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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年9月号

列島縦断ネットワーキング

山梨 私たちが暮らしやすい町をつくるためには…

村松裕子

山梨県対策本部を設立して

昨年から国の財源不足が原因で、政府は介護保険と支援費制度との総合案、三位一体改革、グランドデザイン案を発表しました。

今後の国の施策がどう変わるのか不安を抱える中、昨年5月に地元の聴覚障害者が求める手話通訳制度とは何かを考えよう! 原点に戻って学習しようと、「山梨の手話通訳制度を考える会」を発足しました。構成メンバーは(社)山梨県聴覚障害者協会(以下、山梨聴協)、全国手話通訳問題研究会山梨支部(以下、全通研山梨支部)、手話通訳者の会(以下、者の会)、手話通訳士の連絡会の代表です。途中から通訳派遣を実施している山梨県立聴覚障害者情報センターにも加わっていただきました。毎月1回、学習会や意見交換会などをして今年3月まで話し合いを積み重ねてきました。

昨秋、国が突然「グランドデザイン案」を発表しました。その後わずか4か月間で「障害者自立支援法案」として国会に上程し、今年10月から実施に移るという話が出てきました。

今年2月、(財)全日本ろうあ連盟主催の全国手話対策部長緊急会議が東京で開催され、その中で厚生労働省の担当者から「障害者自立支援法案」について説明がありました。その内容が曖昧であること、ましてや障害者や関係者の意見を十分に反映しないまま進める内容が多く、参加者から疑問や不安の声が上がっていました。その中で安藤理事長から、この法案に対して中央対策本部を設立して全国的な運動を展開していくとの話がありました。危機感を感じながら早速、地元に戻って山梨聴協の理事会を開催して、山梨に合った手話通訳制度とは何か、今後の取り組みなどを検討しました。

3月20日、全日本ろうあ連盟・全国手話通訳問題研究会・日本手話通訳士協会の3団体が障害者自立支援法対策中央本部を設立しました。それに合わせて、去年5月に発足した「山梨の手話通訳制度を考える会」を3月末にて発展的解散とし、4月より新たに「障害者自立支援法案」山梨県対策本部を立ち上げることになりました。山梨聴協、全通研山梨支部などの団体の代表者で事務局を構成し、理事会で検討した基本的な考え方を整理して、山梨県対策本部「基本的方針」を打ち出しました。

構成メンバーは山梨聴協、全通研山梨支部、者の会、手話通訳士の連絡会、要約筆記黒いエプロンの会、山梨県立聴覚障害者情報センターです。その後、各団体から地域委員を選出し、4月13日情報センターで開催した山梨県対策本部設立決起集会に提案し承認を受け、設立しました。

学習会を通して確認しあう…

設立後、4月から5月までの間、各地域で法案に関する学習会を4回(巡回)開催しました。内容は県職員を招いた法案についての学習、基本的方針の説明、今後の行動計画、意見交換会などです。学習会の中で「聴覚障害者は健聴者と同等の情報保障を求めることは福祉サービスを提供する以前に、基本的人権と言えるのではないか」また、「自分たちの地域を変えていく意識を持つことが大切である。社会の『おかしいな』と思うことと向き合い闘っていく。皆さんと一緒に頑張りましょう!」と共通認識が生まれました。

最初は意見交換会の時間は30分位の予定でしたが、予想以上に参加者より質問、意見、要望などが出され、時間が足りなくなるほどでした。2回目以降からは、1時間に延長して行っています。

6月以降からは、各地域学習会(遠いところでは1時間30分位かけて行きます)を地域委員が中心となって計画し、巡回で開催しています。内容も参加者にわかりやすくするためにミニ劇も含めたり、パソコンでパワーポイントを使用しながら「障害者自立支援法案とは…(聴覚障害者版)」を説明したり、いろいろと工夫しながら行いました。

地域委員の熱心な誘いに心を打たれて参加した市議会議員から「聴覚障害者の生の声を聞くことができてよかった」とのコメントもいただき、その後、議会で質問もしてくれました。

ニーズ調査

今回の障害者自立支援法案が制定されると、私たちの生活に欠くことのできないコミュニケーション支援事業の「手話通訳等の派遣事業」は、市町村ごとに実施される事業に位置づけられることになります。つまり、聴覚障害者が必要としているサービス量に見合う予算を市町村に作っていただくことが重要になります。そこで聴覚障害者が必要としているサービスの正確な数値を把握するために、たとえば手話通訳はどのような場面で必要なのか、困った時はどのような時かなど潜在的なニーズも掘り起こしながら、山梨独自のニーズ調査を作成し実施する予定です。回収後は調査の点検、集計などを行い、12月に県・市町村に提出する予定です。

また調査に協力していただく地域委員がニーズ調査の内容と目的をしっかり把握して聞き取り調査を担当することができるように、ニーズ調査に関する説明会を行ったり、日記方式調査なども実施します。調査期間は9月から11月です。

ミニビデオの作成

市町村や地域住民の方々に聴覚障害者に対する理解や手話通訳の必要性を映像で見てもらうために、10分位の手作りミニビデオ制作案が事務局会議で持ち上がりました。事務局で内容を構成しビデオ制作者、山梨聴協の会員などに協力していただき、手話通訳・要約筆記の必要な場面(自治会・医療・教育・交通事故など)を撮影しました。特に苦労したのは、協力していただく人たちの日程調整、撮影などにかかる予算確保、シナリオ作成でした。編集後、試写会を行い、市町村などに配布する予定です。

今後の取り組み

去る8月8日衆議院解散により障害者自立支援法案は審議末了のまま廃案となりましたが、厚生労働省は早期の再提出を予定しているようです。これを受けて私たちは8月11日に緊急事務局会議を開催し検討した結果、法案の内容にのみ終始せずに、これからの山梨の地域福祉を充実させていくために、予定通り運動を続けることになりました。国・県・市町村から出される情報を注視しながら取り組もうとの話をまとめました。引き続き、地域委員の方たちも積極的に各地域で学習会を開催しています。

8月20日には、対策本部設立の時から計画していた「障害者が暮らしやすい町づくりのために私たちのフォーラム」を開催します。聴覚障害者の地域福祉の先進的なモデルである、静岡県健康福祉部障害福祉室の前嶋氏を招いて講演していただきます。後半のシンポジウムでは、聴覚障害者の代表としてシンポジストも担当する予定です。

今後は9月11日(衆議院総選挙)以降の状況を注視しながらも、山梨聴協の会員が市町村交渉に向けて自分たちのニーズについて説得力のある説明ができるように、市町村交渉の模擬練習、各地域での学習会も開催する計画を立てています。

今、私たちは常に変動する社会の中でもみんなが共に生活し、お互いの理解を深めて協同の輪を広げ安心して暮らすことができる社会を築いていきたいと願いながら「完全参加と平等」の実現をめざして取り組んでいます。

(むらまつゆうこ 「障害者自立支援法案」山梨県対策本部事務局長)