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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年4月号

モデル事業の取り組み

千葉リハビリテーションセンターにおけるモデル事業の取り組み

太田令子

小児事例について

【当センターの特徴】

当センターは、肢体不自由児施設110床(うち母子入園10床)、重症心身障害児施設(35床)、肢体不自由者更生施設(90床)、リハビリテーション医療施設(110床)および補装具製作施設で構成されており、隣接して肢体不自由養護学校があり、教育の保障はそこで行われている。小児医療福祉施設としての条件は、障害をもつ子どもが医療と同時に教育も保障されるという利点がある。

1996年から2000年までの5年間に肢体不自由児施設を利用した、高次脳機能障害が主症状の小児患者数は11名で、平均年齢は10歳3か月であった。症例数としては決して多くはないが、記憶障害をもつ者は半数の5名である。こうした小児の高次脳機能障害者への当センターでの取り組みを、このモデル事業を通じて系統的なものにしていきたいというのが、千葉県が小児の事例に関しても今回のモデル事業で取り組みたいと申し出た理由でもある。

【取り組みの実際】

他のモデル事業参加施設が、小児対象の施設群を擁していなかったこと、高次脳機能障害に関する研究は主として成人に限定して進んでいたこともあり、実際には高次脳機能障害の評価が成人よりもなおさら困難で、基準値の設定から始めなければならないこととなった。平成13年度は、これまで当センターで実施してきたテストバッテリーに加えて、とりあえずモデル事業で指定された成人の参考評価バッテリーを使いながら登録作業を進めてきた。

翌平成14年度には、成人で標準化されている参考評価バッテリーを健常児に対して行い、対照データを作成することとした。対象は当センター近隣の小・中学生および高校生で、学校の協力を得て、保護者および本人に検査実施の同意を得た133名。Wechsler記憶検査(WMS―R)や注意機能検査としてD―CAT、K―WCST等6つの評価バッテリーを実施した。この調査結果については、「千葉県高次脳機能障害支援モデル事業 平成14年度事業報告書」(平成15年7月25日、千葉県高次脳機能障害連絡調整委員会)にまとめてあるので参考としていただきたい。

【課題】

成人の当該障害者への支援プログラムは全国レベルで取り組まれている。しかし、小児事例に関する支援プログラム作成は、その緒についたばかりであり、どの自治体においても手探りで進めてきているというのが実態である。今後、就学・復学・転校・卒後支援など、残されている課題は多い。当該障害の特徴である部分と、他の発達障害と共通の問題を整理しつつ、全国レベルで支援プログラムの作成が急がれるところである。

実態調査とネットワークづくり

【取り組みの実際】

県下の高次脳機能障害者の実態が把握できないままモデル事業に参画したこともあり、平成14年度については県下の社会福祉施設、学校および医療機関における高次脳機能障害者疫学調査を実施した。社会福祉施設および学校においては、高次脳機能障害に関する知識も理解されているとは言い難い状況であり、当該障害者数の把握は困難であったが、医療機関に関する調査においては、一定数の把握が可能であった。この調査結果についても、前記事業報告書に掲載してあるので参照されたい。

平成14年度の全県的な調査結果を踏まえて、平成15年度にはモデル地域限定の実態調査と地域ネットワーク構築事業に取りかかった。平成15年度のモデル地区は千葉県では郡部にあたり、かつ地域リハビリテーション広域支援センター事業を実施している中核的な医療機関が存在する地区である。また障害児・者地域生活支援センターおよび千葉県独自の中核地域生活支援センターの各支援コーディネーターといった、地域での障害者の生活支援に携わっておられる方々と協働で調査および支援活動が系統的に展開できた。こうした実態把握から支援活動へとスムーズに移行できた背景には、千葉県障害者相談センターの協力があったことも大きな要因であった。

実態調査を通した市町村窓口での当該障害の理解が進むことで、相談活動に繋がり、具体的な支援に至った事例も数件あった。この調査結果については、「千葉県香取・海匝障害保健圏域高次脳機能障害支援ネットワーク事業報告書」に掲載してある。本調査は平成15年度日本財団助成対象事業であり、その報告書は電子図書館に掲載されているのでアクセスも可能である。この地域では現在も当該障害者支援の研究会を継続しており、参加者の所属領域も徐々に拡大してきている。

【課題】

平成16年度から17年度にかけては、都市部での当該障害者の処遇実態調査を実施しており、他の障害者との処遇実態の比較を行う計画である。郡部と都市部では地域支援のサポートシステムやネットワーク構築に関する方法は異なることも考えられる。それぞれの特徴を活かしたネットワークづくりを進めていきたい。

(おおたれいこ 千葉リハビリテーションセンター)