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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年11月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編 ●技のデパートをめざす、他●

提案:新井愛一郎 イラスト:はんだみちこ

新井愛一郎(あらいあいいちろう)さん

先天性弱視。28歳で初めて自分以外の弱視者と出会い、一人ぼっちの弱視者をなくしたいとの気持ちで、弱視者問題研究会で活動を始める。自分を素直に出すことによって、理解されにくい弱視という現状を変えていきたい。


技のデパートをめざす

昔、お相撲さんで「技のデパート」と言われた力士がいました。私の生活を考えるときに、このことが大切になります。 まずルーペです。片時も体から離せません。トイレに行く時でも人から「この書類は?」と聞かれる場合があるので、ルーペは、いかなる時にもポケットに入れておかねばなりません。また、小さな文字は、拡大読書器を使います。電話を受けながら、書かれた電話番号を相手に知らせる場合、ルーペを持ちながらでは、かなり大変な姿勢になります。こんなときに便利なのは、拡大写本です。ルーペなしで見える程度の、新聞の見出しくらい大きな太い文字で電話帳を作っています。メモを取るときは、6Bの鉛筆を使います。HBくらいですと薄くて見えないし、サインペンだと大事な書類に触れて汚してしまいます。 もう一つは「人」です。ルーペは丸いので、床に転がると随分と旅行(?)をします。周囲のみんなが大騒ぎで探してくれます。


脱いだ靴を間違えないために

靴を脱いで入る居酒屋で、店の人に「靴はそこに脱いでおいてください」と言われると、一瞬ドキッとします。きれいに並べてくれたり、出るときに同じグループの靴を出してくれたりする。でも、これが大きなお世話。いい気持ちになって、宴会がお開きになったときに「問題」が発生。ズラッと並べられた靴の中から自分の靴がわからない。私の靴も多くの革靴の中のひとつです。おぼろげなら見える私は、それらしいものを触って、履いてみる。ところが酔うと感覚も鈍くなるし、足もアルコールで伸縮するのか、なんだかしっくりこない。「これ自分のかな?」という心配がいつまでも続く。なるべく最後になるのを待つのだが、そうもいかないときがある。こんなことを回避するために、靴の中に名刺を入れておくことです。ティッシュなどを入れておくと店の人に片付けられてしまいます。安心して、ゆっくり飲むための秘訣です。


一番隅っこを確保する

たくさんのものから、ひとつを選び出すのが不得意なのが弱視の特徴です。大きい旅館の温泉場で自分の脱いだものをどこに置くのかという問題があります。温泉で、鼻歌でもやっている最高気分の時に、「どこにかごを置いたっけ」と不安がよぎります。下着の入ったかごに手を入れて確かめるのも嫌ですし。かごの場合や、番号のついたボックスに入れる場合がありますが、私は必ず隅っこの一番下か一番上を選びます。番号札はルーペや単眼鏡(片目だけの望遠鏡で比較的近くのものも見える)を持っていたらわかる場合がありますが、お風呂に入るときにそんなものは持っていきません。裸ですし、聞く人もいない場合があります。受付まで裸でのこのこと歩いていくのもなんか嫌ですし。それに隅っこの一番下は、姿勢的に取りにくい場所なので、空いている場合が多いのです。この「一番隅っこの場所取り」は、いろいろなものに利用できます。特に、補助器機が使えない状況下では、便利な工夫です。でも、人生は隅っこを歩きたくないものです。