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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

民間における実践

「ゆうかり学園」の実践

水流源彦

「私は、どうしてグループホームにいけないの?」という、ことばが突き刺さる。

一昨年、5か所目のグループホームを開設した際、職員間の話し合いの中で、当施設の利用者110人のうち、40人は地域生活へのスムーズな移行が可能である、との見解が示された。利用当事者がそれを望み、支援の体制さえ整えば、限りなく可能性は広がる、と。

昭和42年に開所したゆうかり学園は、入居者110人の知的障害者更生施設を母体とし、通所分場に10人、母体施設内に附設された小規模作業所に16人、居宅支援(ホームヘルプサービス)の登録利用者100人、そして5か所のグループホームの利用者に対してサービスの提供を行ってきた。立地としては、鹿児島市の最北端に位置し、周囲に住宅が増えてきているものの、交通の便もやや悪い。グループホームのほとんども同じ条件である。

昨年度法人内に設置された将来構想検討委員会から提示されたプランが理事会にて承認を受け、この5月から、入所定員を90名に縮減することとした。20人の新たな住まいは、追加された2か所のグループホームと、法人独自の地域生活ホーム(支援費外の私的契約利用)となる。同時に定員30名の通所更生施設を新設し、日中活動の場も確保した。

今回の20人の決定に際しては、利用者の意向を中心に、居住することになる各ホームの構成メンバーの相性等々を考慮した。そのときに聞かれたのが、冒頭のことばである。その問いかけに対して、こちらは、しどろもどろ、「家を探したり、いろいろ準備ができるまで待ってください」と返事をするのが関の山であった。

しかし、施設を出て地域で暮らす、ということが確実に当たり前の選択肢になりつつあることを認識した瞬間でもあった。平成元年に1か所目のグループホームを設置した際は、就労しており、身の回りのことも自分でできる、といういわゆるエリートが対象となった。利用当事者にしてみると、施設以外で暮らすという発想自体起こり得なかったかもしれない。

入所施設は設立当時4人部屋であったが、内部改装を繰り返して2人部屋を増やし、一昨年の大改装にて、個室を45室用意できた。その間、制度に法(のっと)った自活訓練事業に加えて、法人独自で体験型の(期間の設定を個人の状態像に合わせた)自活訓練事業を実施しつづけてきた。この取り組みは、民家を借り上げ、個室を確保した自活訓練棟において行った。

この事業を利用した方々に対し、施設内の居室と、自活訓練棟のどちらで暮らしたいか、と問いかけたところ、ことばによるコミュニケーションが困難な方をも含め、ほとんどの方が後者を選択した。もちろん、施設内の新築の個室をあえて選択する方もおられるが、集団としての動きや喧騒に何らかのストレスを感じていることが如実に顕れた。

ことばによるコミュニケーションが困難な方についても、表情や態度、家族の方を含めた第三者の目を通して、明らかにその違いが見受けられた。どんなにことばで「グループホーム、地域移行」と唱えるよりも、経験を―それもある意味明るい成功体験として―重ねていくうちに、自然と利用当事者の中に意識づけられていく場合もある。

この3月に地域移行対象者の家族への説明会を開催した際、ある家族の方から「自活訓練を体験して、家に帰ってきたとき、茶碗を自分で片付けるようになった。庭の掃除を自分から進んでやっていた。こんなことがこの歳(40代)でできるようになるとは」と、感慨深げにお話いただいた。いかに入所施設が、彼らからできることを奪い取ってしまっていたか、である。

入所施設における、問題行動そのものの要因の多くは、入所施設というハード、ソフト両面が作り上げてしまうものと考えられる。支援計画は、入所施設内で行いうる支援を基準に作られる傾向が強い。

暮らす場所を地域に移すことに抵抗を感じるのは、施設職員のある種の言い訳の裏返しである。問題行動を先取りしすぎ、その結果、地域移行を妨げてしまっている。

昨年の夏、5か所目のグループホームとして、思い切って住宅街の真ん中に住宅を借りることにした(このようなことに思い切りが必要なこと自体、施設から地域への移行を妨げる問題の多さを示している)。案ずるより…というのはまさにこのことであり、こちら側の心配をよそに、「コンビニに買い物に行ってきた」「隣のおばさんが、差し入れをくれた」「旅行のお土産を届けてきた」等々、笑顔が倍増している。

今後、グループホームの増設、入所施設定員の縮減を順次計画しているが、地域移行者へのバックアップ体制をはじめとした、暮らしをトータルで支える仕組みが必要となる。

居宅支援を提供する、サービスセンター『くれぱす』を開設当初から8年来ご利用いただいているメンバーの親御さんに、「そろそろ、子離れの練習をしてみては」ともちかけてみた。施設からの地域移行と同時に、自宅からグループホームへという流れを模索中である。

(つるもとひこ 社会福祉法人ゆうかり)