音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

障害者自立支援法案をめぐって

障害程度区分

佐藤久夫

はじめに

障害者自立支援法のこれまでの審議では利用者の応益(定率)負担に焦点が当てられてきました。

この議論に隠れてあまり注目されていないものが「障害程度区分」問題です。しかしある意味でこちらのほうが重要です。というのは、「真に必要なサービス」の支給決定がなされるなら、「応益(定率)負担」は論理的に起こりえないからです。つまり、Aさんにはだれが見ても○○のサービスが△△量だけ必要とされる、ということがきちんと評価されるのであれば、(「応能」負担はあり得ても)負担能力によってサービス利用を諦める人を生み出す「応益(定率)負担」は支持されないからです。

というのが筆者の発想ですが、もしかすると法案提案者の政府はそうは考えていないのかもしれません。どんなサービスであれ、税金を使うならその一定割合を負担すべきだ、ぜいたく目的のサービスも、生活に最低限必要なサービスも、関係ない、と。

いずれにせよ障害福祉サービスの支給にかかわる障害程度区分判定は、この法律全体の中枢部分です。まだいくつに区分されるのか、ABCD…なのか、1,2,3,4…なのかも不明ですが、分かる範囲で検討しました。

支給決定プロセスでの障害程度区分

障害者自立支援法のサービスはすべて市町村に申請しますが、その中で「障害福祉サービス」の申請がなされると、市町村はその職員によってあるいは「相談支援事業者」(地域生活支援事業など)に委託して、「その心身の状況、その置かれている環境その他厚生労働省令で定める事項について調査させる」こととされています(法二十条)。この調査の目的は障害程度区分の認定および障害福祉サービスの支給決定のためです(同)。

この調査に基づいて市町村はその人の障害程度区分の一次判定を行い、専門家で構成される「市町村審査会」の二次判定の結果に基づいて、最終的に障害程度区分の「認定」を行います(法二十一条)。

さらに市町村は、この「障害程度区分、当該障害者等の介護を行う者の状況、当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して」サービス支給の要否を決定することになります(法二十二条)。この後、障害者は不服があれば「都道府県不服審査会」に再審査を要請することもできます。決定が納得できればサービス利用段階に入ります。

障害程度区分の役割・目的

より総合的にみると、これには三つの役割・目的があります。

第一に「国・都道府県負担額の算定基礎」となることです。具体的には、市町村が支出する障害福祉サービスの費用の一部を国等が負担する際には、「障害程度区分ごとの人数その他の事情を勘案して政令で定めるところにより算定した額」(障害福祉サービス費等負担対象額)の1/2(国)、1/4(都道府県)とすることが法九十三、九十五条で定められています。実際に市町村が支出した額ではなく、この「対象額」が基準となるので、それを超えて「柔軟に」支給をする市町村は赤字を覚悟せねばなりません。しかも障害程度区分を超えての「流用分」も国等の負担対象から外れる模様です。補装具や自立支援医療などは市町村の実際の支出額が基準とされるのと大きな違いです。

第二に、「事業者への給付額の算定基礎」となることです。これは現在の支援費制度でも、通所施設・入所施設やグループホームなどの支援費支給に際して、支援の必要度の高い人には高い単価とし、こうした人が事業者から敬遠されないようにしています。

第三に、前項でみたように「障害福祉サービスの支給決定の資料」となることです。法第四条では「『障害程度区分』とは、障害者等に対する障害福祉サービスの必要性を明らかにするため当該障害者等の心身の状態を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分をいう」としています。前項で紹介したように、この区分と他の事項を「勘案」して、支給決定がなされます。

現在の支援費制度(施設訓練支援費)では一番低いC区分の人も単価はやや低いもののサービス利用は保証されています。介護保険では「自立」とされるとサービスはなく、要支援ではグループホームや施設での支援はなくなります。障害者自立支援法では、当面は支援費制度のように低い区分でもサービスは利用できると思われますが、いつまで続くかは不明です。また1で触れたように、低い区分の人に高額のサービスを支給決定すると市町村の負担が重くなるという縛りがあります。

要介護認定と障害程度区分の認定調査項目の比較

「障害程度区分判定等試行事業」が6―7月にかけて全国の61の市町村で1800人以上の障害者を対象に行われています。9月には調査項目や判定方法が確定する予定です。

表1は、介護保険の認定調査票の項目(平成15年度以降)と障害程度区分判定等試行事業の認定調査票の項目を比較したものです。

表1 認定調査票の項目の比較

  介護保険 障害程度区分試行事業
第1群 麻痺・拘縮
  1-1 麻痺等の有無 1-1 麻痺等の有無
1-2 関節の動く範囲 1-2 関節の動く範囲
第2群 移動等
  2-1 寝返り 2-1 寝返り
2-2 起きあがり 2-2 起きあがり
2-3 座位保持 2-3 座位保持
2-4 両足での立位保持 2-4 両足での立位保持
2-5 歩行 2-5 歩行
2-6 移乗 2-6 移乗
2-7 移動 2-7 移動
第3群 複雑な動作等
  3-1 立ち上がり 3-1 立ち上がり
3-2 片足での立位保持 3-2 片足での立位保持
3-3 洗身 3-3 洗身
第4群 特別な介護等
  4-1 褥そう等の有無 4-1 褥そう等の有無
4-2 嚥下 4-2 嚥下
4-3 食事摂取 4-3 食事摂取
4-4 飲水 4-4 飲水
4-5 排尿 4-5 排尿
4-6 排便 4-6 排便
第5群 身の回りの世話等
  5-1 清潔 5-1 清潔
5-2 衣服着脱 5-2 衣服着脱
5-3 薬の内服 5-3 薬の内服
5-4 金銭の管理 5-4 金銭の管理
5-5 電話の利用 5-5 電話の利用
5-6 日常の意思決定 5-6 日常の意思決定
第6群 コミュニケーション等
  6-1 視力 6-1 視力
6-2 聴力 6-2 聴力
6-3 意思の伝達 6-3-ア 意思の伝達
6-3-イ 意思伝達(独自表現)
6-4 介護者の指示への反応 6-4-ア 介護者の指示への反応
6-4-イ 言葉以外の手段の必要
6-5 記憶・理解 6-5 記憶・理解
第7群 (問題)行動
  7 問題行動 19項目 7 問題行動 19項目
追加 17項目
第8群 特別な医療
  8 12項目の医療 8 12項目の医療
第9群 日常生活自立度(試行事業では家事等)
  9-1 障害老人の日常生活自立度 9-1 調理
9-2 痴呆(現 認知)性老人の日常生活自立度 9-2 食事の配膳・下膳
  9-3 掃除(整理整頓を含む)
9-4 洗濯
9-5 入浴の準備と後片付け
9-6 買い物
9-7 交通手段の利用
9-8 文字の視覚的活用

「試行事業」では、第9群で2種類の「日常生活自立度」の代わりに調理、選択、買い物、交通機関の利用など8項目の「家事等」を取り入れています。第6群の「コミュニケーション」でも2項目の追加があります。第7群の「問題行動」は単に「行動」とされ、介護保険の19項目(「物を盗られたなどと被害的になる」、「目的もなく動き回る」、「夜間不眠あるいは昼夜の逆転」など)に加えて、17項目を追加しています。たとえば、「特定の物や人に対する強いこだわり」、「環境の変化により、突発的に通常と違う声を出す」、「突然走っていなくなるような突発的行動」、「他者と交流することの不安や緊張のため外出できないこと」、「集中が続かず、言われたことをやりとおせないこと」、「話がまとまらず、会話にならないこと」などです。

なお、介護保険の「調査項目(設問)」と「選択肢」がそのまま使われている場合でも、「認定調査員マニュアル」の項目ごとの「着眼点」、「留意点」、「選択肢の判断基準」には特に知的障害者や精神障害者に配慮した追加事項が含まれている項目が多くみられます。たとえば、「4―3 食事摂取」の「一部介助」の判断基準は、介護保険では「食事の際に、食卓上で小さく切る、ほぐす、皮をむく、魚の骨をとる等、食べやすくするために何らかの介助が行われている場合をいう」のみですが、「試行事業」では、これに加えて「特定の食品を極端に摂取する等により、何らかの介助を必要とする場合を含む」が記されています。また「5―1 清潔」の「留意点」では、「試行事業」の追加点として、「対象者が自身の清潔保持に関心が乏しいため介助が必要な場合も含まれる」が記されています。

社会参加ニーズを把握するには

以上のように、障害者の特性を一定程度加味してはいるものの、介護保険の要介護認定の項目が基本であり、「心身機能」や基礎的な次元の「活動」を中心としています。

「心身の状況」や「基礎的な活動」の自立度は、日常生活(身辺自立)の支援ニーズとある程度相関しますが、社会参加の支援ニーズは、「複雑な活動」や本人の希望・意欲、環境などが大きく影響します。「障害程度区分」が、「障害福祉サービスの必要性を明らかにする」ものであれば、少なくとももう少し高度な次元の「活動」を含める必要があります。たとえば、学習、意思決定、計算、計画、複数課題の遂行、ストレスへの対処、さまざまな場所での移動、細かな手の使用、非言語的メッセージの理解、対人関係能力、などです。「試行事業」の第3群は「複雑な動作等」とされていますが、そこには「立ち上がり、片足での立位保持、洗身」しかあげられていません。必要とされる「複雑さ」のレベルに大きな隔たりがあります。

コミュニケーションも試行事業では簡単な意思疎通を取り上げていますが、社会生活を行ううえでは、適切に会話を始めたり、終了したり、同意したり反対したり、相手の感情に対応することなど、非常に複雑な能力が関係してきます。

児童の場合には特に多様な次元の遊びの能力や、学習・模倣の能力などが重要でしょう。

こうして、1.活動能力を総合的に把握したうえで、2.参加に向けての本人の希望、3.本人を取り囲む環境とその影響や可変性、などを「勘案」して、支援ニーズが初めて理解され、支給決定が可能となるといえます。

障害程度区分を超えて

応益(定率)負担も障害程度区分も国の義務負担化の「前提」と説明されています。「国が負担責任を持つなら、公平性確保と過大にならないようコントロール装置が必要だ」ということでしょう。かつては医学的診断とそれを基礎とした手帳等級制度が担わされてきた役割(あなたは3級だから電動車いすは支給されません、など)を、今度は認定調査項目とコンピューターが担うのでしょうか。

しかし支援ニーズに基づかない支給認定システムは、手帳がすでに役割を(基本的には)終えたように、結局は制度確立に役立ちません。「複雑な次元の活動」なども含め「より支援ニーズの把握に役立つ情報」を集めてもなお、数段階に「区分」してしまえば、ニーズ把握には役立たなくなります。

やはり人(専門職とそのチーム、および障害者参加)の育成と社会的合意形成(どのような生活を公的に保障するのか)しか道はあり得ません。欧米でやれていることですから不可能ではないと思います。

障害者自立支援法では、一人ひとりについて本人または相談支援事業者が利用計画案を作り、市町村が支給決定をし、本人は必要なら不服審査を請求します。これらは多くの矛盾を含み、議論と調整が蓄積されるはずです。この苦悩を通じて信頼されるニーズ評価の基準ができ、それを適切に活用できる専門性と専門職が明らかになります。

以上のミクロレベルの経験の蓄積と平行して、マクロレベルでは、市民・利用者参加の市町村障害福祉計画作りを通じて支給決定水準の合意形成が進むようにしなければなりません。こうした進展は高齢者支援の改善にも役立ち、政府が必要と考える応益負担と障害程度区分(要介護度)を廃止させることにつながります。

(さとうひさお 日本社会事業大学教授)