練に参加しにくい。工夫をしてほしい」という記事です。また、県でも本当に東海地震に関する情報について理解しているのだろうかと疑問があったことから、開催することを決定しました。

開催の目的は、この講座を機会に、障害のある方が災害時要援護者台帳に登録したり、防災訓練に参加したり、東海地震に関する情報に注意すること等を期待しています。また、この機会に、市町村の方にも障害のある方への支援としての情報保障がいかに大切か等を学んでいただければと考えています。

身体障害者向け防災講座は、東海地震についての再確認、地震に対する備え、情報収集・伝達、避難所での注意事項等を内容としています。特に、情報については、注意情報や予知情報(警戒宣言)の意味やその際の対応、安否確認のための災害用伝言ダイヤル・災害用伝言板や行政からの携帯電話メールを活用した災害情報伝達等を説明しています。

また、視覚障害者向けの携帯電話メールの活用講習会は、音声機能付きの携帯電話(メール)を利用して情報を取得・伝達することがいかに自立に役立ち、平常時にも災害時にもコミュニケーション手段として有効であることを学んでいただくことを目的としています。内容は携帯電話をお持ちでない方や初心者にはメールの使い方等を、すでに携帯電話をお持ちの方には災害用伝言板の使い方や行政からの災害情報の取得等について講習を行っています。この講習会は携帯電話会社との協働により開催しています。

参加者からは、「東海地震について知らないことが多くあった」「東海地震関連情報についてまったく知らなかったし、その時何を自分がすればよいか分かった」「情報に注意しなくてはいけない」「メールが思ったほど難しくなかった」等の意見があり、好評です。

日頃の情報保障と地域の障害に対する理解が大切

災害時の情報保障は、災害があったから情報保障をしましょうというよりは、日頃から情報保障が地域(行政)において確立しているかが重要であり、また、地域において障害についての正しい理解があるかどうかが鍵となります。

全市町村手話通訳者派遣事業の実施

平成16年度から、静岡県内全市町村で手話通訳者派遣事業が始まりました。全市町村実施に取り組んだ理由は、「情報保障は、当たり前のことであり、身近な市町村で手話通訳者が派遣されることは聴覚に障害のある人の長年の願いであった」からです。全市町村で手話通訳者派遣事業が行われるにあたっての一番の懸念事項は、県が派遣していた時と同様に質の高い手話通訳者派遣事業ができるのかということでした。このため、静岡県聴覚障害者協会及び静岡県手話通訳問題研究会との協働により市町村に提示するモデル要綱の作成等を行い市町村に提示したり、個別に全市町村を訪問したり、何回となく説明会等を行いました。また、手話通訳者・要約筆記者等の養成や現任研修についても予算の大幅増額をし、手話通訳者の質と量の確保に努めることとしています。

今後の展望

情報保障は、障害のある方の基本的人権の保障です。聴覚や視覚に障害のある方に対して、障害のない方と同じ情報が同じタイミングで正しく伝わらなければなりません。災害時においてはなおさらです。また、手話通訳や要約筆記、点字・音訳・拡大文字・データによる提供等が行政だけでなく、マスメディアや通信業者等の公共的機関においても必ず行われなければなりません。県内では全市町村で手話通訳派遣事業がスタートしたものの、要約筆記者の派遣や点字・音訳等による情報提供を行っている市町村が非常に少ないのが現状です。テレビ番組においても、手話や字幕が付いているものは少ない状況です。先日テレビで障害のある方の被災地での生活状況を取り上げた番組がありましたが、手話や字幕が付いていませんでした。また、テレビ番組の2次利用(手話・字幕を付けてインターネットで配信)ができないかと交渉していますが、放送局は著作権等を理由に良い返事が現在のところいただけません。

情報保障の確立には、いろいろな条件整備が必要ですが、まずは、障害についての理解を進めなくてはなりません。情報保障が当たり前のことであることの理解も進めなくてはなりません。いずれにしても、ノーマライゼーションの理念を社会に定着させることが必要と考え、日頃の情報保障が確実に行われることが災害時にも当然のように行われる社会づくりをめざしていかなければなりません。具体的には、国レベルでは国民は等しく情報が保障されるというような「情報保障法」の制定や著作権法の改正等が必要ですし、地方公共団体のレベルでは広報啓発活動や情報保障の各種事業を着実に実施することが必要です。

(まえしまやすとし 静岡県健康福祉部障害福祉室)