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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年8月号

ワールドナウ

第61回ESCAP総会の決議案61/8:2007年に向けて
びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)実践中間報告

長田こずえ

第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)とBMF

2003年から始まった第2次アジア太平洋障害者の十年は、本年度末には最初の3年が終了することになる。国連アジア太平洋経済社会委員会(以下、ESCAP)は、この10年の政策ガイドライン、「びわこミレニアム・フレームワーク:アジア太平洋の障害者のための、インクルーシブでバリアフリー、かつ権利に根ざした社会の構築(以下、BMF)」にある21の達成目標と17の戦略の実践を促すべく、初年度よりこれまで、域内の政府担当者ならびにNGOを対象にさまざまな活動を展開してきた。たとえば2004年以降は、BMF全体の実践を効果的にモニタリングするための検討作業に着手し始めた。さらに、2005年以降は後半5年(2008年―2012年)の戦略策定を睨んだプロセスも開始した。

BMFがスタートしてから2年半あまりの間に、障害者の世界を俯瞰すると、いくつかのめざましい動きがあったといえる。まず、世界保健機関(以下、WHO)のICF(国際生活機能分類)により、機能障害、活動の制限、参加の制限の3要素、同時に障害の個人因子のほかに、障害をとりまく社会環境(環境因子)にも注目し、それらの関係性で総合的に定義する考え方がより広まり、いわゆる「障害の社会モデル」が障害の定義・分類に組み込まれ始めた。ICFに関しては多少の批判もあるが、やはり障害の定義がより多面的・総合的になってきたことは意義がある。さらに、障害者権利条約に向けてのアドホック委員会は2002年にはすでに開始されていたが、2004年以降は年2回のペースとなり、国連経済社会局(DESA)社会政策開発部の主導の下で、障害当事者団体の参加を含め活発な議論が継続され、現在では国連加盟国が条約の内容を具体的に交渉している。さらに、2004年には、WHO、国際労働機関(ILO)、ユネスコ(UNESCO)が共同で「コミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR):機会平等、貧困削減、障害者の社会統合への戦略」とする新規のCBRの概念に関するポジション・ペーパーを発表、CBRに関するより包括的でダイナミックなアプローチの展開を提示した。よくまとまっており、ぜひ一度目を通してほしい文献である。

一方、バリアフリーな情報の分野では、世界情報社会サミット(WSIS)2003年ジュネーブの会議に障害者が積極的に参画したことで、会議の成果文書にはユニバーサル・デザインの概念などが組み込まれ、この分野の専門家の認識変革と今後の実践計画に多大な影響を与えた。今年の11月にはチュニジアでWSIS第2回会議が予定されている。

さらに、第2次アジア太平洋障害者の十年とBMFは、他の地域にもよい意味での影響を与え、アフリカの障害者十年(2000年―2009年)、アラブの障害者十年(2004年―2013年)と、現在では世界で三つの地域に障害者の十年が存在するに至った。喜ばしい発展である。

また、この間、障害を開発に有効に取り組む新しい開発モデルも注目を浴びるようになった。障害者を対象にエンパワメントを目的とするプロジェクトと開発の過程に障害の視点を取り入れていくことの両方を同時に推進するという「ツイン・トラック」の概念が、実際に、英国国際開発省(DFID)や米国国際開発庁(USAID)、世界銀行などの方針・事業に少しずつ反映されてきている。実際、DFIDやUSAIDは障害と開発に関する政策をその事業方針として打ち出しているし、JICAなども最近になって注目し始めた。従って、障害と貧困、障害と開発の問題は今後ますます国際社会の注目を浴びるであろうし、同時に貧困撲滅は開発途上国に住む大半の障害者の切なる願いでもあることを認識したい。

こういった背景を反映して、ESCAPは2005年の夏場に3つの「障害と貧困対策」に関するワークショップを開催する。最初は7月6日にバンコクで開かれた「障害者の貧困を撲滅に向けてのCBR」、次に7月7日にILOと共催で進められた「障害者の雇用に関するワークショップ:多国籍企業との円卓会議」、最後に8月16~18日に中国の四川省で中国障害者連盟とESCAPの共催で行われる「草の根の障害者自助団体の促進:障害者の貧困撲滅に向けて」が予定されている。これらは、いずれもBMFの第7課題の障害者の貧困撲滅と障害者のキャパシティー構築に関するものであり、障害者や障害者団体の完全参加とエンパワメント、障害の開発へのメインストリームを推進しながら、究極的には障害者の貧困対策に取り組むためのものである。

2005年第61回国連ESCAP総会の決議案

2005年に入ると、第61回ESCAP総会において、BMF実践中間年評価に関する決議案61/8が5月18日に採択された(日本政府が提案してタイ、フィリピン、フィジー、ベトナムなどが支持した)。この決議は、前述の2004年モニタリング会議の意義に留意し、2007年の中間年評価に向けて加盟国がBMF実践に一層の努力をすることを強調したうえで、中間年評価の場として、ハイレベル政府間会合を開催することを明記した。BMFのその文節63ですでに中間年経過と実行評価と後半5年の戦略策定を掲げているが、評価のための会議の形態は明記していなかった。しかしこの決議案61/8を通して、政府間会合という、政府高官が集う、ESCAPの会議の形態としては非常に高いレベルに位置付けたことの政治的意義は深く、これによって中間年の作業とその結果がより権威を持つことが予測される。この会議は、アジア太平洋障害者センター(APCD)やILO、WHOなど他の国連の専門機関などの事務所が集中し、域内各地からの参加が比較的募りやすいバンコクで開催される予定である。

また、前記の2007年の会議以外のものとしては、包括的な国内障害者政策の必要性、障害者や障害者自助団体が力をつけること、障害を国の開発政策にメインストリームすること、地域に根ざしたアプローチを障害者のエンパワメントと貧困の撲滅への政策として採用すること、障害を包括した国際協力・地域間協力の促進、障害者の権利条約の過程に積極的に参加しサポートすること、ESCAPの障害者の十年の基金に貢献すること、「障害者の十年:障害者の完全参加」にいまだに採択していない国は採択すること、などが含まれる。

びわこプラス5年(2007年)策定構築プロセス

さて、後半5年の戦略策定へのプロセスである。BMFそのものは包括的な文書で、もはや2002年にびわこで採択されてしまったものである。従って、基本的にその原則や方向性、明記されている目標や戦略は今後も変わることはない。BMFのビジョンは10年の終わりまであるいはその後も我々の地域での指針として生き残るであろう。が、前述の過去2年半あまりの進歩を鑑みると、当然のことながら既存の戦略をミクロなレベルで軌道修正することが自ずと要求されてきているようだ。たとえば、より明確になってきた権利条約の制定の動きをみると、批准推進や国内モニタリング機構、あるいは国内法の見直しに的を絞った戦略がより現実的で推進力を持ちうるのではないかとも考えられる。また、域内では、2004年12月26日に多数の国を襲った津波のような天災も発生し、障害という視点を復興支援、開発に取り入れていくことの重要性がますます大事になってきたといえる。実際、後半の5年の間に何ができるのか、何が可能かという具体的な戦略リストが必要になってくる。長期的なビジョンや指針としてのBMFでなく、実際に使える後半5年間の具体的な戦略を練り上げる必要があると思える。

以上の視点から、ESCAPは、「びわこプラス5年(2007年):後半5年(2008年―2012年)のより前向きな実践のための戦略」(以下、びわこプラス5)という文書の作成プロセスを考案した。2005年7月に開催された障害に関する作業部会第10回会議(Thematic Working Group on Disability-related Concerns:以下、TWGDC)にてこれを提起し、参加者の同意を得た。TWGDCはBMFのより効果的な実践を促進することを目的として、国連関係機関、政府担当者およびNGOの代表者がパートナーとして集う場であり、以前、BMF策定に向けて多大な貢献をしたという実績がある。従って、このメンバーと協力して作業を進め、交渉することは妥当と思われる。今後、以下のような仕組みとスケジュールでこの文書が作成されることになる。

びわこプラス5策定プロセス

1.BMFの優先・戦略領域に沿った、以下4つの領域の作業部会メンバーを決定。

(a)障害者の自助組織、ジェンダーのメインストリーミング、特定の障害者(例:農村障害者、障害児など)を含む

(b)教育と雇用を含む

(c)貧困削減、CBR、地域ベースの活動、障害と開発、地域間協力、障害のメインストリームなど

(d)障害に関する統計、権利条約、国内法、国内行動計画、情報、物理的なアクセスなど

2.ESCAPと各作業部会のコーディネーターは電子メールを通じ、メンバーとともに、各分野の第1次案を作成する。2005年10月19日~21日に開催されるESCAP主催「中間年に向けての障害者に関する包括的行動計画ワークショップ」にて第1次草案を検討、たたき台を作る。

3.2006年6月にオーストラリア・メルボルンで開催されるアジア太平洋障害者フォーラム(APDF)兼第11回TWGDC会議にて第2次草案検討。

4.2006年後半に開催される第12回TWGDC会議にて第3次草案検討。練り直し、そして、2007年前半に開催される第13回TWGDC会議にてTWGDCとしては最終案の決定。

5.2007年10月に開催されるESCAP主催ハイレベル政府間会合にて最終案採択。今後はこれが、現在のBMFの付録として配布される。

事務局がブレーンストーミングとして提起した文書は、あくまでも今後の討議の材料であり、今後の内容のつめは、各々の作業部会とESCAPの交渉による。BMF実践モニタリングに関して、ESCAPは、アンケート調査と指標作成マニュアルという二つの具体的な方向性を提示した。さらに、十年の後半(2008年―2012年)の効果的な戦略策定に関しては、びわこプラス5作成作業のスケジュールが策定され、その第一歩を踏み出した。前述の第61回ESCAP総会決議案により、2007年のハイレベル政府間会合開催が明確になった今、こういった作業の成果は、2年後、域内政府の参加者によって討議されることとなる。ESCAP事務局は、これまで以上にさまざまな活動を展開しつつ、より効果的なBMFの実践推進と後半に向けた文書の完成を支援していくことになると思われる。日本の関係者の方々のご協力を願い、締めくくらせていただく。

(本稿の見解は筆者個人のものであり、国連や国連ESCAPのものではないことをご理解いただきたい)

(ながたこずえ 国連ESCAP障害問題担当官)