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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

霞ヶ関BOX

障害者基本法の改正から1年
―差別禁止理念の普及に向けて―

依田晶男

1 はじめに

障害者基本法が昨年6月に大改正されてから、1年が経ちました。法律の基本的な理念に障害を理由とする「差別禁止」が盛り込まれたこと、「障害者の日」が「障害者週間」へと拡大されたこと、障害者計画の策定が都道府県や市町村にも義務づけられたこと、障害者基本計画の作成に関して意見を聴く場として「中央障害者施策推進協議会」が設置されたことなど、今回の改正には重要な事項が含まれています。政府として今回の法改正をどのように受け止めているか、この間の取り組みを中心にご紹介します。

2 「差別禁止」を広く理解

「差別禁止」の理念を国民の間にどのように浸透させていくか。これは今回の改正の中でも、極めて重要な課題です。「差別しない」という言葉は、一見分かりやすいものですが、これを意図的な人権侵害行為として考えると、国民の大半は自分に関係のない問題と受け止めがちです。しかし、障害のある人たちが周囲の対応や環境によって、不便・不快な思いを経験していることも事実です。

こうした状況は、障害のある人を取り巻く人々が障害について知らないことから生じています。「差別禁止」の理念を普及する際は、こうしたことまで視野に入れる必要があるでしょう。そして、国民一人ひとりに障害についてもっと知ってもらい、それぞれが日常生活や事業活動の中でできる配慮や工夫をしていけるよう、必要な情報を提供していくことが大切です。その際に基本となるのは、障害のある当事者がどのように考えているかという視点でしょう。

3 障害のある当事者からのメッセージ

障害のある当事者が障害について何を知ってほしいか、周囲にどのような配慮を望んでいるかについて、内閣府では昨年2回にわたり内閣府ホームページ上で意見募集を行いました。8月中旬の1回目の意見募集では、障害について知ってほしいことについて、自由記載で意見を出してもらいました。寄せられたさまざまな意見内容を整理し、12月には例示した意見項目を選択する形で意見募集を行い、それぞれの意見に対する賛同者の状況を調べました。総数1011人から寄せられた意見は、障害種別に整理し、「障害のある当事者からのメッセージ」として公表しました。障害種別を超えて共通のものもあれば、障害種別に特有のものもあり、障害を一括りで論じられないことが改めて浮かび上がりました。

4 障害者白書に「障害者の現状」を記載

障害について国民に理解していただくうえでは、「障害者白書」も重要な媒体です。6月に刊行した「平成17年版障害者白書」では、新たに第1編「障害者の現状」を設け、障害者数、暮らし、教育、就労、収入、健康、日常生活について、既存の実態調査等の統計データを活用するとともに、当事者からのメッセージに寄せられた主な意見を要所で紹介しながら、障害のある当事者の思いや実態をできるだけ分かりやすく示すよう努めました。

既存の統計調査項目が障害別にまちまちであるため、内容的にも十分とは到底言い難いものですが、今後は内閣府が自ら実施する調査も含め、障害者の現状をデータに基づき総合的に紹介する場にしていく考えです。

5 当事者の視点を踏まえた障害者施策総合調査

平成17年度予算において、内閣府では新たに「障害者施策総合調査」を実施する経費を計上しました。調査目的の一つは、障害者基本法改正法附則第3条の検討規定の趣旨を踏まえ、改正後の規定の実施状況や障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等を把握することです。もう一つの目的は「中央障害者施策推進協議会」で、将来的な障害者基本計画の策定・改定に向けた課題を把握・整理するのに必要な状況を把握することにあります。

この調査の実施に当たっては、障害のある当事者の視点を踏まえ、企画段階から障害のある当事者に積極的に参加いただきたいと考えており、財団法人日本障害者リハビリテーション協会に調査の実施を委嘱しました。調査においては、障害のある者がさまざまな社会活動をしていくうえでバリアになっている事項を抽出し、当該バリアの解消に向けた課題を明らかにしていきたいと考えています。

6 当事者参加の形を示す中央障害者施策推進協議会

新たに内閣府に設置した「中央障害者施策推進協議会」は、5月20日に官邸で1回目の会議を開催しました。30人の委員のうち障害当事者12名、家族会3名と全体の半数に当事者及び家族に就任いただき、当事者参加の視点に立つ姿勢を明確にしました。また、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由のほか、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害のある者にも委員として参加いただき、さまざまな種類の障害に対応した審議が行われるように配慮しました。都道府県等に設置されている地方障害者施策推進協議会や計画策定のために設置される委員会等の構成についても、こうした国の考えを参考にしていただきたいと考えています。

7 省庁横断的な取り組み体制を作る「推進チーム」

障害者基本法の改正を受け、内閣総理大臣を本部長とする「障害者施策推進本部」では、総合的に対応すべき重点課題に対応するため、関係省庁の職員で構成される「推進チーム」を新たに設置しました。現在までに6課題(意識啓発・公共サービス適切対応・公務部門における障害者雇用・障害者権利条約に係る対応・資格取得試験等における配慮・地方障害者計画策定について推進チーム)が設置されています。

チームでは、当事者の意見も伺いながら、本年3月には「公務部門における障害者雇用ハンドブック」、4月には「公共サービス窓口における配慮マニュアル」など、全省庁における対応の基本となる共通指針を示しました。後者のマニュアルは、約7千ある国の機関の各窓口に配布されましたが、その普及浸透のためには障害のある当事者側からも、「障害疑似体験による職場点検」の実施を働きかけるなど、マニュアルに即した対応を促していただくようお願いします。

8 幅広い参加型の障害者週間キャンペーン行事

障害者週間は、差別禁止理念の徹底に向けた意識啓発の重要な機会です。昨年12月、障害者施策推進本部は「障害者週間の実施について」本部決定を行い、障害のある者が主体的に参加できる啓発活動の展開、若い世代を中心とした触れ合い交流行事の実施、優良事例紹介や障害疑似体験等の効果的な啓発行事の実施、国民各層が幅広く参加できるような週末を含めた啓発行事の実施などの方針を示し、「共に生きる社会を作るために~身につけよう心の身だしなみ~」により国民への呼びかけを行いました。

昨年の障害者週間では、日本経団連の協力を得て「共生社会における企業と障害者」をテーマにシンポジウムを開催しましたが、本年の障害者週間では、土日を含めた1週間において、広く市民・学生・企業・NPO・障害者団体等が参加した行事を実施したいと考えています。関係者を集めて開催する行事にとどまらず、企業の店舗や街頭等でのイベントも活用して、これまで障害の問題に関心を持たなかった層も含め、国民各層に障害に関する理解を深めてもらう総合的な取り組みを「障害者週間キャンペーン事業」として実施していく考えです。

(よだあきお 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付き参事官(障害者施策担当))

(注)詳しいことは、内閣府障害者施策担当のホームページをご覧ください。
http://www8.cao.go.jp/shougai/index.html