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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

民間における実践

「麦の郷」における地域生活支援
~麦の芽ホームの実践から~

山本哲士
市川みき
武田賢二
山田綾

はじめに

麦の郷(障害者総合地域リハビリテーション施設)本部は、和歌山市中心街から電車で一駅の西和佐地区に所在する。この地区は、のどかな田園が残り約5000人の住民が生活しているが、高齢化が高い地域でもある。この麦の郷の原点は、1977年たつのこ共同作業所(無認可)を草の根運動で立ち上げたことに始まる。以来、さまざまな事業を展開しているが、それは、矛盾した障害者福祉行政への挑戦であったともいえる。現在では、障害種別を越え、さらに成人期はもちろんのこと、障害児から高齢者までのライフサイクルを見据えた支援活動を行っている。それらは、「当たり前の生活をしたい」「生まれ育った地域で生活したい」という、当然の願いにどう応えていくか、試行錯誤しながらの経過である。ここでは、精神障害をもつ人たちへの地域生活支援について、考察していきたい。

麦の芽ホームにおける実践

1990年5月、精神障害者生活訓練施設「麦の芽ホーム」は開所されたが、地域の中に拠点をおき、地域住民として生活を行うことが、地域へ移行していくために重要なことと考えて実践を行ってきた。利用期間は原則2年以内(1年延長可能)で、定員は20名、全室個室である。プライバシーを守るために部屋の鍵は自分で管理し、アパートの1室をイメージしながら生活するとともに、服薬・金銭管理や対人関係、買い物・洗濯等、日常生活に必要なスキル獲得をめざしている。

実際に、麦の芽ホームを利用してきた人たちは、家族の支援が望めない方々が多い。精神病院で約15年入院されていた方が、麦の芽ホームへ入所し、昼間は麦の郷の作業所等を利用(現在は福祉工場で勤務)することで生活保護から脱却し、自分の稼いだ給料と障害年金で経済的に自立し結婚まで至った方や、約30年入院されていた方で、麦の芽ホームに入所し、アパートへ移った後、結婚された方もいる。

他にも、単身アパートやグループホーム等、さまざまな形で地域生活移行支援を行っているが、その過程において、目標を持ち彼らが持っている力を引き出していくことに主眼をおき、自己実現を支援していくことが重要であると考えている。

また、アフターフォローはとても重要な支援である。退寮後も、相談や訪問を通して、地域生活をバックアップしているが、麦の芽ホーム入寮中以外の相談件数は、2004年度は1500件を超えている。その中には、夜間相談(午後6時以降)約500件を含んでいる。さらに、麦の芽ホームのショートステイの利用も活用し、支援の継続性が安心感を与えているものと考えている。当然、保健所や病院及び地域生活支援センター等とも連携して支援をしているが、その中で、ケアマネジメントを実施し、ヘルパーやボランティアの派遣及び訪問看護等の活用を図っている。

実践の背景と今後の課題

麦の芽ホームでのこのような実践は、麦の郷で完結されてはいけない。行政・医療・福祉・地域などさまざまな機関が連携して、トータルリハビリテーション(全人間的権利の回復)がなされると考えており、それをめざしている。また、麦の郷では、花見や夏祭りといった地区社協との共催による交流や、地域清掃活動の実施及び自治会役員を担うことを通して、ともに支えあう地域との関係を築いてきた。

しかし、到底十分とはいえない現状がある。麦の郷において、働く支援や生活支援を行っているが、人口比においても社会資源はまだまだ不足しており、長期の社会的入院を解消するための受け皿の整備が必要である。また、ケアマネジメントを通して、チームで地域生活支援を行っているが、さらに強化し、地域生活を支えていく体制整備が必要である。当然、麦の郷だけでできることではなく、国の政策として位置づけられるよう働きかけていかなければいけない。

おわりに

現在、障害者自立支援法案を中心としたグランドデザインが国会にて審議されている。応益負担など多くの問題を抱えており、社会的入院患者を退院させていくという国の方針は、どこに行ってしまったのかと疑問を感じざるを得ない。障害をもつ当事者の声を、もっと国に反映させていく運動を広げていくことが急務であると感じている。

(やまもとてつじ、いちかわみき、たけだけんじ、やまだあや 社会福祉法人一麦会(麦の郷))

【参考文献】

(1)東雄司、社会福祉法人一麦会 編著『放っとけやんネットワーク』クリエイツかもがわ、2000年

(2)社会福祉法人一麦会・麦の郷 編著『働く現場からの報告』 社会福祉法人一麦会、2002年