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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年7月号

わがまちの障害者計画 三重県伊賀市

伊賀市長 今岡睦之(いまおかむつゆき)氏に聞く
官民コラボレーションで地域福祉の実現

聞き手:酒井京子(さかいきょうこ)
(大阪市職業リハビリテーションセンター)


三重県伊賀市基礎データ

◆面積:558.17平方キロメートル
◆人口:102,958人(平成17年3月31日)
◆障害者の状況(平成17年3月31日現在)
身体障害者手帳保有者   5,018人
(知的障害)愛の手帳保有者  545人
精神障害者保健福祉手帳保有者 189人
◆伊賀市の概況:
昨年(2004年)11月1日に上野市、伊賀町、阿山町、青山町、島ヶ原村、大山田村の1市3町2村が合併し誕生。県の北西部に位置し、北は滋賀県、西は京都府、奈良県と接する。近畿圏、中部圏の2大都市圏の中間に位置し、それぞれ約1時間の距離。近年はこの地理的特色を生かし、バイパス沿いに工場や住宅地などが形成されている。
◆問い合わせ:
伊賀市健康福祉部福祉政策課
〒518―8501 伊賀市上野丸之内116
TEL 0595―22―9657 FAX 0595―22―9662

▼伊賀市は昨年の11月に6市町村が合併し新しく誕生した市ですが、伊賀市の障害者施策の基本的な考えや障害のある人の暮らしをどのように支えるのかについてお聞かせください。

人の暮らしというものをみたとき、障害の有る無しに関わらず、家庭や施設など同じひとつの場所でずっと過ごすというのはよくないと考えます。「外に出て遊びたい、活動をしたい」「働きたい」など本人が今の生活のあり方から脱却したいと思ったとき、行政も含めた機関がどのようにサポートし、バックアップできる体制をつくるのか、そこに行政の役割が問われると考えています。

▼6市町村が合併をして半年が経過しましたが、合併のメリットやデメリットをどのようにお感じになっていらっしゃいますか。

合併前には市町村により格差がありましたが、合併することにより一体化を進め、その格差はなくなりました。サービスを受ける側からすると、今までの地域ではサービスがなかったけれども、合併により「こんなサービスもあるんだ」と新たにサービスを受けることができるようになった人もいれば、逆に、合併後に手帳の等級による制限のために今まで受けていたサービスが下がった人もいます。ただ総体的にみるとサービスの全体量は上がっていますし、合併によりサービスが再編されることによって隠れていたニーズが顕在化したケースもあり、サービスを受ける側の障害のある人にとってはプラスになっているのではないかと思っています。

▼現在、伊賀市では、住民参加型による「住民による、住民のための」地域福祉計画づくりが進んでいます。市民のみなさんは自分のまちづくりへの関心が非常に高いように見受けられますが、そのような土壌はいつ頃から生まれたのでしょうか。

伊賀市では古くから社会福祉協議会をはじめ民間の福祉団体が活発に活動しており、地域に根づいた活動をしている関係者がたくさんいます。民生委員も細やかに動いてくれています。そのような状況の中、行政は福祉サービスを必要としている個々の住民に直接サービスを提供するのではなくて、サービスを提供している民間の機関を支援するという間接的な形をとって、福祉施策を行っています。なぜならば行政が直接サービスを提供すると柔軟にできる幅が狭くなり、サービスが硬直化してしまい、サービスを受ける側も窮屈になってしまいます。民間の福祉団体の皆さんのほうが福祉についてはより専門家であり、また、住民に近い立場の民間の機関に委託をするほうが、住民のニーズに沿った形でサービスが提供できるのではないかと考えています。きめの細かい、本当に本人が必要なサービスを作ろうと思ったら、やはり現場で支援に携わる人が先導してサービスを作っていくことが大事であると考えます。現場で福祉を担ってくれている人たちの支援に対して、新たな対応が必要な場合は市の単独事業として補助金を付けたりすることもあります。

▼行政と民間がうまく歩調を合わせ、バランスがとれた状態で福祉サービスを作っておられるのですね。今風の言い方をすると、官と民のコラボレーションと言えると思います。民間の声にどんどん耳を傾けていく柔軟な姿勢はすばらしいですね。

福祉というのは幅が広いし、奥も深い。行政では手が届きにくく、分かりにくい部分もあります。だからこそ自分たちよりも専門家である現場の人の声を大事にしていきたいと思っています。間接的な支援といっても民間に任せっきりというわけではなく、支援の現場を実際に見に行ったり話を聞いたりなども時々しています。現在、地域福祉計画を策定中ですが、現場の人やいろいろな団体の人、当事者にも入ってもらいながら、作っていきます。全国どこでも一律のものではなく、この伊賀市ならではの地域性を出した計画にしていかないといけないと思っています。

▼民間の人がうまく障害のある人のニーズを吸収して行政につないでいくという協調関係ができていますね。

公がやると制約があって、やりたくても柔軟にできなくなってしまう部分もあります。民間の方たちは、臨機応変にその人の立場に立ったサービスが迅速にできるという強みがあります。伊賀市でも社会福祉法人やNPO、ボランティア、たとえば点訳ボランティアの方たちはずいぶん以前から活動をされていて歴史がありますが、自分の生活のこと以外で少しでも他の人のお役に立てればという思いがあり、皆さん活動をしていただいています。

介護保険の導入後、福祉も企業活動の対象になっていますが、もともと福祉の思想というのは、ボランタリーなものだと考えています。行政が提供できるサービスだけではニーズに対応できない場合もあります。ただ、必要なものには対応していかなければならないので、行政の枠からはみ出た部分は無報酬にはなりますが、相互扶助的に地域の中で助け合うという形ができています。この辺りは農業をベースにした土地なので、田植えも自発的にお互いに助け合いながらやっていくという農村文化ともいうべき良さが今でも脈々と受け継がれ、残っています。それが福祉という概念にもつながり、助けたり、助けられたりという精神が浸透しているのだと思います。高度成長のピーク時には、そういうことに価値をおかないという時代もありましたが、今はまた戻ってきているような気がしますね。

▼三重県では第3次障害者長期行動計画の中で福祉圏域ごとに障害者福祉圏域プランが出されていますが、伊賀福祉圏域のプランについてのお考えをお聞かせください。

合併するまでは他の市町村について知らなかった部分もありますが、いろいろなニーズがあります。措置から支援費に変わったことにより、当事者の人たちが「自分たちが声を出せば変わるんだ」という風潮が生まれたことや、合併によりサービスが広がったことによってさまざまなニーズが出てくるようになりました。今後の課題は多様なニーズに応えるようなサービスをどう作っていくかだと思っています。たとえば、性別や年代別によってもニーズが違うのでそれに全部応えられているかというとまだまだです。グループホームにしても性別を考慮したうえでの細かい対応が必要になってきますし、相談機能にしても、今は在宅障害者支援センターのコーディネーターが相談員として配置されていますが、障害種別に応じた相談員がほしいというニーズも出ています。しかし、まだ合併して間もないので、急にいろいろなニーズが出てきている状況で、サービスの実施者であるマンパワーの確保も含めて課題であると思います。高齢者福祉は一定の水準まできているので、福祉のレベルからいえば、これからは障害者福祉、児童福祉、少子化対策が今後の課題であると考えています。

▼国会で審議中である障害者自立支援法では、障害のある人の生活を考えたとき、多様な形態での「働く」ことにチャレンジできるような仕組みが盛り込まれていますが、障害のある人が働くことについて伊賀市として何かバックアップする仕組みを作っておられますか。

伊賀市として今のところ仕組みはありませんが、今後考えていこうと思っています。ここ伊賀市は10万都市といえども、実質は10万農村ともいえます。市の至る所に田んぼや畑があります。今まで障害のある人が働くといった場合の発想は、たとえば工場で働くとか、効率性を追求する場所で雇用を前提とした働き方をどうつくるのかというのが主流だと思いますが、今の経済状況の中ではなかなか雇用が進んでいないという状況があります。そういう反省に立って、ひとつの可能性として考えたとき、農業というものは自分の力に応じてでき、しかも成果がみえるやりがいのある仕事だと思っています。来年の3月には団塊の世代が定年を迎え、自由な時間をたくさんもつ人が増えるだろうと予測しています。また、空いている畑や田んぼもたくさんありますので、時間の空いている人の力を借りて指導を受けながら、障害のある人が無農薬の野菜やお米、果実を作って売るという仕掛けを考えています。障害のある人の社会進出のひとつの方法になればと思いますし、高齢者の力やノウハウもそこで活きてきます。みんなの力や可能性が発揮できる場になればいいと思います。

▼行政と民間が果たすべき役割を双方がよく認識し、住民のニーズを民間がアンテナとなって汲み取り、それを支える仕組みづくりについては行政がバックアップをしていくという協調関係が非常にうまく作用していると感じました。それが結果的には市民が安心できる暮らしにつながっていくのだと思います。ありがとうございました。