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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年10月号

列島縦断ネットワーキング

東京 COPDなど呼吸器機能障害者の正しい理解と適切な支援を
~都心障福祉センターにおける呼吸リハビリテーションの取り組み~

新井幸枝・新井朋子

1 COPDとは

COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は慢性閉塞性肺疾患の略で、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり、ゆっくりと悪化していく病気です。COPDの症状は、かぜでもないのに咳や痰が毎日のように続いたり、階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じます。ありふれた症状ですが、咳・痰・息切れは呼吸器の病気の特徴的な症状です。

COPDの第一の原因は喫煙です。ヘビースモーカーに多い病気で、患者の90%以上は喫煙者ですが、この他、体質、大気汚染、化学物質等が原因になると言われています。

COPDは、喫煙指数(1日の喫煙の本数×喫煙年数)が400を超えると、体質的な要素もありますが、4~5人に1人がり患すると言われています。日本の喫煙率は1995年の国民栄養調査によると、男性の喫煙率は先進諸国の中で最も高く、女性では特に20代の喫煙率が上昇しています。

2 COPDの抱える問題

1996年の厚生省(現 厚生労働省)の統計によると、現在、把握されているCOPD患者数は約22万人とされていますが、2001年に発表された日本COPD疫学調査研究(NICE Study)の結果では、潜在的には約530万人の患者さんがいるのではないかと予測されています。また、COPDの有病率は40歳以上で8.5%と、諸外国と同様、高いこともわかりました。

第41回日本呼吸器学会「GOLDガイドラインの国際発表」によると、死亡率1~3位を占める脳血管疾患・心疾患・ガンは、死亡率が減少傾向を示しているのに対し、COPDの死亡率だけが増加しつづけています。高齢社会においては、加齢に伴う病気が問題となりますが、タバコによるCOPDは吸い始めてから20年~30年後に現れるため、まさにその代表的な疾患のひとつとなるでしょう。

しかし、年齢のせいと軽く考えて放置しがちだったり、他の症状で診察したついでに、呼吸器疾患とは関係ない診療科で薬をもらうようなこともあるかもしれません。医師の側も呼吸器専門医以外の場合は、特に重要な病気と捉えず、検査もせずに安易に薬を出す、ということも見受けられます。こうして、症状が悪化・重症化して救急車などで運ばれ、初めてCOPDと診断されるケースも多く見られます。

3 都心障福祉センターにおける包括的呼吸リハビリテーションの取り組み

「呼吸リハビリテーション」と聞くと、手足を動かす機能訓練と思われる方もおられるかもしれません。呼吸リハビリテーションとは、地域社会における個人の自立度と活動レベルをできる限り高め、かつ維持することを目的に、患者さんおよびご家族を対象に、日常生活の質の維持向上をめざし、患者教育(禁煙を含む)・薬物療法・栄養療法・酸素療法・肺理学療法・運動療法・社交活動など、多様な内容を含んだ包括的なプログラムに基づく指導・援助のことを言います。

東京都心身障害者福祉センター(以下、センター)では、平成7年度の聞き取り調査をもとに、平成8年度から在宅の呼吸器機能障害者向けに「呼吸リハビリテーション教室」の事業を開始しました。呼吸器機能障害者が自立し社会参加をめざせるよう、内容を1.医療、健康管理に関する「講話」、2.「呼吸体操」、3.「懇談会」(障害者同士の情報交換・自主グループ作り)を主な内容としています。

初年度はセンターで開催し、10年度からは拠点地域と協働して開催、15年度からは地域機関の自主開催のサポートを進めました。その間に、都内の5つの地域で自主グループが誕生し、グループ同士の連携を図りながら活動を行うようになってきています。

しかし、障害者福祉の関係者は、呼吸器機能障害者が身体障害者(内部障害者)であることは承知していても、包括的呼吸リハビリテーションの内容やその重要性は、あまり認識していないのが実情と思われます。「呼吸リハビリテーション」という言葉さえ知らない人が多いのではないでしょうか。

そこで、平成17年8月24日、東京都社会福祉保健医療研修センターにおいて、福祉サービスに従事している都内各地域の職員を対象に、「呼吸器機能障害者の理解と支援のために~現場で役立つ知識を広げよう~」と題した講習会を開催しました。地域の関係職員等、約230名が参加しました。

日本医科大学呼吸ケアクリニックの山田浩一医師から「慢性呼吸器疾患の基礎知識と包括的呼吸リハビリテーション」の講演、首都大学東京健康福祉学部の山田拓実准教授から「呼吸理学療法の実際と運動療法のプログラム」の実技を交じえた講演が行われました。また、包括的呼吸リハビリテーションの一環として酸素療法が適用になる方も多いため、在宅酸素療法関連機器の展示と説明、資料提供も行いました。

参加者からは、「COPDが増加していくであろう将来に備え、知識を増やすことができた」「患者さんの辛さを考え少しでも楽しく日常生活を送れるよう、支援していきたい」「実際に運動を行ったことがとても参考になった」「体操自体は知識として知っていたが、細かいポイントを押さえることができた」等の声が寄せられました。

講習会の最後に医師は「リハビリの継続のためには、楽になった、良くなったという実感が患者自身の行動を変えていく。患者さんに知識を教えるだけでなく、『良いスパイラル』に乗せてあげることが大切」と話されました。

今回の講習会では、主催者側の予想を超えて、参加者のうち90%弱の職員の方が、すでに日頃の業務で呼吸器機能障害者に関わっていたことがわかりました。「COPDではないか、と思った受け持ち患者さんがいる」「訪問先で、すぐに実践できそうな運動を学べた」など、訪問看護の現場での患者・障害者との関わりを見つめ直し、より良いサービスを提供できるよう考えていただくきっかけとなりました。

4 今後の課題

呼吸リハビリテーションのゴールは「地域社会における個人の自立と活動レベルの回復」です。高齢社会において呼吸器の疾患をもつ障害者のために、身近な地域で包括的呼吸リハビリテーションを実践することは、疾病・障害の予防につながり、治療にも役立ちます。

当センターは、障害者支援を実践する地域機関職員等と協力・連携し、専門的知識、支援技術等の情報を的確に発信する地域支援事業を今後も継続し、障害者の地域生活の質的向上に寄与してまいります。

(あらいゆきえ・あらいともこ 東京都心身障害者福祉センター)

【関連情報について】

○ホームページ
・東京都心身障害者福祉センターホームページURL
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shinsho/index.html
・COPD情報ネットURL
http://www.spinet.jp/