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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年6月号

ワールドナウ

テクノロジーと障害者会議(CSUN)2005に参加して

有田由子・吉広賢史

20周年を迎えたCSUN

カリフォルニア州立大学ノースリッジ校障害センター主催の「テクノロジーと障害者」会議が、3月14日から19日までロサンゼルスで開催された。今年で20周年を迎えたCSUNだが、第1回会議はノースリッジ校を会場に、わずかな展示と400人ほどの参加者しかいなかったという。障害センターによると、当時のメーカーはようやく障害関連の支援技術の可能性を認識し始めた段階であり、現在のような技術の進歩は想像すらできなかった。しかしながら、CSUNは今やこの分野の国際会議では最大規模になり、ロサンゼルスのマリオットとヒルトン2つのホテルを会場にし、2005年は20か国以上から175のブースと400以上のセッション、海外からの参加者も含め約4500人が参加する国際会議に成長した。

基調講演でアルバータ大学リハビリテーション学部長アルバート・クック氏は、支援技術の発展について1980年代前半、1985年~1995年、1995年~現在と三つの段階を経て進化し続けていると指摘した。支援技術の原則は当初から変化していないが、ツールやフィーチャーが変化し、また障害者だけの技術というよりユニバーサルデザインにシフトしてきている現状があり、未来の支援技術は個々のニーズにより近づき、また同じルーツにだれでもアクセスし利用できるようになるとの予測を述べた。

このような支援技術の発展の下支えをしているのは、ADA(障害をもつアメリカ人法)やリハビリテーション法などアメリカの数々の実際的な法律やスタンダードである。多くのセッションでも発表者は技術開発の基礎となる法律について触れることが多かった。

支援機器の開発は、単に障害者の生活の質を高めるだけではなく、自立や社会参加、就労に密接に関係している。従って福祉関係者、特殊教育の教師、連邦・州・自治体の障害政策関係者などと同じくらい、自分たちの問題として障害者の方々が非常に多く参加している。

セッションから

セッションは「AAC(拡大・代替コミュニケーション)」「高齢化と障害」「視覚障害」「聴覚障害」「認知障害」「雇用」「インターネット」「学習障害」「PK―12(プリキンダーガーデンから12年生まで)」「高等教育」などのトピックスに分かれ、1時間または30分単位で行われる。印象に残ったセッションのひとつに自閉症や重度重複障害の子どもたちの先生によるプレゼンテーションがあった。パソコンを利用して音声や歌、画像を使って個々の子どもたちの好みや特性に合わせた本を作成することにより、子どもたちに文字に対する興味を起こさせることに成功した例の発表だった。子どもたちの心をとらえる教材を作ることができるのは、先生が一人ひとりの子どもたちをよく観察し、個人の特性を理解し、個々のゴールを設定し、成長を期待するという真摯な願いがそこにあるからだと感じた。それはどんなにハードやソフトが発達しても、人を心から愛するという基本的姿勢がなければ成し遂げることができないと非常に学ばされた。

また、セッションの特徴としては参加者が活発に発表者に質問し、疑問をそのままにせず、100%理解しようとする姿勢がうかがえた。発表者も予想される質問に対し準備を周到にはしてはいたが、あまりの質問の多さに時間がなくなることもしばしばであった。しかし、発表者と参加者がコミュニケーションをとても大事にしていることは大変参考になった。

展示から

二つの会場に設けられたブースでは、企業や研究所などが最新の支援技術を紹介していた。なかでも障害者への支援教育としてeラーニングが注目を集めていた。パソコンとインターネットを利用して、サポート体制の整っていない遠隔地の障害者でもマルチメディアを駆使したり、障害に応じてインターフェイスを変えることにより教育支援を受けることができ、このような機器を紹介するデモンストレーションには多くの人が集まっていた。実際に、自分に合った支援機器を探すため障害者の方々が出展者に質問をしている姿をよく見かけた。

DAISY(デイジー)のセッション

毎年多くの注目を集めているセッションにDAISY(アクセシブルな情報システム)がある。DAISYは、これまでのカセットテープによる録音図書に代わるデジタル録音図書の国際標準規格で、DAISYコンソーシアムにより開発と維持が行われている(本協会は正規会員の日本DAISYコンソーシアムのメンバーとして参加)。視覚障害者のためのデジタル録音図書からスタートしたDAISYであるが、現在では、印刷物を読むことが困難なさまざまな障害者に利用されている。日本では圧倒的に視覚障害者が多いが、海外では学習障害(LD)者、ディスレクシア等、読みに困難がある障害者にも多く利用されている。

今年はDAISYに関して11のセッションが開催された。DAISYコンソーシアムのセッションでは、前述の障害者へのアクセシビリティを保障するアメリカの法律を受けて、多くの企業・団体がDAISYを取り入れていることが報告された。とりわけアメリカの自主標準規格であるNIMAS(全国指導教材アクセシビリティ標準規格)が最新のDAISY3標準規格を適用していることが注目された。これによりPK―12の障害のある生徒向けに印刷教科書に代わるアクセシブルなフォーマットの教科書の提供が行われ、DAISYは今後もアクセシビリティの向上に大きな役割を果たしていくことだろう。

DAISYコンソーシアムが公認するDAISYソフトウェア・ハードウェアを集めたセッションも行われ、それぞれの特徴を比較することができた。実際に使用しながら積極的に開発者に質問する障害者の姿がここでも多く見受けられた。

CSUNを楽しむ人たち

CSUNに参加する人たちの中には毎年訪れるリピーターがたくさんいる。その理由は、一度に多くの最新のテクノロジーを視察したり、情報を得ることができることのほかに、障害のある人自身の参加のしやすさがある。CSUNではさまざまな形で障害に応じたアクセシビリティが提供される。登録の際に申し込めば、プログラムは点字、拡大文字、ディスク、DAISY版などで受け取ることができる。またリクエストすれば要約筆記、手話通訳、補聴機器が用意される。そして、全米から介助者なしで障害者が多勢参加している理由には、会場がロスの空港に近いというロケーションの良さがある。またホテルには盲導犬、介助犬を遊ばせるスペースも設けられている。ホテルのスタッフも気軽に声をかけ、手伝えることがないか障害のある方に聞いている姿をよく目にした。またこのような大きな会議の成功の影には、ノースリッジ校障害センターからのたくさんの学生ボランティアの手助けがあったことも忘れてはならない。

ノースリッジ校障害センターは、今後はさらに高齢化社会も視野に入れた支援機器やセッションを増やしたいと意欲的だ。

(ありたゆうこ・よしひろまさふみ 本協会情報センター)