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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年4月号

「チャレンジャー」における就労支援の取り組み

新堂薫

はじめに~機能分化「就労を重視し、高い工賃を支払う施設」をめざして~

社会福祉法人武蔵野千川福祉会は、30年前に市内の市民運動で始まった「作業所づくり運動」が原点です。2000年の法改正のときに、社会福祉法人を取得しました。これまで五つの小規模通所授産施設・作業所、グループホーム、ショートステイ施設を経営してきました。

法人の特色に働く場の機能分化があげられます。千川福祉会では、1992年の厚生労働省の「授産施設のあり方に関する提言」(以下、提言)を参考に機能分化を進めてきました。その提言では、授産施設を「就労を重視し、高い工賃をめざす福祉工場」「訓練と福祉的就労(作業)の機能を併せもつ授産施設」「社会参加、生きがいを重視し、創作・軽作業を行うデイサービス機能を持つ施設」と三つの機能が提言されています。

チャレンジャーでは、「就労を重視し、高い工賃を支払う施設」の機能をめざしました(■図1■)。

就労支援における職員の意識改革

しかしながら、これまで「手が空かない程度に仕事があればよい」という程度の意識しかなく、まず授産に対する職員の意識を変えていくことが一番の課題でした。もともと福祉サービスにおける対人援助と経済活動は相反するという根強い意識があり、この意識を払拭して生産活動に対する知識や技術を高め、利潤を追求していくことは、対人援助の仕事を低下させてしまう、もしくは低下させなければ実現しないと考えていたからです。

ですから、対人援助サービスも授産活動もどちらも落としてはならない、職員としてこの仕事のプロとして、どちらも両立させなければならないという意識に変え、実践できるようになるまで相当な時間がかかりました。

働く力を引き出すための改善工夫

1.作業種目の見直し~選択と集中~

まず、作業種目の見直しを行いました。知的障害のある人にとっては、生産の内容が分かりやすく、仕事に対する誇りや楽しみを持つことができる作業種目を模索しました。そして、得意分野で売りにしていくことができる封入封緘作業の仕事を中心に確保と開拓を進めました。封入封緘の作業は、利用者が関わることができる工程が多くあり、社会の中でどのように役立っているかが分かりやすい作業であったこと。さらに、機械導入が進められること、作業に関する知識や技術を積み重ねて生かすことのできる作業でもあったからです。また、封入封緘作業は、必ず厳しい納期があり、この課題を克服していくことが工夫や改善にもつながっていったのです。

そして、小規模事業所の長所を生かして、仕事に対しては「即効性」と「柔軟性」を大切に進めてきました。

2.利用者の就労に対する改善

利用者の就労時間をそれまで8時45分から16時までだったものを17時までに延ばしました。「働く社会人」として当たり前の就労時間としたわけです。また、月々行っていた行事や振替休日も次第になくしていくことで受注先の期待にも応えることができるようになってきました。

また、作業も立ち作業に切り替えました。そのことによって、仕事の流れや動きがこれまでより良くなりましたし、何より広く場所が使えます。無理かなという心配はありましたが、立ち作業を導入することで座って行うと内職のような雰囲気になってしまう仕事も、立ち仕事で行うことによって、ダイナミックに仕事が展開するようになりました。

この改善は、利用者にとって苦労は大きかったようですが、「自分たちの仕事」という意識を持たせるにはたいへん意味あるものでした。

3.生産効率を高める工夫

生産性を高めていくために、具体的には、まず生産現場の環境の見直しを行いました。作業台の高さ、配置、機械の配置、部材や完成品の置き方、ゴミ箱の配置など利用者の動線、生産の工程に合わせて検討し、工夫を進めました。

その一方で、生産管理の視点から生産工程の見直しも進めていきました。「運搬、加工、停滞、検査」この四つの生産の要素をどう組み合わせれば効率よい工程になるか、利用者の特性や障害に合わせて検討を加えました。そのことが、作業を標準化させることにもつながりました。それまでは、検査を何度もするようなムダをしたり、ゴミ箱を傍らに置いて仕事をしないために利用者がゴミを捨てに何度も出歩いたり、未完成の停滞の製品が山積みになっていたりと、改善しなければならないことがいくつもあったのですが、生産管理を進めていくことで、少しずつ改善されていきました。

4.利用者の働く力を高める

利用者にとって、「働く」ことが達成感、満足感、存在感につながっていくような取り組みも大切にしました。取り組みの中で大事なことは、利用者の能力に合わせた仕事の提供や作業の展開、環境設定などです。利用者が自分の仕事に誇りを持ち、能力を発揮できる環境を作り出すこと、そのことがとても重要であり、職員としての専門性が問われることになります。

また、チャレンジャーでは利用者への支援・指導を「福祉的効果を高めるもの」と「就労的効果を高めるもの」の二つの要素に分けて実践の検証を進めています。二つの要素の効果を高めていく実践が、利用者の「働く力」を人格全体から高めていくことにつながっていくと思います。そして、「福祉的効果を高める支援」「就労的効果を高める支援」のどちらにも同じように軸足を置き、利用者一人ひとりの支援・指導を進めて充実させていくことが大切です(■図2■)。

そして、「働く力」が育った結果は、工賃で示すことが「働く喜び」につながります。チャレンジャーでは1か月10万円の工賃を一つのゴールにしていますが、10万円になったときの喜びの姿は本当に感動的です。

今後の課題

今後の取り組みとして、新たにグループで企業に出向いて就労することを始めました。施設の外で働くことによって、これまでと違った緊張感が生まれます。また、現在では3分の1の利用者に月額10万円の工賃(最低賃金並み)を保証していますが、この実績を活用して、今度の障害者自立支援法における就労継続支援の雇用型・非雇用型へ事業移行を図り、障害のある人が働く場の選択を地域で可能になるように進めたいと思います。

(しんどうかおる 小規模通所授産施設「チャレンジャー」施設長)

〈参考文献〉

「社会就労センター制度改革関係資料集」「社会就労センターあり方検討委員会最終報告の具体化に向けた取り組み指針」全国社会福祉協議会・全国社会就労センター協議会発行