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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

横浜市の取り組み

教育の側から医療側に支援を求める

井上とも子

教育的支援

横浜市の発達障害児への教育的支援は、自閉症児を対象に、昭和47年から通級という形で情緒障害特殊学級において指導を始めています。通級とは、ほとんど毎日、地域の学校の中の学級で授業を受けながら、1週間に1~2日、数時間ずつ、その学校や別の学校に作られた特別な教室に通って教育的支援を受ける教育の形態を言います。

平成5年に文部省(現、文部科学省)が「通級による指導」を認めてから、横浜市も通級制の特殊学級(情緒障害学級)から情緒障害通級指導教室(情緒教室)に名称を改めました。対象も通常の学級に在籍する、知的障害のない高機能の発達障害児が中心となりました。そして、それまで培われた自閉症児に対する指導方法を、対象児の実態の変化に伴って発展させながら、今も教育目標を集団生活を円滑におくるための行動調節や、社会自立をめざすうえでの社会性の向上に焦点を当て、特別な教育的支援を続けています。

平成5年、市内小学校5校に設置された情緒教室に通う子どもたちは144名でした。今年度は8校に557名が通級しています。この間、中学校にも一つ、情緒教室が設置され、現在60名近い生徒が通っています。

連携の必要性

本市でも特別支援教育において、就学時に個別教育計画を作成し、1年ごとに改訂することを進めています。この特別な教育的ニーズの選定から指導目標・方針・内容設定までの個別教育計画作成にあたっては、適切で効果的な指導に結びつく、的確な実態把握が重要で、そのための医療からの専門的示唆が不可欠です。特に高機能発達障害児の障害特性は分かりにくく、その言動は環境やしつけ、教育対応に原因を求められやすく、適切に理解されません。分かりにくい実態を的確に把握するうえで、診断とともに個々の障害特性についての専門的見解と説明が必要と言えます。

情緒教室は高機能発達障害児への特別支援教育を進めるところであり、担当者も専門性の高い教師が配置されています。しかし、情緒教室では週に1回、3時間程度しか子どもと関わる時間がなく、より早く効果的な指導を開始するために短時間、短期間で的確な実態把握を行わなければなりません。そのためには、幼児期から継続的に関わりのある医療(療育)からの情報は、これまでの医療的対応のみならず、今後の医療方針や予後の予測も含めて非常に重要です。

また、子どもは日々成長し変化します。この成長の中で高機能発達障害児は、情緒の不安定さや感覚過敏などさまざまな特性を示すことが少なくありません。成長の過程で環境からの影響を受けたり、体調の変化が情緒の混乱を引き起こしたりなど順調にいかないことが多々あります。発達の側面からも医療的ケアの面からも、その時々の専門的な助言や支援は、実態に即した教育的支援の円滑な展開を支え、子どもの成長を支えることとなります。

連携の実態

横浜市は、教育では通常の学級に在籍する高機能発達障害児に対する情緒の通級指導(情緒教室)を方面別に展開する一方、医療においては障害のある乳幼児への早期診断と早期療育を進めるために地域ごとに療育機関を設置してきました。情緒教室の「方面別」と療育機関の「地域ごと」が、奇しくもかなり似通ったエリア設定になっています。

情緒教室の多くの児童は、その幼児期に療育機関において診断と療育を受けています。しかも、エリアを共有しているため、各情緒教室の児童は、幼児期にほぼ一つの同じ療育機関を経由しており、情緒教室と療育機関の連携がとりやすい理由とも考えられます。

全国的に情緒障害の「通級による指導」を見ると、横浜市は小学校就学時から通級指導を受ける児童数が特段多く、また、これらの児童のほぼすべてが療育機関を受診しています。これは療育のスムーズな教育への継続、連携の表れの一つと言えます。

また、療育機関と情緒教室の指導は、学年、年齢ごとに4~6名程度の小集団にし、複数の指導者が指導を進めるという形態が似ており、指導内容も集団学習への円滑な参加、マナーや社会性に焦点を当てている点でも同じと言えます。このことから保護者は、療育と同じような専門的な指導を、情緒教室でも受けられる安心感が得られるようです。情緒教室で医療との直接的な連絡や連携について了承を得る時に、療育を活用していた経験のある保護者は医療側と進んで連携をとってほしいと快諾が得られます。

高機能発達障害の子どもたちにとって、通常の学級に在籍するだけでは高まりにくい社会性は、年齢を追うごとに求められるものが複雑で高度になっていきます。情緒教室は、その発達に応じた指導を幼児期から引き継いで行う場所の一つであると言えます。

小学校の各情緒教室には、毎年20名程度の新しい子どもたちが入級します。1年生のほか、他の学年の子どもたちも新たに入級します。この子どもたちについて、保護者の了解のもとに療育機関の職員から情緒教室担当教師が、子どもの実態と指導歴、今後の課題についての意見や情報を得るため、エリアが同じである療育機関と教室ごとに連絡会議を持っています。また、必要に応じて、双方が連絡を取り合い、実態を報告し合ったりし、時には、一般的な薬や医療情報についても医療側に確認し、情報や示唆を指導や保護者支援に役立てています。

このほか、情緒教室担当者の専門研修の一つとして、教育委員会主催の特別支援教育関係の教職員研修体系に位置づけて「合同事例検討会」を年2回開催しています。この場には市内の情緒教室担当者は悉皆(36名)で参加します。各療育機関にも事前に案内がなされ、総数80名ほどの参加者の中で、医療、心理、教育、福祉各専門分野からの意見が交わされます。事例提案をする情緒教室担当者からは指導内容や経過を、療育機関からは児童の心理検査等を担当した臨床心理士から検査結果や実態を発表しあい、参加者との分析的意見を交換する中で、教師は実態把握の仕方や指導のあり方を学び、同時に事例にかかわる内容のみならず、指導実践に役立つ専門的知見を得ています。

今後の課題

横浜市では「障害児教育プラン」を策定し、医療や福祉の協力を仰ぎ、連携を深め、特別支援教育の充実を図ろうとしています。情緒教室はこれまでの連携の実績をもとにセンター機能を発揮し、学校と医療との連携拡大等、推進を果たすことが求められています。

(いのうえともこ 横浜市養護教育総合センター)