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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年12月号

列島縦断ネットワーキング

熊本 地域福祉サービスのモデルづくりを行う「健軍くらしささえ愛工房」がオープン
~「ともに創る『地域共生』くまもと」をめざして~

熊本県健康福祉部福祉のまちづくり課

地域共生社会の実現をめざす、地域福祉支援計画「地域ささえ愛プラン」

近年、私たちの暮らしを取り巻く環境は少子高齢化の進展、家族機能やライフスタイルの変化、地域相互扶助の希薄化などにより大きく変わり、福祉のニーズも増大・多様化してきています。特に、高齢化率が21.3%と全国の7年先をゆく熊本県にとって、実効性のある高齢化対策の展開は急務の課題となっています。

このような状況を踏まえ、熊本県では、平成16年3月に、ユニバーサルデザインによる社会づくりの考え方を基本に、子どもからお年寄りまで、あるいは障害の有無にかかわらず、すべての人が住み慣れた地域で安心してその人らしく暮らせるようなまちづくり「ともに創る『地域共生』くまもと」の実現をめざし「熊本県地域福祉支援計画~地域ささえ愛プラン~」を策定しました。

その中で、「地域の『縁がわ』づくり(地域の拠点)」、「地域の『結い』づくり(地域の支え合い)」、「地域の『ちから』おこし(地域のパワーアップ)」を三つの柱に掲げ、市町村やNPOなど民間団体の個性豊かな取り組みを支援するとともに多様な福祉サービスのあり方を発信していくこととしています。

「地域の縁がわ」モデルづくり、「健軍くらしささえ愛工房」

昔から、日の当たる「縁がわ」は、お年寄りや隣近所の人が情報交換をしたり、子どもたちが遊ぶ様子を見守ったり、若い母親に子育ての知恵を伝えたり、いろいろな人々の交流の場でした。

本県では、人々が日々の暮らしに安心を覚えることができ、だれもが気軽に集い・ふれあうことができる「地域の縁がわ」を再生し、新たなコミュニティづくりを進め、地域の支え合いの輪を広げていきたいと考えています。そのための具体的なモデルとして、平成17年10月20日、熊本市に「健軍くらしささえ愛工房」(以下「ささえ愛工房」という)」をオープンしました。

ささえ愛工房は、熊本市の東部にある県営団地の建て替えに併せて、1階部分に整備した福祉施設で、公募によって選ばれたNPO法人を中心として地域住民、ボランティア等とのパートナーシップにより運営されています。

建物の広さは約1000m2、くつろいだり食事をしたりできるデイルームや厨房、浴室のほか、親子連れが集えるプレイルームや授乳室、オープンカフェ風の喫茶コーナーなどを備えています。この施設においては、地域の高齢者や障害者などの在宅生活を24時間、365日支えるための通所サービスや訪問サービスなどが行われます。また、子育て中のお母さん方が親子連れでくつろぐことができ、また、情報交換の場ともなる交流の場も提供されます。また、障害をもつ当事者がサービスの担い手となる喫茶・軽食サービスなども行われます。

また、このような活動を通して、高齢者や障害者、子どもや子育て中の親など、地域のさまざまな人々が集える「場」となることをめざすとともに、このような交流の中で、多くの人々にボランティアとして参加していただき、だれもがサービスの受け手であるとともに、同時に担い手であり、まずは自分ができることをやってみるという、地域共生を育む場にしていきたいと考えています。

得意分野を持つ団体と地域が連携

ささえ愛工房は、行政(県)が建物を整備し、この施設をNPO法人に貸し付けることにより、NPO法人が持つノウハウや自由な発想・工夫を生かして地域と一体となった新たな地域福祉サービスを創造していくことをめざしています。

この施設の運営を行っているNPO法人「おーさぁ」は、高齢者福祉や障害者福祉ですでに先駆的な事業実績のある社会福祉法人やNPO法人等を中心に、地元自治会や商店街が連携して、新しいNPO法人を立ち上げており、さらに地域住民が、法人運営そのものに参画していく仕組みを持った団体です。

団体名である「おーさぁ」はデンマーク語で「~も一緒、~もまた」という意味を持つ単語に由来しており、さらに熊本の方言で「多い」という意味も持っており、多くの人々や団体が手を携えて「地域で共に生きる」ための活動を行っていきたいという思いが込められています。

「地域の縁がわ」を支える人材育成にも

ささえ愛工房では、福祉サービスの提供と併せて、地域住民の支え合いの意識を高めるための普及啓発活動や、「地域の縁がわ」を支える人材育成にも取り組んでいくこととしています。

具体的には、小学生や中学生を含めた地域住民を対象としたフォーラムの開催やボランティアを希望する方を対象とした実体験を通じた育成講座等の開催などです。すでにこの健軍地域では、さまざまな福祉活動、市民活動に取り組んでいる方々等による新しい地域福祉システムの構築をめざした研究会「健軍地域福祉塾」も開催しています。

さらに、実際の地域福祉サービスの提供に取り組む中で、人材育成プログラムの開発や県内各地域からの実習生の受け入れ、「地域の縁がわ」を支える地域リーダー育成に向けた人材の育成・供給にも取り組んでいくこととしています。

地元商店街とも協働した福祉でまちづくりをめざして

このささえ愛工房と隣接して、地域住民の身近な買い物場所として発展してきた健軍商店街があります。健軍商店街では、高齢者や障害者などだれもが安心して買い物ができる仕組みづくりをめざしており、従来から買い物荷物を手軽な値段でタクシーで宅配する事業や、電動スクーター貸付事業に取り組んできました。

さらに、ささえ愛工房のオープンを契機に、NPO法人「おーさぁ」が養成するボランティアが「買い物パートナー」として、商店街での高齢者や障害者などの買い物に同行して、買った荷物を運んだり、店員さんとのコミュニケーションの手伝いをするなどの健軍商店街と連携した総合的な買い物支援サービスの仕組みづくりも始まっています。

「地域の縁がわ」を福祉でまちづくり全国モデルへ

今後、ささえ愛工房での取り組みを、地域福祉サービスのモデルとしてだけでなく、福祉でまちづくりという地域活性化の全国モデルに育てていきたいと考えております。また、そこで得られたノウハウやサービスの仕組みを、市町村合併等で使われなくなった公共施設、空き店舗、空き教室等の地域資源を活かした取り組みに活用してもらい、各地に「地域の縁がわ」を普及させていきたいと考えています。