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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

障害者自立支援法案をめぐって

相談体制

斎藤なを子

「障害者自立支援法案」にみる相談体制

「障害者自立支援法案」(以下「法案」)における「相談支援」は、市町村の行う地域生活支援事業として位置づけられています(第七十七条)。

その内容は、「地域の障害者等の福祉に関する各般の問題につき、障害者等からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言その他の厚生労働省令で定める便宜を供与するとともに、虐待の防止及びその早期発見のための関係機関との連絡調整その他の障害者等の権利擁護のために必要な援助を行う事業」となっています。

都道府県は、地域生活支援事業において「特に専門性の高い相談支援事業」を行うものとされています(第七十八条)。

また、「支給決定を受けた障害者等が障害福祉サービスを適切に利用することができるよう、その依頼を受けて、障害者等の心身の状況、その置かれている環境、障害福祉サービスの利用に関する意向その他の事情を勘案し、利用する障害福祉サービスの種類及び内容、これを担当する者などを定めた計画(「サービス利用計画」)を作成するとともに、その計画に基づく障害福祉サービスの提供が確保されるよう、障害福祉サービス事業者等との連絡調整を行う」(第五条第十七項)ことが、「指定相談支援事業者」に委託して実施することが可能とされ、「厚生労働省令で定める数以上の種類の障害福祉サービスを利用するものが、「サービス利用計画」にかかる相談支援(「指定相談支援」)を受けたときはサービス利用計画作成費を支給する」ことが個別給付として設定されています(第三十二条)。

さらに、市町村が障害程度区分の認定(第二十一条)や介護給付費等の支給の要否の決定(第二十二条)に際して行う厚生労働省令で定める事項についての面接や調査について「指定相談支援事業者」に委託することができるとも記されています(第二十条)。

「指定相談支援事業者」の指定は都道府県知事が行うものとされ(第四十条)、それに従事する従業者や事業の運営の基準は、厚生労働省令で定められます(第四十五条)。

この「相談支援」の提供体制等は、厚生労働大臣の定める基本指針に即して(第八十七条)、「市町村障害福祉計画」(第八十八条)及び「都道府県障害福祉計画」(第八十九条)において、必要な量の見込みやその確保のための方策、また、実施に関する事項や従事者の確保と資質の向上のために講ずる措置等を定めるものとなっています。

■図1■および■図2■は、障害福祉サービスの利用手続きや支給決定後のサービス利用段階における相談支援事業者の位置付けや役割を示したものであり、この一連のプロセスにおいてケアマネジメントの手法を導入するものと説明されています。

「障害者自立支援法案」の相談体制の評価と課題

昨年10月に「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が出されたとき、懸案であったケアマネジメント制度化の実現が強調されました。

あらためてその検討経過を振り返ってみると、「制度を維持管理する仕組みの確立と客観的・合理的な基準や手続きに基づく制度運営」が大きな課題となっているという認識に基づき、「限られた社会資源のなかで、障害者のニーズや適性に合ったサービスを、1.より効果的・効率的に、2.より公平で透明なプロセスで提供する」ために、「市町村を基礎とした重層的な障害者相談支援体制の確立とケアマネジメント制度の導入」をすると整理されています(「改革のグランドデザイン案」説明資料)。

そもそも「法案」は、障害種別ごとに分かれていた福祉サービスの給付と負担にかかる部分を一元的な仕組みに「改革」することに主眼が置かれていることからすれば、「法案」上の相談支援の内容やその体制は、障害のある人たちの地域生活を総合的に支えていくためのものというよりも、現時点では、自ずと「ある範囲」に制約されたもの、きわめて「狭義」の相談支援として理解されるのではないでしょうか。

問題は、その「ある範囲」の方向性や具体的な内容となります。「法案」の国会審議等をとおして明らかになっている諸課題(難病や発達障害などが含まれない、応益負担の導入と所得保障、家族負担の強化、雇用施策との連携の不備、基盤整備の立ち遅れ、審査会のあり方、など)に照らしていけば、この相談支援とケアマネジメントが、「自立支援給付」等の全体を調整したり管理する機能をむしろ強めていく方向で作用するのではないか、結果として、サービス利用が現状よりも後退することも起こりうるのではないか、という懸念を率直に感じざるを得ません。

「法案」上の相談体制を実行するうえでの現実的課題も多くあります。

現行の相談支援事業はどのように再編されていくのか、という点は現時点で何も明らかになっていません。障害者プラン策定時に鳴り物入りではじまった生活支援センターは、身体(市町村生活支援事業)と知的(地域療育等支援事業)、精神(地域生活支援センター)を合わせても全国で1356か所であり、補助金の一般財源化や設置申請の不採択問題などによりその制度的基盤は揺らいできている現状にあります。

「障害者がもっと働ける社会に」と一般就労への移行支援が大きく謳われているなか、福祉事務所(市町村)とハローワークの相談調整体制の一元化はなされず、両者の連携のあり方も具体性に欠いています。また、相談支援に類する就業・生活支援センターや知的障害者生活支援ワーカーなどの事業の今後も不透明です。

相談支援の実際は、マンパワーと地域資源のネットワークのあり様で大きく変わります。その大元となる財政面では、相談支援事業の費用は、義務的経費ではなく国がその100分の50以内を補助することができるとなっており、市町村の超過負担や「相談支援事業者」の事業運営等の問題も大きく懸念されるところです。

地域における総合的な相談支援システムの構築と整備を

現状では、地域の中に、どこの社会資源や関係団体などにもつながることのない、ひとりぼっちの障害者や孤立した家族がまだまだ多く存在しています。日々の生活はなんとか切り抜けているようであっても、些細な環境の変化が生活全体の微妙なバランスを大きく崩し、一気に危機的な状態に転じてしまいかねない状況にある場合が決して少なくないことが現場での率直な実感です。

しばしば障害のある方やそのご家族の皆さんから、「意を決して相談したけれどとても敷居が高かった、もう二度と行きたくはない」「あちこちの窓口をたらい回しにされただけで何の解決にもならなかった」という声が聞かれる一方、「息子の就職が行き詰まって途方にくれていた時、次の就労先を見つけて落ち着くまで一緒に考え動いてくれたことがどれだけ心強かったか」「親がいなくなっても同じ視線で見守りつづけ、本人の思いを汲みながら必要な支援を組み立ててもらえる人(機能)が地域の中にほしい」という願いも出されています。

障害のある人たちの安心した地域生活は、働く場や暮らしの場が確保される、あるいは、ホームヘルプサービスなどが受けられれば足りるということだけではありません。「本人が主体となって、その人らしく生きる」ことを総合的に支えていくことができるよう、一人ひとりの生活の中味をより豊かにしていく方向で、悩みに寄り添ったり、さりげなく必要な水先案内をしたり、具体的な社会資源に結びつけたりしながら、明日への希望をつむいでいく拠り所が必要です。そうした内容と基盤を有した、地域における総合的な相談支援システムの構築と整備が切実に求められているのではないでしょうか。

そのためには、少なくとも、次に掲げる課題等をクリアしていくことが必要であると思います。

  1. その地域全域で相談を受ける人たちの共通ルールの確立~本人の願いを中心に据え共通の視点を持った「サービス調整会議」等の開催等
  2. 地域のネットワークの形成~関係者の顔がみえる関係とチームによる支援態勢等
  3. 相談窓口から地域の社会資源の開拓や開発につながるシステム
  4. 暮らしと労働の両面から相談支援が行える態勢づくりと両者の調整機能
  5. 24時間及び緊急時の相談支援態勢の確立
  6. 相談窓口でのコミュニケーションの障壁をつくらない
  7. 相談支援に従事する人の十分な配置と力量の形成、身分や労働条件の安定

(さいとうなをこ 鴻沼福祉会常務理事)