音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

わがまちの障害者計画 東京都台東区

台東区長 吉住弘(よしずみひろし)氏に聞く
信頼と支え合いの地域社会づくり

聞き手:田所裕二(たどころゆうじ)
(財団法人全国精神障害者家族会連合会事務局長補佐、本誌編集同人)


東京都台東区 基礎データ

◆面積:10.08平方キロメートル
◆人口:159,536人(平成17年7月1日)
◆障害者の状況(平成17年4月1日現在)
身体障害者手帳保有者 7,206人
(知的障害)療育手帳保有者 678人
精神障害者保健福祉手帳保有者 440人
◆台東区の概況:
上野・浅草の二大繁華街を擁する江戸期から続く庶民のまち「下町」。文化・芸術の情報発信地である上野地区、国際観光都市である浅草地区は有名。地場産業は、皮革製品(靴、鞄など)や節句人形、玩具など。23区の中でも高齢化率が高いが、近年は人口増加の傾向がみられる。
◆問い合わせ:
台東区保健福祉部障害福祉課
〒110―8615 台東区東上野4―5―6
TEL 03―5246―1111(代) FAX 03―5246―1179

▼台東区というと上野や浅草に代表されるように伝統ある「歴史と文化のまち」として有名ですが、まずは台東区の特色や魅力について教えてください。そのうえで地域の特色が「障害者施策」にどのように生かされているのかといったところをお聞かせください。

台東区の特長は、まず「上野の山の文化ゾーン」と呼ばれるように、多くの美術館、博物館、資料館などを有し、芸術と文化の情報発信拠点として多くの皆さんの芸術文化に触れ合う場となっています。さらに、400年の歴史をもつ江戸歌舞伎発祥の地に代表されるように、浅草の大衆芸能と史跡が多くの皆さんに愛されてきました。こうしたことで、年間3000万人を超える来街者のある「国際観光都市」という顔をもっています。一方で、「下町」としての粋と人情が今日の生活にまで生かされ、地域に根ざした支え合いと助け合いによるまちづくりが、もう一つの特色といえます。

また、台東区は東京23区の中でも高齢者人口の高い区としても知られています。その高齢者の皆さんを隣近所のみなさんで見守り、地域(町会)ぐるみで支え合ってきました。この考え方は、高齢者に対して特別に行われてきたのではなく、地域の子どもたちや障害のある方たちに対しても同じように地域で支え合う意識が根付いています。

昨年10月には、四半世紀ぶりに見直しを行った「台東区基本構想」をまとめ、20年先の台東区の将来像を、1.にぎわいと活力のまち、2.いきいきとした個性あるまち、3.暮らしやすいまち、の三本柱とし、キャッチフレーズを『にぎわい いきいき したまち台東』としました。そのうえで、10年後を見据えた「長期総合計画」、3年後をイメージした「行政計画」を合わせて策定する中で、具体的な障害者施策もプランニングしてきました。

▼それでは、台東区の障害者施策の基本的な考え方についてお聞かせください。特に昨年3月に第2期の「障害者福祉計画」を策定されていますが、この計画の特色を中心にお聞かせください。

台東区では、平成8年3月に国の「ノーマライゼーション7か年戦略」に先駆けて第1期の「障害者福祉計画」を策定し、住み慣れた地域で安心していきいきと暮らし続けられる社会の実現をめざした施策を推進してきました。具体的には体験型のグループホームや重度身体障害者用のグループホームなどの先駆的な事業にも積極的に取り組み、地域生活を支援してきました。

その後の社会の大きな変動を受けて、障害者施策も大きな転換期を迎えたことから、平成16年3月に第2期となる「障害者福祉計画」(推進5か年プラン)を策定しました。今回の計画では、これまで計画の対象となっていなかった精神障害者施策も取り入れるとともに、財政的には大変厳しい面があるのですが、あえて具体的な数値目標を掲げ、この計画の実効性を担保しました。

この計画の策定に当たっては、さまざまな障害関係団体や区民からの意見を伺うことを重視し、その機会を多数設けました。そのうえで、区民のニーズの中から相談・就労支援システムの構築や居住環境の整備等の重点課題を中心に検討を加え、平成20年を目標年次として計画をまとめました。計画では、障害者の地域生活を支援するシステムの柱として、1.地域生活支援の構築、2.学びと就労支援の推進、3.暮らしを支える環境の確保、といった3つの基本目標を設定しました。

▼第2期の「障害者福祉計画」の基本理念では、自立支援のための環境整備がうたわれています。具体的な取り組み内容をお聞かせください。また、この「計画」を着実に推進していくために、今後のフォロー体制として考えていることがありましたら、併せてお聞かせください。

平成16年4月に「障害者就労支援室」を立ち上げました。この年には開設初年度にもかかわらず9名の方を一般就労につなげることができました。今後、毎年10名の就労を目標としています。台東区には中小企業が多く、事業主の方は障害のある人の雇用についても分け隔てなく気軽に受け入れてくれます。これはたいへん有り難いことだと思っています。

また、平成16年度から知的障害者グループホームを着実に増やす計画を進めており、グループホームは自立生活を推進する基盤整備と考えています。さらに、以前から要望が寄せられていた「精神障害者地域生活支援センター」についても、国の予算執行が伴わなかったのですが、平成16年度から東京都と台東区の単独補助事業として実施することができました。

このように、障害者が主体的に社会に参加できるための環境整備をめざし、計画の基本理念にも掲げましたが、自立へのチャレンジと一人ひとりの自助努力を尊重し、障害者自身による自己実現ができるよう、今後も台東区ならではの施策を進めていくつもりです。

台東区は現在、身体・知的障害者の施策と精神障害者の施策は別の課が担当しています。障害者施策が大きく変わろうとしている今、行政としては将来を見据えた取り組みの段階にあります。日頃から連携を密にして業務を行っていますが、組織統一も含めて事務レベルで検討をしているところです。

サービス利用者の立場にたつと総合的に相談に乗れる体制を組むことは大切なことです。常に利用者の立場に立って考えていきたいと思っています。そのためにも、障害者が必要なサービスを受けて、住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、総合的な相談窓口の充実が必要になります。

平成16年度より松が谷福祉会館(障害者施設)に自立支援センターを設置し、複数のサービス利用や、きめ細かい支援が必要なケースに対応するため、ケアマネジメントに基づいた総合相談援助を行っています。また今年度から、障害福祉課の総合相談窓口を整備し、在宅サービスに関わる相談を一本化して、わかりやすく丁寧な総合相談を心がけています。

計画の着実な推進については、学識経験者や障害者団体、区民、行政関係者で構成される「障害者施策推進協議会」を定期的に開催し、計画の進行管理とともに、毎回さまざまなテーマの検討を行い、熱い議論の場となっております。

そして、地域のネットワークとして、区と障害者団体の方々とが、会議の場だけではなく、下町らしい日常的な触れ合いの中で、意見交換や、協力をし合いながら、障害者施策の推進を図っております。この下町らしいネットワークを大切にしていきたいと願っています。

▼最後に、現在障害者自立支援法案が国会で審議されています。台東区では、新しい障害保健福祉の動きに関してどのように対応をしていこうと考えていらっしゃるのでしょうか。

国の施策が具体的にどうなるかは、現時点では詳細がまだ分かっていません。しかし、大きな施策の転換期であることを重視し、台東区では本年4月に組織改正を行い、専管組織としての「障害福祉計画担当」を設置しました。そして、障害者自立支援法の施行に伴う障害保健福祉施策の大改革に、迅速かつ的確に対応していく方針です。障害関係団体の方々には、どんどん意見を出してくださいとお願いしています。その意見を集約して、地域に根付いた必要とされる施策をめざしていこうと考えています。障害者施策は、区民にとって暮らしの基礎となる大切な事柄です。

ここでも、基本的には支え合いの地域社会づくりが大切になってきます。支え合いの心を生かし、地域住民、ボランティア、関係機関などによるネットワークによって、障害者とその家族に対する地域全体での見守りや積極的な社会参加の場と機会づくりを充実していくことが重要です。そのため、これらを支える地域住民、ボランティア、NPO、企業などの活動を支援していく考えです。また、地域における健康づくりや生活への支援について、区民が共に考え、取り組むしくみづくり(パートナーシップ)を推進していきます。たとえば、地域の活動を担っている町会やコミュニティ組織への情報提供やその活動の活性化、区民のまちづくり活動に対する相談や支援の充実、地域の人やボランティア、企業などが、地域の中で障害者を見守る取り組みの拡大等です。

こうした活動をより有効的に活発化するために、区政への区民の参画を積極的に促進する必要があります。区民との情報の共有を基本として、区政情報の幅広い提供、区民との意見交換の場と機会の拡大を大いに図っていきたいと考えています。

▼吉住区長は、台東区生まれの台東区育ちと生粋の「下町っ子」です。そのため、だれよりも下町気質を知り尽くし、地域での支え合いやパートナーシップを大切に考えていました。短い時間でしたが、お話しをお伺いしている間でも、常に「区民との話し合い」が強調されていました。そして、取材終了後も区長は地域の集会に単身駆け出して行かれました。

また、東京都議会議員の時代から続けている、知的障害者バスケットボールへの理解・支援に代表されるように、区長自らが障害者との交流を大切にする姿勢は、きっと台東区の「支え合いの地域づくり」を今後さらに磨きをかけることにつながっていくのではないかと感じました。ご多忙のところ、ありがとうございました。