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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

施設の解体

実態調査から社会的入所を検証する

三田優子

はじめに

平成11年1月に中央児童福祉審議会「今後の知的障害者・障害児施策のあり方について」の意見具申が出され、「知的障害者更生施設の機能の見直し」「入所者の地域移行促進とそのためのサービスの充実化」などについて提言が出されたのを受け、入所施設の実態はどうなっているのか、入所者はなぜ増加しているのか等を明らかにするために、平成11年度厚生科学研究「知的障害者の入所施設から地域への移行に関する研究」(主任研究者・渡辺勧持)の一環として平成11年12月~平成12年1月にかけて実施した全国実態調査結果を紹介する。このような全国規模の調査はそのあと行われておらず、その結果から見えてきた社会的入所は今なお減らず、共通する課題と考えるからである。

調査の概要

(1)対象施設 児童施設を除く、平成11年10月現在の全施設(入所更生1254か所、入所授産221か所)計1475か所

(2)対象施設入所者 約9万3000人

(3)調査方法 郵送回収法で、同法人であっても施設ごとの回答とした

(4)回収施設数 1004か所(回収率68.1%/入所更生846か所、入所授産138か所)

(5)回収施設入所者総数 6万2855人(回収率67.5%)

調査結果

(1)入所者6万2855人の特徴

IQ35以下の重度者が48.6%と最も多かった。年齢は20代から40代、そして50代以上の4つの群がほぼ同率(24~25%)であった。

在所年数の最も大きな群は「10年以上20年未満」の1万8997人(30.2%)だったが、「20年以上」も19.4%、さらに2.3%(1487人)については「入所年数が不明」と回答された。なお「5年以上の入所」者は4万5250人に上り、実に72%を占めていたが、「5年未満」と回答した88.9%が「設置後5年未満」の施設入所者であった。

(2)退所者の実態

過去1年間に退所した人数は2017人(3.2%)で、退所先は「他の知的障害者施設」(489人)、「家庭引き取り」(442人)、「グループホーム」(380人)、「死亡」(234人)、「知的障害以外の施設」(136人)、「病院」(120人)と続く。施設間移動(病院含む)が最も多く37.2%、「死亡」「退所先不明」などを合わせた回答を除いた「グループホーム、福祉ホーム、通勤寮、社員寮、家庭引き取り、単身、結婚、その他」を本研究では「地域生活移行者」と捉え、分析を行った。

(3)地域生活移行者の移行先と移行率

■図1■のように、地域生活移行者の2大移行先は「家庭引き取り」と「グループホーム」である。「家庭引き取り」が地域移行先と考えていいのか議論があるところだが、これを含めても地域生活移行者は年間978人で1.5%である。「家庭引き取り」の内訳を分析すると「5年以上の入所」が4割で、20、30年を経て家庭に戻る入所者もいた。高齢化し、長い入所施設生活を経た入所者が高齢化した家族の元やきょうだいの家庭に戻っていた。移行先に「家庭引き取り」も「通勤寮」も含めなければ、地域生活移行者は1%には届かないのが実態であった。

(4)地域生活移行者の特徴

移行者の日中の生活の場として確保されたのは「一般就労」が448人(45.8%)、「特になし」148人(15.1%)、「小規模作業所」100人(10.2%)の順であった。

本調査での移行者として分析した978人の移行者で「グループホーム」へ移行した380人の障害程度、年齢、入所期間、日中の活動場所にバラエティが見られたことは特徴である。測定不能を含めた重度者が23.7%、中度43.7%、軽度25.9%で、また入所期間も「10年以上」が40.8%、「30年以上」も7人含まれていた。グループホームが地域生活移行の受け皿として重要な機能を果たしていると言える。また施設側の姿勢で差が見られた。

(5)移行についての施設の考え

5年以上の入所者4万5250人の「長期入所の理由」を尋ねたところ、「作業能力」(1万3940人)、「社会生活上の適応問題」(1万2952人)、「健康上の理由」(6138人)と「入所者自身の問題」とした回答が、「保護者が地域生活を望まない」(4221人)、「日中活動の場がない」(1933人)、「住居確保の問題」(1594人)を大きく上回っていたのが特徴である。住宅確保を長期入所の理由として挙げながら、分析対象となった入所施設の3分の2はグループホームを1か所も持っておらず、しかも入居要件に関しても枠(たとえば「身辺自立できないと入居は困難」と64%の施設が回答)を設けていた。

(6)入所施設での訓練の実態

ほぼ半数の施設で「職場実習」が実施され2762人の実習期間は平均2年10か月、最長26年、10年以上が170人であった。これを実習と呼べるのだろうか。また「自活訓練事業」を実施していたのは34.8%にとどまった。この事業が地域移行につながりにくかったのは「施設本体で夕食、入浴を済ませる」と回答した施設で、実際の生活を体験することで移行に結びつくことが伺えた。

先ほど「作業能力」「社会生活への適応能力」という入所者自身の問題を長期入所の理由に挙げている回答が多かったが、入所施設内で中軽度者の役割を尋ねたところ、1004か所のうち「配膳の手伝い」(755か所)、「他の入所者のための清掃」(358か所)、「他の入所者の分の清掃」(329か所)、「他の入所者の見守り」(232か所)、「他の入所者の身辺介護」(170か所)、「点呼係」(120か所)、「入所者集団の引率役」(97か所)と回答した。

ここでの「他の入所者」とは重度・高齢入所者が多いと推測されるが、その介護、見守り等を行えることがなぜ日中の場開拓や地域移行に結びつかないのだろうか。この実態を649施設は「入所者の訓練の一環」と説明しているが、無報酬労働や職員補助役など海外では権利侵害と位置づけられる。回答の中には「頼りになっている」「重度者ばかりでは職員に限界がある」「人手が少ないのだから仕方ない」とする施設も少なくなかった。

(7)職員の専門性について

入所者と職員との関係について「職員が(地域移行について)尋ねても入所者から何も返って来ないから仕方ない」(42.3%)、「地域生活のイメージをもちやすいようわかりやすく説明する」(29.8%)、「職員も一緒に地域に実際に出て、本人の要望に沿って選べるようにしている」(12.7%)、「入所者からの意向は尋ねない」(8.5%)と回答した。尋ねても答えられなければ「仕方ない」とする援助職の専門性とは何か、問われていると考察した。

まとめ

(1)訓練は地域で、そして訓練でなく体験を

訓練するのなら実際に暮らす地域で行うことが重要である。施設内で他の入所者の介護・介助をしたり、10年以上もの職場実習をしている等は訓練とは言いがたく、社会的入所と言わざるを得ない。その結果が年に1%さえも地域移行できない事実なのである。

(2)入所者の意向をきちんと受けとめられる専門性が求められている

グループホームの世話人たちが「利用者が主役」と自ら援助の基本をまとめた。そこで援助を利用し、以前は入所施設で「意向を話せない」と言われていた知的障害者本人たちが「どこで暮らしたいのか施設では聞かれたこともなかった」等と体験を話し始めている。

なお、神奈川県で実施したグループホーム実態調査結果(1998)から見ると、グループホーム入居者のほうが施設入所者よりも障害も重く、高齢化も進んでいる実態なのである。

(3)移行を促進するということは新たな入所者を作らないこと

アメリカではまず児童入所施設の減少を始め、施設解体の目標を掲げた他国では新たな入所者を生み出さないシステムを作ろうとしてきた。しかし、本調査後もわが国では入所施設数も入所者数も確実に増加している。きちんと知的障害者本人の意向が尋ねられているのだろうか。「移行」にのみ焦点を当てるのではなく、入所施設の実態をきちんと検証したうえで、「地域で暮らすことが当たり前、地域での暮らしの質も保障する」という理念を掲げなければ地域生活移行は進まないし、新たな社会的入所者を増やすばかりだと考える。

(みたゆうこ 花園大学社会福祉学部助教授)

【参考文献】

(1)平成11年度厚生科学研究障害保健福祉総合研究事業「知的障害者の入所施設から地域への移行に関する研究」(主任研究者 渡辺勧持)研究報告書、2000.1

(2)三田優子「本人の支援とリハビリテーション」、『リハビリテーション研究』No.103 10―15頁、2000.6

(3)10万人のためのグループホームを! 実行委員会編『もう施設には帰らない―知的障害のある21人の声―』、中央法規出版、2002.12

(4)三田優子監修『障害者のグループホームスタッフハンドブック きほんのき』、全国グループホームスタッフ・ネットワーク編集発行、2004.2

(5)平成15年社会福祉施設等調査報告上巻、厚生労働省大臣官房統計情報部編、財団法人厚生統計協会、2005.5